スぺパイ!第1話 ―「恒星騎士誕生」
※このストーリーはフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。
<序章 -「1961年 バチカンにて」>
961年12月 バチカン−
時のローマ教皇アンジェロ・ロンカッリ:ヨハネ23世は、79歳のゆったりとした足取りで、枢機卿モンティーニを従えて、クリスマスミサの差し迫った慌ただしい道のりをシスティーナ礼拝堂に向かっていた。
この日、システィーナ礼拝堂では、クリスマスの成功を願うオリエントミサが行われるため、各国の司教達が集まっている。
「私は、イタリア人ではあるが、旧来のラテン語のミサは好きじゃなくてね。古臭くて・・・是非、君の代になったなら廃止していただきたいものだ。」
モンティーニはヨハネ23世の飾らない態度と親しみやすさ、ユーモアのセンスを敬愛していた。彼はこの教皇の側にあって、司教とは厳格なだけは務まらないものと学んだ。
さて、システィーナ礼拝堂に近づくと、各国からやってきた大司教、司教達が教皇の元に駆け寄った。
すべての内容は5年前の3月より頻繁に現れていた、神託及び聖痕の発祥事案に対するバチカンの正式表明を求めるものであった。司教達の中には自身が神託を受けたという者もあったが、教皇の言うことは一貫していた。
「すべての事象に惑わされること無く、只、キリストの愛を拡めるため、あなたの役割を全うするのみです。」
システィーナ礼拝堂の控室に着き、教皇は質素で気品の漂う椅子に身を落ち着ける。
「コーヒーなどいかがでしょうか?カプツィオン修道会で流行っている飲み方なんですが、スチームミルクとコーヒーを混ぜたもので、とても体が温まります。本来ならばこういった物も贅沢品だとは思いますが、庶民の暖に一躍買っており、黙認しております。」
冷気に触れ、教皇の体調に気を使ったモンティーニがそう会話を切り出した時だった。北側の窓のペルシャ製の重たいカーテンが大きく閃いた。
「窓が空いておりましたな。これは失敬。」
モンティーニが窓とカーテンを締め切った時、その手に人影が触れた。暗くなった執務室に教皇とモンティーニ以外の三人の影が揺らめく、各々の影には肩口から翼のような物が生えていた。
「大天使だと・・・」モンティーニはそれ以上は、顎が動くのみで声にならない。三人の影のうち、剣を背負った者が一歩前に出た。
「あなた方は我々の啓示を預かりし者達であると認識している、しかしながら世は曲がり人々の心は我々の託宣より離れてしまった。然るべくして、我々はあなた方を始め、人類に、改めて託宣を啓示せねばならない。あなた方は『否』と言うことはでき無い。あなた方の出実が我々と共ににあるからだ。」
アンジェロはゆっくりと立ち上がり、両手を開きながら三つの影に語りかけた。「友人達よ、真理を伝えに来たあなた方を祝福しましょう。ところで、一つだけ、あえてお尋ねしたい事がございます。この託宣はエロヒムのものでしょうか?」
剣を持つ者の顔に狼狽の色が現れる。
「我々を伏して拝すことは容赦したとして、エロヒムの神意を疑うとは!決まっていよう。これは、エロヒ・・・」
「エロヒムのものではない。」剣を持つ者を制して真ん中の一人が割って入った。
「我々は審判を言い渡しに来たのでは無い。もはや、エンリルとエンキにはこの世界の支配権が無い。あなた方が知っている通り、主がアセッションを受けてまもなく2000年を迎える。あなた方は許されていたし、許されたはずであった。少なくとも16年前までは・・・それでよかった。
今、我々は、あなたがたの世界に対しての自身の意向を押し示すことを許されていない。従って、あなた方の内で、自らが "独自で考え、実行し、最善を尽くす者"を選出していただきたい。これが、この度の託宣となる。」
「預言が否定されている・・・」モンティーニは声に漏らしてしまう。
剣を抜こうとする影を制して3つ目の影が口を開く。
「主が、語られた愛においては何の変哲もありません。ただ、あなた方が自ら決めなければいけない時節に達したという事です。」
続けて真ん中の影が言葉を発する。
「既に、大いなる争いの火種はくすぶりだしている。それは我々に元を発する事でもあり、あなた方がよく知っている事でもある。事実、預言がその通り完遂されてしまえば、ありえない程の命が屠られることになる。そんなことは、銀河のルールでは許されていい事ではない。事実エンリルは咎めを受けたのだ。それが主の十字架と引き換えに、人類だけでなく我々も許しを被った。
だがしかし、人類の傲慢は銀河のルールとしては許しがたい領域に達してしまった。しかし、エンリルとエンキは人類への干渉を罰せられた存在だ。
・・・既に時間がない。あなたがたには聞き入れていただかねばならない。あなた方は "独自で考え、実行し、最善を尽くす者" を選出し、彼にこの剣を携えさせて欲しい。そこまでが、今の時点の、あなたがたへの託宣になる。」
真ん中の影はモンティーニに鞘に納められた剣を渡した。
「よろしいか?これから10年の時を経てはいけません。速やかに、しかし、思慮深く選出してください。いずれ、また来ます。」
そう言い残すと影達は消えた。
モンティーニは鞘から剣を抜こうとしたが、いっこうに抜けなかった。
アンジェロは彼に言った「正しく選出された者でなくては抜け無いという事です。」
