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俺だけの、異世界転生記  作者: とんかつ
第一章 始まりの時
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第一話 物語の始まり

 目が覚めると、俺は白い部屋に居た。

 いや、部屋という表現は正しくないのかもしれない。

 何せ俺がいる空間には壁も天井もなく、色の無い空と地面がどこまでも続いているだけなのだから。


 そして立ち尽くす俺の前には、白衣のようなものに身を包んだ何かが居た。

 何故『何か』という言い方なのか。

 その原因はこの『何か』の容姿にある。


 顔立ちや体付きこそ人間の女性に似ているが、短い銀髪が被さるように生えている頭の上には金色の輪っかが浮いており、背中には真っ白な羽がついている。

 ていうかそもそも地面に足ついてない。


 つまりこれはあれだ。

 俺は死んだってことだな。


 じっとこちらを見つめ微笑んでいるその『何か』に、俺は意を決して話しかける。


「あの、すいません。俺に何があったんでしょうか。そもそもここって……どこですか?」


「ここは天界。あなたは山登り中に足を滑らせ、そのまま転がり落ちて……亡くなったのです」


 ――だっさ!


 俺、死因、滑落事故! だっさ!


 何でだよ、普通は通り魔に刺されそうになったあの子を身を挺して庇ったとか、そういうことで死ぬんじゃねえの!?


「え、えっと、それでここが天界って事はあなたは神様……いや天使さん、ですかね?」


「えぇ、その通りです。転生させる為に出会う人にはよく神様と間違えられるんですが、よく分かりましたね」


 意外そうな顔をして、何か――天使はそう言った。


 何故俺が神様ではなく天使だと分かったのか。

 いや勘じゃないからな?


「――心が読めないのは確認してたんで。神様がもし心を読めるとするなら、読めない貴方は天使さんかなーって思いまして」


「……なるほど。ただの人間にしては、頭が回るようですね」


 そうか、なるほどな。

 やはり人間に対して尊敬とか信頼の感情は無いみたいだ。


 俺が生きてきた世界だってそうだった。

 特に江戸時代なんて身分の格差が激しく、百姓達はいつも下を見て「あれよりはマシだ」なんて思いながら生きていたんだとか。


「ただの人間じゃない人間とか、それもはや人間じゃないですよ?」


「…………」


「はは、すいません。すぐに人を煽ったりしちゃうのは悪い癖なんです」


「……っ」


 下に見ている者の口から浴びせられた、煽りの言葉。

 人は自分よりも下の立場だと思っている者に舐めた態度を取られると、すぐにカッとなってしまうのだ。


 天使にも人の感情論が通じるのかと思ったが、やはり俺の推理は間違っていなかったらしい。


「苦しいんで、下ろしてもらえます?」


「…………」


 俺からの煽りの言葉を受けた天使が息を呑んだ瞬間に、俺の体は見えない力によって高く持ち上げられていた。

 持ち上げる起点とされているのであろう首が締めつけられ、気管が狭まって呼吸が苦しくなる。


 見えない力や、部分的に感じる握られているかのような感覚。


「魔力、魔法、スキル」


「……!」


「もしくは天使や神様にのみ扱える特別な力、ですかね?」


「……くっ」


 俺がそこまで言ったところで、ようやく持ち上げられていた体が解放される。

 俺は前もって着地の準備をしていたため、突然の落下でも対応して転ぶことなく着地できた。


「首が何かに掴まれているようだった……『見えざる手』ってことか?」


 いや待て、なんかこのネーミングだと色々まずい気がする。

『不可視の手』ってことにしとこう。うん、そうしよう。


「それで本題は、何でしょうか? まさかあなたは死んじゃいました残念でしたってことを言うためだけにここに呼んだんじゃないんでしょう?」


「……分かっているのに態々聞くなんて、それも悪い癖ですか?」


 天使の質問にも口元を歪めるだけで何も答えない俺を見て、天使は深く溜め息をつく。

 そして最初に見せていた胡散臭い笑顔をもう一度見せて俺に言った。


「貴方には、今まで生きてきた世界とは違う世界に転生して頂きたいのです」



――――――――――――――――――――――――――



 再び目が覚めた時、俺の視界は木々の緑で埋め尽くされていた。

 露出した腕に感じる冷たくこそばゆい草の感触を受けながら、俺はその場に立ち上がった。


 改めて周りを見渡してみても、やはり目に映る景色は変わらない。

 葉が生い茂っていて幹の太い木や、地面に生えていて、短かったり長かったりする雑草。

 青色の空が見えていた時とは違い、本当に緑ばかりの風景だ。


「それであっちにあるのが……」


 俺は深く続いている森の景色に背を向け、反対側の景色を見る。

 するとそちらには先程まで見ていた森の風景はなく、広い草原と、そのあちらこちらに点在する街が見えた。

 その中で一番近いのが、俺から百メートルも離れていないところにある『シロトの街』だ。


「あの天使にまず最初に行くべきところだって言われたし、とりあえず行くか」


 新しい人生と冒険の始まりの第一歩。

 俺は地面を強く踏みしめ、街へと歩いていった。

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