初の魔物退治
本日2話目です。
駆け出してすぐ、僕はカインに追いついたが、彼のすぐ傍に居た大型犬くらいの狼も一緒に見つけてしまったのだ。
僕は、とっさに木の棒を拾って、カインと狼の間に入って構えた。
「カイン、大丈夫?逃げれる?」
僕がそう質問すると、カインは涙声で後ろから答えてきた。
「あ、あぁぁ、無、無理ぃだよゔぅ……」
どうやら驚いて足がいう事を聞かないらしい。
「こ、このままじゃぐわれじゃうぅ……」
「カイン、落ち着いて、教えて」
僕が努めて冷静に声をかけると、カインも少し落ち着いたのか、意地をはろうとしているのか、頑張って声を出してきた。
「ま、魔物、でロンリーウルフ、足は速くないけど、力が強いって聞いたことがある」
なるほど、本来なら単独で待ち構えての奇襲戦法を得意としている魔物なんだな。
僕は必死にロンリーウルフから目をそらさない様にしながら木の棒を前に突き出していた。
以前漫画で読んだ話では、正中線を相手に見せない様にして、片手で構えて、もう片方は体で隠すという事だったので、必死になってその通りに構えてみた。
すると、先程まで舐めてかかろうとしていたロンリーウルフの動きがピタリと止まり、どう攻めようか迷っている様に見えたのだ。
相手は大型犬、相手は大型犬、相手は大型犬!
大型犬であっても勝てる気はあまりしないが、魔物だとか狼だとか考えるよりは、イメージ的に優しい犬の方が良いと思って、頭の中で必死に犬にしながら対峙していた。
正直怖くて足が震えそうだ。
だって、相手の口は大きくて、鋭い犬歯がビッシリ生えていて、足とか爪を隠す気全くなくて、もうとにかく怖い!怖すぎるのだ。
対峙したロンリーウルフはどこから攻めようか考えているのか、僕とカインの周りをウロウロし始めた。
その動きに合わせて僕も相手の目線から木の棒が離れない様に必死になってすり足で回っていた。
本当は足を上げて素早く動きたいのだけど、足が竦んできたのか、上手く動かなくなってきている。
そうして何分?いや何秒くらい対峙しただろう、一瞬が永遠に続くかと思うほどの緊張と集中をしながら睨みあっていると、突然僕の横を一陣の風が通り過ぎたかと思うと、ロンリーウルフが襲ってきたのだ。
ロンリーウルフは前足で僕の手を木の棒ごと弾こうとしてきたので、僕はとっさに後ろに少しだけ下がった。
というより、少ししか下がれなかった。
ただ、その少しが良かったのか、紙一重で避けられた僕は、目の前でバランスを崩すロンリーウルフが見えたので、奴の頭目がけて木の棒を思いっきり叩き付ける事ができた。
これには、ロンリーウルフも怯んで、一旦後ろに下がると、また僕とカインの周りをゆっくりとまわり始めた。
「カイン、動けない?」
「無理、足が動かないんだ」
その答えを聞いて僕は、絶対に死ねないと強く覚悟を決めるしかなかった。
ただ、ロンリーウルフは、その後警戒をしているのか、僕らが弱るのを待っているのか、周りをグルグルと回り続けるだけだった。
それに合わせてカインは体を引きずって、僕の後ろをキープして、僕はロンリーウルフの正面をキープし続けていた。
この膠着状態が終わったのは、それから何週目かの周回の時だった。
遠くから爆音と言っても過言ではない足音を麓から響かせながら迫ってくる人物がいた。
そう、アマンダだ。
彼女の足音を聞いたロンリーウルフは明らかに警戒の色を強め、僕が目の前に居るのにも関わらず周囲の警戒をし始めたのだ。
僕はその隙をついて、
「アマンダー!ここー!」
と僕はありったけの大声で叫ぶと、野太い声と伴に、彼女が文字通り飛んできたのだ。
「わーたーしーのー可愛い子を虐めるのは、お前かーー!」