「もはや、私の命の日も短いのにも関わらず、飛んだ託宣を受けたものです。仕方が無い、私はこれから2年、寝る間を惜しんで、あなたに私が知りうる限りの全てを話しましょう。私が話し終え、然る後、世界中を周り、彼らの言う"独自で考え、実行し、最善を尽くす者" を探さなければいけません。」
そう言い終えると、ヨハネ23世は
「めっきり冷えましたな、先ほど教えていただいた"カプツィーノ"をいただきたいのですが、よろしいですか?」
「教皇、恐ろしくは無かったのですか?」モンティーニは訊いた。
「大天使は言ったではないですか?『主が、語られた愛においては何の変哲も無い』と。これは、キリスト教者にとってはこの上無いプレゼントですよ。」
そう言って、二人はカプチーノコーヒーを啜った。
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<Chap1 -「火星にて」>
2017年10月15日 火星−
5年前より探査ローバー“キュリオシティ”によって送られてくる画像は天体ファンを毎回ドキドキ・ワクワクさせてはいるものの、それとはまた別で、秘密裏に火星における開拓は進行しており、人類と異星人の協力によって大規模コロニーが建設中であった。
異星人との接触をなかったことにする風潮は今も昔も変わらないが、少なくとも地球には20社近いの異星人のテクノロジーを有する企業・団体が存在する。
アメリカのSilver rabbit社は、エンリルと呼ばれているおおいぬ座シリウスよりやってきた異星人とアメリカンユダヤ系の会社で、表立ってはロッキード・マーティン社より小型核融合炉の研究を請け負っているが、実際には、恒星間移動のテクノロジーを、人類にどういう段階を経て引き渡すか?と言うシナリオライティングを主業としている。
勿論、諸々の異星人たちの手により火星は既に開拓されており、いくつかの大規模コロニーが建造され、またこのコロニー間で何度か大規模な戦争が起こってはいるものの、ここ近年、アステロイドベルトの内側の移住・生存における基本協定が各異星人間で取り交わされたことにより、比較的平和な状態が続いている。
Silver rabbit社は、2007年、NASAより依頼されて火星コロニー建設のための用地買収をした。但し、この用地買収は非常に強引なものであり、反対勢力との紛争が勃発するほどであった。この紛争に対し、アステロイドベルト内部運用委員会は火星に積極的に関与し、一端紛争は収まっている。
この日、Silver rabbit社のシリウス人スタッフは、現在の進行状況を地球人スタッフ及び数か国の政府の高官にお披露目する事になっていたが、そこで事件が発生した。
Silver rabbit社は開拓作業員として宇宙空間で犯罪を犯した囚人を雇っており、この囚人が反乱を起こしたのだ。
地球人スタッフを載せて地球⇔火星間を移動する移動艇が奪われ、シリウス人もろとも視察に来た地球人は惨殺された。
月にある、アステロイドベルト内部運用委員会、通称AIC(Asteroid Belt Inner Consults)には、この火星での暴動直後にすぐ連絡が入ったが、事件はほんの一瞬の出来事でどうすることもできなかった
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<Chap2 -「月にて」>
ここは月、“既知の海”にあるアステロイドベルト内部運用委員会、通称AICの拠点である。
彼らは基本的にシリウス系星(太陽系もここに入る)と呼ばれるプレアデス、シリウス、プロキオン、レチクル、地球人で構成されており、上位組織としてオリオン評議会の監視下に置かれている。
1995年、彼らの手により、火星域より内側の太陽系には円盤状の時空間バリアが張られ、アステロイドベルトにある4拠点(内と外で対になっており合計8拠点ある)のハイパーゲートを使う以外での渡航は制限され、このゲートを通る際に「アステロイドベルトの内側の移住・生存における基本協定」へ合意することを大原則とした。
「ボス、主任! 火星から緊急入電です。」
ロフト状の2重構造の上部階、コントロールパネルが張り巡らされたデッキから一目で異星人とわかる犬顔の女性(頭から角が生えており、羊のそれに近い)が階層下の子供ほどの背丈の宇宙服の二人を呼んだ。
この二人の宇宙服と思われる頭部にはドーム型のヘルメットがついており、スモークスクリーンが張られてはいるものの、脳ミソともスパゲッティーとも取れるよううな気味の悪い内容物が、時折、若干透けて見える。
「ああ、はいよ!すぐ映して。」
“Cassina”の刻印がある銀色のソファーに腰かけた二人の前に2×1mの半透明なスクリーンが二人の前に展開される。(※Cassinaはイタリア製の高級家具である。)
すると、そこには手足や胴体が切断された20名近くの遺体が映った。
「報告者がいないな・・・」
「カメラをオンにした瞬間絶命したんじゃない?」
奥で飛び立つ飛行艇が見える。
「時空湾曲を確認しました。ハイパードライブに入る模様です。
あっ入りました。移動先識別不可能!」
上部階から、犬顔の女性が緊迫した声で告げる。
「ピンポーン!ピンポーン!」
ふざけた呼び出し音が鳴ると、スクリーンに別のウィンドウが立ち上がる。
中に映ったのはファンタジー小説に出てくるダークエルフのような格好の男性だ。
「本部ガブリエルだ!すでに報告が入っていると思うが、火星のSilver rabbit社コロニーの作業現場より囚人が逃亡した。
たった今入った詳細によると、逃亡した囚人はウェイ人31名。
