第二話 スキルの行使には
俺がいるのはシロトの街の正門から少し離れた場所。
何故なかなか入らないのかと思うかもしれないが、仕方の無いことなのだ。
「だってあれ絶対お金とか要求されるやつじゃん。あの駄天使が何も渡さなかったから俺無一文だよ?」
こういうのは大抵、通行料とか言って街に入るのに金を取られるやつなのだ。
しかも塀の上には最新式の魔法結界とか張られてたりして、入ったら速攻でバレてブタ箱送りにされるやつだ。
「しゃーなしだ。早速『あれ』、使ってみるか」
俺は頭の中で、ある固有名詞を強く念じる。
すると俺の目の前に、不透明な板のようなものが現れた。
「今回はこういうのを創りたいから……」
俺は創りたいものを想像しながら、板の上で指を滑らせる。
創るために必要な手順はたくさんあるが、今回は結構単純な感じなのですぐに終わりそうだ。
ていうか終わった。
「うん、これでよし。じゃあ早速……」
俺は再び街の正門に目を向け、今度はそのまま歩き始める。
門の真正面に来ても、門番は俺に話しかけてくる気配は無い。
この調子だと、どうやら成功みたいだ。
俺はそこから真っ直ぐ、門の両端に一人ずつ立っている門番の間を通り抜ける。
門番がこちらを止める様子はない。もちろん俺は金など払っていない。
街の中に入り、俺は通りを抜けて裏路地に入る。
――そこでようやく、俺は使用していたスキルを解除した。
「ふぅー。バレないってわかってても結構緊張するな、これ」
俺が使っていたのは『超潜伏』というスキルだ。
と言ってもこのスキルは世の中には全く出回っていない、俺のオリジナルのスキルである。
何故俺がそんなスキルを持っているのか。
まさか転移特典で、隠れるだけのスキルを貰う理由は多分無い。
なら俺は、どうして『超潜伏』というスキルを持っているのか。
「作って造って創れちゃう、万能でありチートすぎるスキル、『創造』のお陰なのだ!」
説明しよう! チートスキル『創造』とは、たとえどんな物であろうと創れちゃう有能で万能なスキルである!
……説明するだけであればこの言葉だけで十分すぎるほどなのだが、もう少し細かく言うのであれば、創造のための設定などに時間がかかることや、細かい概要を設定するために指での手動入力が必要だったりすることも付け加えられる。
「でも本当に、何でもかんでも創れちゃうんだよな。さっきみたいにチートでチートを創れたりもするし」
とりあえず身の危険を守るために、身体能力を強化するパッシブスキルは創っておこう。
強化って言っても全般的な能力が千倍になる、言うなれば狂化なんだけどね。
「――俺のテンプレセンサーが、路地裏の奥へ進めと囁いている」
スキルを創り終わった瞬間、何か嫌な予感が俺の体を走り抜けた。
俗に言うテンプレというものが、今この状況に当てはまっている気がする。
ていうか完全に当てはまってるなこれ。
「こういう異世界転移モノだとまず主人公にチートな力が備わって……」
『創造』なんてまさにそれだ。
「次に路地裏や森の中で何かに襲われているヒロインを貰った力で助けるんだ」
今俺が居るところはどう考えても路地裏だ。
建物と建物の間に挟まれた、狭苦しくて暗い道。これで路地裏じゃないってのはちょっとどうかと思う。
「つまり俺はこの後」
「きゃあああぁぁー!」
俺が展開を予測して言葉を発しようとした瞬間、大地を劈くかのような悲鳴が路地裏に響き渡る。
ほーら、言わんこっちゃない。
すぐに路地裏なんかに入り込んで、すぐに襲われるんだよな。
「――馬鹿か」
俺は悲鳴がした方へと全速力で走りだ
「うわぁあってあああぁぁ!?」
体が追いつかない。目が追いつかない。
普段の千倍に急上昇した身体能力に、千分の一のパワーで充分だと思っている体はついていくことが出来ない。
建物の壁と思しきレンガの列が、物凄いスピードで後方へと流れていく。
顔に吹き付ける風の威力が尋常じゃない。
肩の関節が外れてしまうんじゃないかというレベルで空気の圧が叩きつけられる。
「ま、ってまってまって」
止まらない。
勢いが付き過ぎたのだ。
「そう、だ」
動きを強制停止させるスキルを創ればいい。
俺にはその力がある。
「えっと、ここはこうで……あぁ、もう!」
指がまともに動かない。
顔の前に持ってきて止めておくだけでも無謀なのに、その中で文字入力とかいう精密な動きをしようと思うのが馬鹿だった。
「もうこれでいいや! ――『停止』!」
俺がスキル名を叫んだ瞬間、周りの風景が一瞬にして静止する。
違う、止まったのはあくまでも俺であって、周りは元々びくともしていないのだ。
「――――」
声が出ない。
そうか。体全体が停止しているせいで声すらも出せないのか。
――解除。
「ふーっ……」
きつ過ぎた。ていうか迂闊すぎた。
スキルという万能な力に夢中すぎて、よく良く考えれば分かることを思いっきり見落としていた。
「どっか宿見つけて泊まろう。もう疲れた」
俺はそうして、日光の届かないジメジメとしたこの路地裏から抜けるべく、歩を進めて――
「おいてめぇ、ここで何してやがる。そもそもいつからそこに居た?」
「――あ」
そうだよ馬鹿かよ忘れてたよ――ヒロイン救出イベント!
「あれ待って、何か勝てる気しない」
身体能力は確実に上昇している。それはついさっき身をもって体験した。
だが今の体が扱いきれる気がしない。それこそ身をもって体験したばかりなのだから。
だがそれでも。
「異世界来てからの初戦闘、きっちり倒してきっちり勝ってやる!」