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俺だけの、異世界転生記  作者: とんかつ
第一章 始まりの時
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第六話 始まりを告げる音

 宿に入り、食堂の椅子に座った瞬間。

 俺はなんともまあ、予想通りの事実を告げられた。


 ていうか命助けてもらったぐらいの信頼で人に王女だって名乗っていいの? 馬鹿しかいないの?


「それで? その第一王女様がこんな街まで何しにきたわけよ?」


「あのねぇ……いいえ、なんでもないわ。私がこの街に来た理由は――」


 これも予想通りというか想像通りというか、国の歴史がどうだのという長ったらしい話を聞かされた。

 全部話してちゃ俺もめんどくさいので、とりあえず重要そうなところだけをまとめるとこういうことらしい。


 ――ファリスタ家には、代々受け継がれてきた宝物があった。

 その宝物を手に取る資格を得たものは、決まって厳重な警備の下でその宝物を守ってきたらしい。


 しかし今回、その大事な宝物は呆気なく盗み出されてしまった。

 そして宝物を盗んだ犯人の足取りを調べたところ、この街に行き着いたそうだ。


 いやだから、そんな重要案件をどこの馬の骨かも分からない俺に話していいのか。

 この王女、最初こそ警戒していたものの、俺が信用できると分かった途端にこれだ。

 異世界において重要な立ち位置の奴に、まともなのはいないのかと。


 しかしどうしたものか。この事件、俺にはどうやら解決できるようなのだ。


「とりあえず、私はもう行かなきゃ。助けてくれてありがとう。さよな――」


「ちょっ、待て!」


 早口で捲し立て宿を出ようとするキアーナにでも俺はぎりぎりのところで声をかけた。

 そして振り向いた彼女にポケットから取り出した物を突きつけた。


「その探し物って、もしかしてこれのことか?」


 それを見た彼女の表情が、一瞬固まった。

 そして次の瞬間。


「ちょっとあなた! それをどうやって盗んだの!? どういうつもり!?」


「いや待て! ストップ! 落ち着け!」


 詰め寄ってくるキアーナを手で制し、俺は落ち着くように言った。


「これは、さっきの路地裏の不良が持ってたんだ。売れば金になりそうだったんでつい――」


「はぁ……」


 俺の答えを聞いて、彼女は呆れたような表情を見せて言った。


「あのね? 一歩遅かったら大惨事になってたのかもしれないんだけど?」


「知るか。俺がこれが大事なものだと気づいたのは今だ。一歩遅かったら俺はそれを知る由もなかったし、その大惨事とやらを防ぐ術だって無かっただろ」


「な――」


 俺の言葉を聞いたキアーナの表情が、呆れから一変し険しくなる。

 そして彼女は今までのどれよりも最も暗く冷たい声で言った。


「あなた、どういうつもり? 仮にも第一王女に向かって――」


「ならその偉大な第一王女様が、一体ここに来て何をしたって言うんだ?」


「――――」


 キアーナの眉が、ぴくりと動いたような気がした。

 しかし俺は言葉を止めなかった。


「お前だけで、あの路地裏から抜け出せたのか? 仮に抜け出せたとして、あの男がこれを持っていることに気がつけたのか? お前はここに来て、一体何ができた?」


「あなた、黙って聞いていれば……」


 ようやく口を動かしたキアーナは、俺に向かって静かに怒りをぶつけた。


「さっきから人のことをお前だのなんだのって、言葉遣いぐらいしっかりしなさいよ?」


「言葉遣いがなってないのはどこのどいつだ。公の場でぐらい、丁寧に喋れないのか?」


 本題に触れず、相手自身のことに関して追及する。

 そういうやつは決まって、同じことで追及されるのだ。


「あなた、さっきと言ってることが違って――」


「違わねえよ。ここは誰かさんのおかげで、立派な公の場、だろ?」


 俺に言われて、キアーナはようやく周囲の異変に気づいたようだ。

 俺達がなんだかんだ騒いでいたせいで、既に周りからは無数の視線がここに集中されている。


「気づいたなら最後に止めだ。お前の一番の嘘を壊してやる」


「……何を」


「――お前、第一王女なんかじゃねえだろ?」


 空気が凍りつく音がした。

 この場に居る全員の表情が困惑で固まっているのではないかと思ってしまうぐらいだ。


「一つ、言ってやるよ」


「――――」


 俺は右の手のひらを開き、中に握っていた物をもう一度彼女に突きつけた。

 目の前にいる女の視線が、俺の手の中にある『宝物』と俺の顔の間をさまよっている。


「これ。あの不良から適当に貰ったやつなんだけど」


「――――」


 普通に考えてみろ。

 どういうことがあればただの不良の手に王家に伝わる宝物とやらが舞い降りてくる。


「てことで、これは要らないからお前にやるよ。じゃあな」


「ぁ、まっ」


 そうして俺が宿の戸を潜り抜けた瞬間だった。


 すぐ近くで、爆炎が巻き起こる音がした。

 轟音が突風とともに俺の体を叩く。


「――ぇ」


 解けかけていた宿の中の硬直が、今度は街全体に広がって始まった。

 それはすべての終わりを告げる始まりの音だった。

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