被害内容は、地球人15名・エンリル5名が殺害され、惑星移動用の小型艇が奪取された他、警備ロボット5体、監視システムも破壊された。」
子供丈の2人が非難の声を上げる。
「ほら見たことか?そんな危険な連中を作業要員にしたからだわ。」
「奴らの食事とか知ってる?血抜きしない牛をスプラッタのトリップムービー見させながら食わせるんだぜ!」
「他の星に付いたらどうなるか?確かヒューマノイド系の頭が好物なんだってさ・・・」
「聞いたことある!遺体の首から上は絶対発見されないって!!」
「猟奇殺人事件まっしぐらだわ♪いったい何人虐殺されるのかしら?」
「止めないか!どうして君達はいつもそうやって品格のないことばかり楽しそうに話すんだ・・・」
ガブリエルの顔はこわばり、青白い顔が一層青白くなったようにも見える。
「おやおや、ガブ様顔色が悪くてよ♪」
「あらあら、シリウス戦争の英雄でいらっしゃるガブ様にも許容ってものがありますからね♪」
子供丈二人が鬼の首を取ったようにはしゃぐ。
「本部の指示は、一刻も早くウェイ人を見つけ出し、被害を最小限に収めることだ。31人のうち一人は女王だ、つまり繁殖の可能性も考えられるという事。巣なんかつくられたら目も当てられない。捕捉が好ましいが、今回ばかりはそうとも言っていられない。」
気を取り直したガブリエルが告げる。
「殺害もいとわないってことね…その方が彼等にとっても良いってこと?」
「だって、可哀そうな人種さ、被験体な訳だし。無理やり高度な知能を与えられ、殺戮兵として雇用されて、いざ戦争が終わったら用無し扱い。」
「まあ、それはそれだ。一刻も早く鎮静化を望む。直ぐに行動に移してくれ。」
ガブリエルがそう言い終わるとスクリーンが消えた。
子供丈の一人が言う。
「どうせ、外には出れないよ。アステロイドベルトの闇業者に渡す金もない。」
もう一人が答える
「だとしたら地球?状況はより深刻になったわ…」
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<Chap3 -「斎藤氣恵」>
私の名前は斎藤氣恵。立川女子高の二年生で剣道2段。獅子座のB型。
皆からは“オッキー”って呼ばれている。
実家は道場をやっていて、お母さんとおじいちゃんの3人家族。
お父さんは警察官だったけど、私が7歳の時に死んじゃってる。
まあ、家庭は単純じゃないけど、結構普通の女子高生のつもり・・・だったんだけどね、その日までは。
5日前、東京の空を巨大な流れ星が瞬いた。
「不吉な事の始まりだ」なんてネットで騒いたのを覚えている。
それから3日後に私の町の公園の池で食いちぎられたような人間の足が見つかって、「巨大なワニがいるんじゃないか?」的な疑惑から池の水を全部抜いたらしいけど、結局何も発見されなかった。
と言うか、私にはあまり関係のない事だと思っていた。
だって今月末には文化祭があるし、来月頭には全日本剣道選手権が待ってる。
毎日忙しくてはっきり言ってそれどころじゃなかったわけ!
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その日、10月20日は、全日本剣道選手権に向けて総合スポーツセンターで強化練習会が行われていた。
その強化練習会は18:00程度に終わって、シャワーが激込みだったから、浴びずに帰ることにした。バラバラ死体が見つかった池が近くにあって、気味が悪いから暗くならないうちに帰りたかったのよね。
ちなみに、私は道着の時は下着を付けない派だから、帰りのパンツはさらさらって事。気の短い乙女にはおすすめだね!
外に出ると小雨が降り出していたけど、天気予報を見ない性格の私は自転車だった。
サドルをぬぐって自転車にまたがったその時、隣接された動物園の方から女性の悲鳴が聞こえた。
私は剣道なんてやってるから、変に正義感が生まれちゃって、に行くことにしたけれど、本当、これには後悔している。(変な正義感なんて出すもんじゃないよ皆!!)
鹿舎のあたりに近づいた時、衣服を強引に剥ぎ取られた女の子。”昭和高校の制服だ” その上に覆いかぶさろうとしてる男の子の姿が見えた。
私は竹刀を抜いて「お前何やってるんだぁぁぁ!変態がぁ!」と切りかかったけど・・・違った。この男の子、首が無い!
女の子は目がうつろになりながらが「ムカデが…ムカデが…」とつぶやいている。
私はハッとなってあたりを見渡した。そういえば鹿がいない!いや違う、よく見ると切り離された脚やら首が散乱している。
(本来吐きそうな状況なんだけど、私こう言うの強いんだわ、実際。)
「どうやら、やばい奴がいる」直観ではそう分かったけど姿が見えない。
だけど、私はあることに気が付いた。
目を凝らすと、3メートル程先の空間?その空間だけ雨粒が下まで落ちていない。
空中の小さな雨溜りが公園の街灯を反射して、その形は大きな蛇のような形をしている。
「お前か?お前だな!!」
私がそう言うと、その蛇のような形は起きあがったかと思うと、ものすごい早さで私めがけて飛んできた。
私は渾身の突きをそいつめがけて叩き込む。
「メリ!」と言う音を立てて竹刀が突き刺さり、蛇のような影がひっくり返ってのたうち回る。
ひっくり返ったそれは、今までとは違って姿を見せていた。
“裏側は透明じゃない”
その姿は基本的にはムカデ。
外側は透明なんだけど、裏側は赤茶色で、15対ほどある足もそこから生えている。
足の生え方はムカデよりはダンゴムシとかヤスデに近いかな?