そういって目を見開いた鬼の様な形相でやって来たアマンダは、問答無用とばかりにロンリーウルフとの距離を詰めると、手に炎を纏って正拳突きを放った。
正拳突きを一瞬避けようとしたロンリーウルフだったが、アマンダの殺気に体が委縮したのか、上手く動けず直撃をもらってしまった。
すると、直撃したロンリーウルフが一瞬宙に浮いたかと思うと、次の瞬間山奥の方へと弾丸の様に真直ぐ飛んで行ったのだ。
もちろん、途中数多ある巨木にぶつかりながらも、勢い衰えることなく、僕らが見える範囲からは消えてしまった。
後には、ロンリーウルフが通った場所の木が倒され、草花が消滅した後だけが残っていた。
「「あ、アマンダ~」」
僕とカインは同時に泣きながらアマンダに抱き着いた。
正直、僕の精神力ではそろそろ限界が来ており、あと少し遅かったら恐らく僕らは死んでいただろう。
アマンダは僕らを優しく抱き寄せると、謝って来たのだった。
「危ない目に遭わせてごめんね。怪我は無いかい?カインは立てる?」
普段のアマンダの様子からは考えられないほど優しく、そして愛おしく僕らに接してくるのだ。
僕らはそんなアマンダに驚きながらも首を縦に振って応えた。
そうると、彼女は安心したのかホッと息を吐き、僕らを肩に乗せて下山し始めた。
下山している途中、カインが僕にボソボソと話しかけてきた。
「トーマ、その、さっきはありがとな……」
僕は今日何度目かわからない驚きの表情で彼を見ると、彼は顔を背けた。
そんな僕らの会話を聞きながらアマンダは笑顔を僕らに向けてきた。
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怪物の声が聞こえた私は、急いで山に入ると、下山してくるアイリを見つけた。
アイリも私を見つけると、息を切らせながら話してきた。
「カインが怪物に襲われて、それでトーマが助けに……」
そこまで聞いた私は、アイリに大まかな場所を聞いてから、私が待機していた岩で待っているように伝えると、全力疾走で走って行った。
「カイン!トーマ!どこに居るの!?返事をしてー!」
そう言いながら私が全力で山の中を駆け巡っていると、遠くからトーマの叫び声が聞こえた。
「アマンダー!ここー!」
その声のする方に向かって私は全力全開で山道を駆け上っていた。
「わーたーしーのー可愛い子を虐めるのは、お前かーー!」
そういって、彼らの近くまで出てくると、予想通りロンリーウルフがそこには居た。
ウェアウルフの様な集団で狩りをする魔物で無かったのが良かったのか、2人は疲れた様子ではあるものの、大事無さそうだった。
ただ、それでロンリーウルフを許すかと言うと、それとこれでは話が違う。
奴には死より酷い目に遭ってもらわなければならない。
そう思った私は、自身の最大魔法拳「フレイムパンチ」を発動するのと同時に、距離を詰め、ロンリーウルフの横っ腹に向けて究極の一撃をお見舞いしてやった。
お見舞いされたロンリーウルフは、真直ぐ山を突っ切り見えなくなるまで山に道を作る作業をして頂いた後、恐らく山肌に埋もれて亡くなっているだろう。
私はロンリーウルフを片付けると、彼らの元に走り、無事を再確認した。
彼らは泣いて私に抱き着いてきたが、私は彼らに、
「ごめんね、怖かったでしょう?でももう大丈夫だからね」
と繰り返し謝り続ける事しかできなかった。
そんなやり取りも終え、彼らを肩に乗せて山道を帰っていると、カインが珍しくトーマにお礼を言ったのだ。
危ない目に遭わせてはしまったが、この経験が彼らの仲を繋ぐ良いきっかけになってくれると良いなと思いながら、私はニコニコと笑顔で下山したのだった。
明日は18時と20時に投稿します。
明後日からは1話ずつになるかと思います。
恐らく今週中くらいは毎日18時投稿できるかと思います。