刃渡り70cmほどの鎌のような大きな牙が、一目で口だとわかる箇所の両脇に生えていて、ギラギラと銀色に光っている。
目を凝らすと同じような影がぞろぞろと茂みの方から私たちの方へ向かってきている。
「逃げるよ!!」精神喪失したような女の子を私の自転車のサドルに座らせて、私は荷台に座り、女の子に覆いかぶさるような格好で自転車を全力で漕いだ。
ところで私、いったい何処に逃げればいいのよ~。
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<Chap4 -「岩田紀夫」>
10月20日 立川署刑事課長の岩田紀夫は、3日前おこった"水鳥の池バラバラ死体事件"特別捜査室長に任命された。そもそも第八方面本部の特殊犯罪対策官を兼任していた岩田にとっては当然の成り行きとも言える。
それより、なにより岩田を悩ませているのは、3日前からかかってくる殉職したはずの友人の携帯からの着信だ。
この殉職した友人は、岩田の幼いころからの親友で、幼稚園から警察学校まで一緒、果てに本部の特殊犯罪対策官を早くから射止めた岩田に対し、彼は国際組織犯罪対策官に就いた。
二人とも、エリート中のエリートで、出世街道を爆進した。
だが、その友人は10年前にフランスのインターポールの本部に出向中、組織犯罪に巻き込まれて殉職したと聞かされていた。
岩田は念のため、友人の電話番号を調べてみたところ、番号は生きており毎月の使用料も振り込まれているとの事で、なんとも不思議なのは、端末は発売されたばかりのiPhoneXで、発信ポイントは“月”だっと言う事だ。
今日は幸い着信が無いと安心していたところの17:30に、今度は彼からショートメールが届いた。
“お前のところの管内で強烈な猟奇事案が発生中だよな。あれのホシを知ってるぜ”
岩田はこれを見て、ついに電話をかけることを決意した。
「只今、呼び出しております。」
後ろに流れているのは、Van Halenの「ジャンプ!」
“そういえばあいつヴァン・ヘイレンのファンだったっけか…”
ワンコーラス終わる前に電話はつながった。
「よう、久しぶりだな」機械的な音声が答える。
「なあ、あんたいったい誰なんだ。」
「お前の昔からの親友、斎藤或人だぜ。」
「機械音じゃねえか!ふざけてんのか?しょっ引くぞ! 大体、斉藤或人は10年前に死んだ筈だ!!」
「死んでないし、本人だ。何ならお前と俺だけの秘密を語ってやろうか?
①、小学校で、お前がうんこを漏らした時に、俺は自分のパンツをお前にかしてやったよな。
②、高校の時、俺の彼女に俺に内緒でラブレターを送ってフラレたよな。
③、警察学校時代に10円ゲーム屋にはまったお前を叱って、正しい道に戻したのは俺だ!
どうだ!全部お前と俺しか知らない事だろ!」
「まいった!確かにお前は“或人”だ。
しかし、なんで死んだお前が電話に出れるんだ?」
「だから言ってんだろ!死んでないって。
NPSCから聞いてないのか?死体が出てないって。
殉職扱いなのはフランス人が雑だからだ!」
「ところで、今回の事件のホシはどいつなんだ?国際テロリストか?」
「う~ん国際テロリストと言いよりは、宇宙海賊と言うか・・・」
「宇宙って何のことだ?」
「異星人だ!」
その時、特別捜査室のスピーカーが鳴った
「昭和公園にて殺人事件発生! 目撃者が犯人に追われてる模様!急行してください。」
岩田はすぐに「電話をこっち(スピーカー)にも回してくれ!」と指示を出すが、
「既に切れました。録音を流します。」
*------------スピーカーより-----------------*
「殺人!人が殺されたの!昭和公園の動物園で!」
「落ち着いて!その場を動かないで!」
「無理!追いかけられてる…また増えた!」
「今どこですか?あなたはどんな格好?」
「今、西立川過ぎたところ。自転車二人乗り!」
「犯人は何人?どんな人」
「多分4匹…ムカデ!多分!透明の!!」
「落ち着いて!すぐ行きますから、頑張って!」
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「なんじゃそりゃ?」
岩田は、電話がつながっていることを忘れたまま呆然と立ち尽くす。
「おい岩田、聴こえてたぞ!今、お前んところはかなりやばい状況だ。」
斎藤或人だと思われる声が割れんばかりの機械音で岩田の携帯を震わす。
「今回のホシだが、とてつもなく強い。そして数もいる。触れるものをすべて殺戮するような性格のくせ、執念深くしつこい。目撃者は立川署で保護すんなよ!こっち(本部)でやること!」
「刑事課ではなく、第八本部で保護しろとはどういう事だ?」
「立川署にはかなり一般人がいるだろ!大量虐殺起こされるぞ!!」
「あと、拳銃じゃ無理だな・・・ 倒せない」
「用意できてMP5程度だぞ!!」
「19mmじゃ貫通しない。東部方面航空隊に頼んでハチキューを借りてきて!」
「はあ、アサルトライフルって?どんだけモンスターなんだよ!そのホシは。」
「ハチキュー以外にも赤外線スコープを用意して」
「なぜ?」
「光学迷彩まとってんのよ!そのホシは!!!そんで、立川口にバリケード作って強襲班に向かわせろ。直ぐだ!今直ぐ!!」
それだけ言うと電話は切れた。
岩田はスピーカーに向け 「目撃者保護は?」
「確保した模様です。こちらに急行してます。」
「強襲班2分隊を直ちにに編成、暗視スコープとMP5を持たせろ。有ればハチキューのほうがいい!それで立川口交差点にバリケードを張れ。直ぐだ!」
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<Chap5 -「立川口交差点迎撃戦」>
「いた、たぶんあの2人」自転車を二人乗りで走らせている女子高生を挟み込む形で、パトカー2台が急停車した。
合計6名の警察官が駆け下り。「もう大丈夫よ」と女性刑事が声をかけると氣恵は膝から崩れ落ちた。しかし、崩れ落ちはしたものの安堵の顔は全く見えない。
「富士見1丁目付近で、目撃者を保護。警邏班4名を残し本部に急行します。」
女性刑事がベルトの無線機に言い終わるや否や、先発のパトカーから降りた制服警官の首が飛んだ。飛んだというよりは消え去ったという形に近い。
血しぶきをあげて頭部の無い体が前のめりに倒れる。
間髪を入れずにもう一人の警官の腰から下が切り取られる。
彼の支えを失った上半身が路面に叩きつけられる。
他の二人もあっという間に切り刻まれ、肉片に代わっていく。
女性刑事とっさの事に躊躇しながらも、注意深く惨劇を観察した。
激しくなってきた雨粒が地上50~60cmの空中で弾かれ、アスファルトに届いていない。その気影が蜃気楼のように揺らめきながら、後発のパトカーに近づいてくる。
彼女はホルスターからベレッタM9を抜くと、その影に向けて3発撃ちこんが、
「カィン・カィン・カィン」と乾いた音が響き、弾き返されたことを証明した。
「何これ…」
唖然とする女性刑事を「いいから乗って!」と氣恵はせかし、女子高生二人と女性刑事が乗り込むや否や、運転係の警官は、状況を察してパトカーを急発進させた。バックミラー越しに惨殺された4人が見える。
「警邏班4名殉職しました・・・ホシはなんと言うか、巨大な影のようなもので、姿は見えず・・・私はその影に向かって拳銃3発打ち込みましたが、貫通しませんでした。」女性刑事は無線に告げた。
「解った。立川口交差点戦闘に強襲班がバリケードをはっている。左車線1レーンだけ開けているからそこを抜けてきてくれ。」
無線の先の岩田は答えた。
パトカー4台が立川口交差点を封鎖している。強襲班16人がパトカーを盾に短機関銃や自動小銃を構える。
「いいか?冗談に聞こえるかもしれないが、ホシは暗視スコープを通さなければ見えない。見れば驚くと思うが、正体は巨大なムカデだ!既に、西立川に向かった警邏班の4名は殺害された。拳銃は効かないと報告されている。」
刑事課長のどう聞いても冗談にしか聞こえない無線に笑い出す隊員もいる。左レーンにかろうじて開けた一車線を目撃者を保護したパトカーが猛スピードで通り抜ける。
「来るのか?」
隊員の暗視スコープ越しに見えたのは、3メートル×80センチ程の帯状の物体が蛇行しながら、時速30kmぐらいの速度でこちらへ向かってくる。
道路からの反射熱のみが見えているらしく、本体であろう箇所はまるで蓋をしたように黒く、その反射熱の中に細かい足が何本も見える。その様はまさにムカデだ。
叫び声をあげながら機関銃を乱射する隊員たちをよそに、ムカデたちは止まらない。
「パラベラム弾では効いてない…」
強襲班の班長は右車線側に合図を送ると、89式小銃を構えた8名が前に出る。
削岩機のような銃声が轟くと4体すべてに着弾し、ムカデ達は仰け反った。
反り返った腹側にMP5を撃ち込むと、流れ出る体液のようなものが見えた。
「裏側は19㎜でも貫通できるぞ。動きが止まるまで撃ち続けろ!」
強襲班の班長が右車線の隊員達に親指を立てたその時。
「後ろだ!後ろ!!」
右車線後方よりに5匹ほどムカデが現れた。あっという間に右車線側にいた8名の隊員が切り刻まれる。その右車線の5匹に気をとられていると今度は昭和記念公園側の茂みから5匹が飛び出した。
「敵の数が増えました!!増援をあぁぁぁぁ」会議室のスピーカーに隊員のむなしい悲鳴がこだました。
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<Chap6 -「第八方面本部攻防戦」>
女性刑事が氣恵を取り調べ室へ通す。
「お名前は?」
「斎藤氣恵。立川女子高の二年生…」
このやり取りをマジックミラー越しに見ていた岩田は「なんだって!!」と飲んでいたお茶を噴出した。ちょうどそこに或人からの電話が・・・
「おい、岩田。強襲班全滅したぞ!10匹ほど、そっちへ向かっている。
よほど存在を知られたのが許されないらしい。目撃者を殺すまでやめないつもりだわ。」
「それがな、或人。目撃者はお前の娘かもしれん…斎藤氣恵、17歳。そうだな!」
「なんだと!!そいつはまずい。ちょっと待て3分後に電話する」
それから1分待たずして或人から再着信が・・・
「岩田。今、取調室か?どこの部屋だ? もうお前のところに任せられる状況じゃない。俺らのチームをよこすから従ってくれ。」
「東館の2Fの北側だが、お前のチームっていったい何なんだ??」
そう言い終わるや否や取り調べ監視室の扉の手前が光りだした。
六角形の光が誘導灯よろしく大きなったり小さくなったりしながら点滅する。
その光の奥の方から「空間転送を開始します。二メートル以上離れてください。」
アナンスを三回繰り返すと六角形の光は1.5メートルほどの大きさになった。
その中から2メートルほどの犬顔の大男が現れる。
その後に続くのはありったけの銃器を抱えた60センチほどの小人が5人。
「主任!ついたぜ。オペレーションを開始する」
「お前が課長だな。悪いが、被害をこれ以上広げたくなかったら1Fにいる人間を全部避難させてくれ!コヨコヨ達は配置につけ!」
小人達はゴーグルを下げると浮かぶように移動して部屋から出て行った。
「しまった。端末忘れたぜ。すまないが、そのDell借りるぜ!」唖然とした書記官のDellを取り上げると、犬顔の大男はSSDソケットに通信機と思われるものを差し込む。Dellの画面が10分割され、一階に分散した小人達の目線の映像がたち上がった。
「Dellで良かったぜ。俺の端末もDellなんだよ…今AICの連中は、ほぼApple信者なもんでな」「おっ、そうだった。自己紹介を忘れてたな、名刺は無いから口頭で許してくれよ。我々はAIC。Asteroid Belt Inner Consultantsの略だ。 俺はそこの、戦術オペレーション担当、名前はバグスターだ。ちなみに出身は、お前たちの呼び名で言うと小犬座プロキオンの惑星だ。つまり異星人ってことな。」
「コヨ!来たぜ、分裂しろ!」
画面越しに小人たちが10人程度に分裂した小人達の映像が移ると正面玄関と東館南棟のガラスが割れた。
「打て!」
小人達の携帯した小さな銃から電光が走る。
「神経性電磁パルスガンだ!殺傷能力は無いが実弾より断然有効な兵器だぜ!」
大男は鼻歌交じりで画面を眺めている。正面玄関3匹、東館南棟2匹 東館北棟2匹、西館中央3匹が瞬く間に倒された。
「楽勝だな♪」と大男が言ったその時、西館の北、南側のガラスが割れ、そこから5匹づつ計10匹が西館1Fになだれ込んだ、背後を突かれた小人達の何人かが切り裂かれる。
「まずい!西館は廃棄だ。中央通路を使って撤退してくれ。
主任!ビルごと砲撃の許可をくれないか?」
Dellスピーカーより、「いいよ♪」の声が。
「おい!なんてこと言ってるんだ。」岩田が犬顔の大男を怒鳴りつける。
「大丈夫だよ。殺傷能力は無いって言ってるだろ!それにバリアを張るから・・・
ケイティ!東館のみ2F/3Fを空間プロテクト。
スターシップからビルごと半径100mに電磁パルスを打ち込んでくれ!」
「プロテクト完了!発射します。」
Dellから音声応答が帰って来るや否や、雷が落ちたような轟音と光に包まれた。
「コヨコヨ隊はウェイ人を捕捉! 即、単時空監獄へ転送してやりな。」
「はいよ、終わったな! そんじゃ俺は1階と外を見回ってから帰るわ・・・」
バグスターが部屋を出ていくと、再び或人から岩田へ着信が届いた。
「大丈夫だったか…始末書の筋書き作りは手伝うぜ。ところで娘の様子はどう?」
岩田はすっかり取調室を気にかけていなかったことを反省しつつ、背後のマジックミラーを振り返った、が、そこには誰もいなかった。
慌てて取調室に入るも、もぬけの殻だ。取り調べをしていた女性刑事もいない。
「或人・・・娘さんいなくなっちまった。取り調べをしていた刑事も消えた。」
「ひょっとして、女性刑事はホシに接触してないか?」
「あり得ると言えばあり得る。警邏隊惨殺現場に遭遇してるからな。」
「刺されたんだよ…毒を持っているんだ、奴らは。」
「刺されるとどうなるんだ。」
「催眠毒でな…注入した奴をラジコンみたいに操れる。そんな強烈なやつではないが、建物の外へ誘導するぐらいはできる。問題はどこへ誘導したかだ。」
「ちょっと待て、本部の警邏車両をGPSで調べてみる。」
岩田はタブレットを起動させて、のぞき込む
「動いてるのがいるな…高松2丁目で停車した。確かお前の実家って大鳥神社のあたりだよな。」
「俺ん家だって!!
・・・いや、ギリギリ間に合うなら、まだ俺ん家の方が都合いいかもしれないな。」
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<Chap7 -「斎藤家にて」>
月面のAIC指令室では、子供丈の2人が腕組みをして何やら相談している。
「ケイティ、高島町2丁目大鳥神社付近の動体エネルギーを分析してもらえる。」
羊の角が生えた女性が答える。
「3~4メートルの物体が5体。時速10kmぐらいの低速で移動しています。これはウエイ人ですね。」
「どうしようかコヨコヨを転送する?」
「バグスターがいない時間が不安だ…ここはチャネリングだろ!」
「チャネリングしてどうすんのさ??」
「恒星騎士の刀を使うんだよ。アラトの遺品のやつさ。」
「でも、彼女は資格者じゃないし、抜けないでしょ!」
「俺がチャネリングすれば抜けるって…騎士だし」
「元だろ。なんだかやけっぱちだな~」
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氣恵は取り調べが終わると、女性刑事に付き添われ、第八方面本部を出た。
「昭和高校の女の子はどうなったんですか?」
「彼女は医務室で休んでいます。幸い命に別状はないみたいです。」
「犯人は?もう襲ってこない?」氣恵は用心深く聞いた。
「犯人は射殺されたようです。もう、心配しなくて大丈夫ですよ。私がご自宅までお送りしますね。」
女性刑事は感情のこもっていないような声で氣恵に話した。
パトカーが斎藤家の道場の前で止まる。
氣恵がインターフォンを押すと、祖父の益一が出た。
「おじいちゃん、遅くなってごめんね。今日は色々あって、警察の人が来てるから経緯を聴いてもらえる。」
「氣恵、お前よろしくないものを色々連れてきてしまっているようだな。
お母さんは二階に隠れてなさい。
今からドアを開けるが、中まで一気に駆け込みなさい。
いくぞ!1、2、3っ」
ドアが開くと益一は木刀を構え一気に飛び出る。変わって氣恵が扉へ飛び込んだ。
「おじいちゃん見えてるの??」
とっさに立ち上がったムカデの喉元に木刀が突き刺ささる。その一匹をけり倒した勢いで益一もドアの中へ。「何をやってるの?扉を閉めなきゃ。」
益一はドアを閉め鍵をかけたが、バンッバンッとドアに体当たりをしている重い音がこだまする「あまり長く持ちそうじゃないの・・・」
その時、氣恵の意識の中に何者かが語り掛けた。
“道場へ行くんだ。行って、飾られている刀を鞘から抜くんだ”
フラフラと歩きだす氣恵を見て、益一は
「道場か、道場なら多少安心だ。あそこの扉は閂がはまっている頑丈なやつだ!」
氣恵は道場に行くと、神棚の下に飾られている西洋風の刀の前に来た。この刀は父である或人の唯一の遺品であると氣恵は聞かされていた。
刀を手にしたその時。「バリバリバリン」と左右の道場扉の閂が折れ、ムカデが2匹道場に侵入した。
「うわーっちょぃぃ!!」
氣恵の意識の中の声が叫ぶと、氣恵は自意識を取り戻したが、取り戻した反動で、刀が鞘から抜けた。その瞬間、氣恵の意識は別の世界へ飛んだ。
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氣恵の意識―
私は、不思議な世界にいた。
この世のものとは思えないほど美しい女の人が現れ、今、私の身に起こった事を説明してくれた。
―どうやら、あの刀を抜くことができてしまった者は、恒星騎士と言う資格を得るらしい―
彼女から刀の使い方、宇宙の始まりの話、並行する別世界の話、善と悪との戦争の話などを聴かされた。
そして、ある時は燃え盛る恒星へ、ある時はどこまでも続く宇宙に横たわった海へ、銀河を眺めたり、SF映画で見たような文明が高度に発展した都市へも連れていってくれた。
私はその世界に何年も留まっていたかのような感覚を受けた。
女性が「そろそろいかなきゃね!Good Luck」と言うと、私の意識は元の世界に戻っていった。
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2匹のムカデが今まさに、氣恵に襲い掛かろうとしていた。
ムカデの牙が氣恵に触れようとした瞬間。
既に氣恵はその位置にいなかった。
と同時に2匹のムカデの動体は真っ二つに切り裂かれ。上部が床に落ちた。
「ドサ」っと言う音とともに、再び氣恵の姿は現れた。
「これが、マルチスペースってやつね。案外楽勝かも♪」
「そうだ、おじいちゃんを助けなきゃ!」
玄関ホールではドアがドアが半分までこじ開けられ、そこからムカデの牙が見え隠れする。そこへ氣恵が到着した。
「氣恵!まさかお前刀を抜いたな!!」
そう益一が言い終わる前に氣恵が叫んだ。
「おじいちゃんよけて――っ」
益一が身を翻すと、氣恵は逆袈裟の形で刀を振り上げた。
刀から三日月状の衝撃波が発射され、ドアごとムカデを切り裂いた。
ドアを切り破ると、二体の斜めに切り裂かれたムカデの残骸と、
益一が突き殺したムカデが転がり、奥の方には女性の刑事も倒れていた。
「この人は大丈夫なのかな?」益一がそう口にすると、
「大丈夫だ。毒はそのうち消える。
操っていた主が死んだので、もう操られることもない。」
益一声の方向を向くと、月にいた宇宙服の子供丈の二人が立っていた。
「お前たち、見ての通り氣恵は刀を抜いたぞ!どうしてくれるつもりだ!」
益一は子供丈二人を怒鳴りつけた。
子供丈の二人がぐちゃぐちゃと小声で話している。
「オヤジさん状況が飲めてるぞ、どうして??」
「昔から勘が良くて、理解力も半端ないからそうなんだろう・・・」
「お前が抜く手はずだったんじゃないの?」
「だから、チャネリングが一瞬解けた瞬間に本人が抜いちゃったの!」
「どうすんの?恒星騎士になっちゃったじゃないか。」
「どうしようもないじゃない、資格者だなんて知らなかったんだもん!」
「ゴホン!!」益一は咳ばらいをした。
「え~と、理解している通りだ。彼女は自分の意志で(と言うか偶然に)刀を抜き、恒星騎士の資格を得た!銀河のルールに従って、彼女には騎士に職務ついてもらう! ぅん!」
子供丈の一人が益一に告げる。
「こぉの馬鹿者が~!!
お前たちが誰だか、わしが知らんとでも思っているのか?
揃いも揃ってふざけた格好をしおって!
お前たちは、この子の気持ちも、この子の未来も考えれんと言うのか?
そんなふざけたもんに孫を預けてやれると思うか!!
帰れ。わしが納得するまでは孫には合わせん。」
「ダメだよ、もう帰ろう・・・」
子供丈の二人が帰ろうとしたその時
二階からの氣恵の母=ナタリーが降りてきた。
帰ろうとする子供丈の二人に向かって
「Per favore aspetta, non andare, torna indietro, per favore!」と叫んで
うなだれた。
うなだれる母の肩に益一はそっと手を置き、
「済まなかった」とつぶやいた。
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その夜、ママは何やら私の部屋の押入れを物色した。
「Shazam!!」ママは嬉しそうに言うと、昔パパから誕生日にもらった、特大のパンダとクマのぬいぐるみを手にしてた。
私は精神的にも肉体的にもかなり疲れていたので、爆睡したけれど、ママは朝までミシンを踏んで何かを作っていた。
21日は学校も部活も休みだったけれど、なぜだか早く起きてしまい。
リビングの方に降りていくと、ママがこっそりドアの無い玄関から昨日の二人を家の中に呼び寄せた。
二人とママはママの部屋に入った。私はママの部屋の扉(引き戸)をこっそり開けて中を覗き込んだ。
一人がもう一人の顔の部分のドームについているコックをひねった。
“ぷしゅーっ”と音がして、用意した洗面器に何らかの液体が流れ落ちるとドームが開き、中からスパゲッティー状の物体が這い出してきて、ママの方に寄って行った。
私はとんでもないものを見てしまった気がしてママの部屋を後にした。
しばらくすると、今度は道場からおじいちゃんの声が聞こえた。またしても、こっそり覗くと、ママの後ろ姿も見える。
「話を聴いてくれてありがとう。今日は、決意とそしてこれからの提案を聞いてもらいに来た。」
・・・昨日の奴の声だ。
「よかろう、話してくれ。」
「我々はこの子を守る。全霊をかけて守る。おかしな戦争も我々が引き受ける。そして、そのために俺はここで暮らそうと思っている。」
「よいと思う。精進して氣恵のために励んでくれるなら許そう。」
私はそこで居ても立ってもいられず。道場内に踏み込んだ。
「お爺ちゃん!!“よいと思う”ってどう言う事。
なんでこんな奴と一緒に暮らさなきゃいけないの?
大体こいつら正体は、ぐちゃぐちゃのスパゲッティーみたいなキモイ生物だよ・・・
って何?その格好!!」
私は思わず噴き出した。だってクマのぬいぐるみと、パンダのぬいぐるみが軍服みたいな制服を着て正座してるんだもの!!
「ママ~何って事をしてくれるのよ!!!!」
おじいちゃんが私に語りかけた。
「まあ、氣恵聞きなさい。
お前は昨日の件で、恒星騎士と言う厄介な仕事をけしかけられる存在になってしまった。この二人は、その厄介な仕事をお前の代わりに引き受けると言っている。
当然、守ってもくれる。まあ、確かにふざけた格好だが、お母さんがお前が慣れるように、素敵な衣装も作ってくれた。私は、それが得策だと思う。どうだろうか?」
そんなこんなで、私の家に変な宇宙人が居候することになった。そしてこの日、私は普通の女子高生ではなくなった。
私の名前は斎藤氣恵。17歳。本日より恒星騎士をやらせていただきます。
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<Chap8 -「宴会です」>
土曜日の日、私の家のには、たくさんの来訪者が来て色々面倒臭かった。
最初に来たのは犬顔の、っていうか顔が犬で体が人間の大男が、小人をたくさん連れてやってきた。おじいちゃんと話しながら「扉もそうだが、防護システムを超物理領域までグレードアップしたほうがいいと思うが…」なんていってる。
そう言えば私が昔飼ってた柴犬に顔が似てて、思わず「ポチ♡」って呼んだら、
「なんだと~ 人を馬鹿にする時の態度が或人そっく!!!」
犬男は慌てて口を押えたけれど、そこにおじいちゃんがやってきた。
「もう、隠さなくていいじゃろ、騎士になったんだ。どのみちいつかばれるさ。
昨晩、ムカデのやつらが家に押し掛けた時、なんでわしが気付いたかって、お前とお母さんがイタリアから日本にやってきたときに、こいつらが警備システムを付けてくれたからなんだよ。」
「だからってオヤジさん!せっかくブラスター置いてんのに、なんで木刀で戦うんだよ・・・今度はライトセイバー置いてやるけど、免許がいるからな!!75歳じゃ免許取るのもしんどいぜ!」
そう言えば、この人たち皆、ママが縫いぐるみに着せてた軍服みたいなのを着てる。
私がしげしげとみてるとポチが答えた「ああ、服な、これはアルマーニ製だぜ!カッコいいだろ・・・ナタリーの縫製技術は素晴らしいけど、素材が宇宙向きじゃないからな~主任たちのウエアは作り直しかもな!」
「Fanculo!!」ドア設置の手伝いをしてた、ママが悪態をつく。
そこへ、何やら外へ出ていたパンダが帰ってきた。
「どこにいってたのよ!」と私が聞くと、
「本庁に行ってその後、立川署だよ…ワープしたけど。」とパンダは答えた。
「NPSCが許可をくれて、とりあえず第八方面本部に“宇宙問題対策課”と言うのを作ってもらった。あと、東部方面航空基地の滑走路。使ってないから貸してくれるって。今後スターシップはそこに降ろしていいから。」
そこへ、クマがやってきた。
「お~い!!味覚感知システムと消化機関を合成したガジェットができたぞ!
これで地球の食事も問題ない!!」
「よっし、それじゃあ宴会と行こうか?わしも久しぶりだ!」
おじいちゃんがそう言うと、ママが嬉しそうに、パンダとクマを抱っこした。
おじいちゃんが「よかったな~」って言っている。
いやー私、あんまりよくないと思うんだけど・・・
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それからしばらくして、斎藤家では宴会が始まった。
ポチとおじいちゃんは酔っぱらって、裸になって踊り始める。
(お酒を飲む男の人って本当最低!!)
宴会には、ママの友達の田中のおばちゃんがやってきた。
田中のおばちゃんは、嬉しいような困ったような顔をして、クマとママの間に座った。
踊りつかれて座に戻ってきたおじいちゃんにパンダが聴いた。
「なあ、オヤジ殿。なんでアラトの剣は2本じゃないんだ?」
「ああ、それな!田中さん家の萩斗君が持って行ったんじゃよ、
代わりに、こっちの剣を置いてな。」
田中のおばちゃんがビクっとなる。
「はあ?なんでそんな勝手なことを!」
パンダは怒ったような声を上げる。
「つまり、今、氣恵が持っているのは、本物のバチカンの剣。
だっていいじゃろ!飾っておくなら本物の方が♪」
そんなこんなで、宴会はお開きになり、宇宙人たちは帰って行った。
後ろを見ると田中のおばちゃんが泣いている。
それをママが慰めながら、クマが何か話しているけど聞き取れなかった。
「私も酔ったみたい、そろそろ帰るね!」
そう言うと田中のおばちゃんは小走りに駆け出した。
引き留めようとするクマを振り切るように。