表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロの魔術書  作者: リューク
プロローグ
6/28

山菜取り


 山菜取り当日の早朝、教会の前に集まった僕は一人増えている事に気が付いて不審がっていると、増えた人は、

 

 「だって、あんた達でもし喧嘩しちゃったらそこでおしまいでしょ?だから私が来たのよ」

 と照れ隠しのつもりなのか、早口で言われたので聞き取れず、もう一度ゆっくり言わせる羽目になってしまった。

 

 これで全員なのか、僕が集合場所に着くと、アマンダが号令をかけてきた。

 

 「では、これから封魔の山へ移動する。山までは1時間もかからないからしっかり歩く様に、じゃ出発!」

 こうして、僕、アイリ、カイン、アマンダの4人で封魔の山に出かけて行くのだった。

 

 封魔の山は街の端にある教会からでも歩いて1時間程度の距離にある。

 山へはたまに山菜を取に子供達を連れて行くのだそうで、他の子達も何度も訪れている比較的安全な場所だと聞いている。

 ただ、到着してみると。


 「アマンダ、ここ?」

 僕がそういって指さす先は、草木がうっそうと生い茂り、山道もなく獣道すらも見つけるのが困難な状態だった。

 この状態は、アマンダ曰く、「封魔の結界用の魔力が強くて草木が成長しやすい」からだそうだ。

 

 「じゃ、私はここで待ってるから、何かあったり危険な事が起こったら叫ぶのよ」

 そういってアマンダは近くにあった比較的大きめの岩に腰かけて手を振っている。

 この状態でスタートしろという事らしい。

 

 「なにボーと突っ立てんだよ!早くいくぞ!」

 そういってカインが僕を急かしながら偉そうに進んでいく。

 それに腹を立てながら、僕も彼の後を追い、アイリも僕の後から山に入ってきた。

 

 山の中は本当にとんでもない状態だった。

 まず草花が伸び放題になっており、それも下で絡み合っているものだから、足を取られて転びやすい状態になっていた。

 その草花の罠を抜けると、今度はこれでもかと言うくらい伸びきった木々が立ち並び、見上げると微かに空が見えるくらいに密集した場所に出た。

 この場所の草花は縦に伸びるのを諦めたのか、木に巻き付くものと、下で小さくなって細々と生えているもの、微かに日光の当たる場所に密生しているものがあった。

 

 僕らが山菜を探すのは、小さくなっている草花の近くに生えている「ワラビメ」というワラビの様な山菜だ。

 この山菜は、茎が渦巻き状にうねっており、その特徴的な見た目から他の山菜に比べて見分けやすく、毒草等の偽物を間違って採取する確率が低い事が今回の採取目標に選ばれた理由だ。

 

 採取場所に着いてからは終始会話もなく黙々と山菜取りをしていた。

 帰る時間が近づいて来たらアマンダが笛で知らせてくれる手はずになっているので、それまでただひたすら取り続ければ良い。

 

 しかし、そんな僕とカインの考えをアイリが許すはずもなく、積極的に話すように言ってきたのだ。

 ただ、僕から話題を振るにはまだ言葉が理解できてないという事もあり、カインかアイリが話題を振ってくれていた。

 

 お互いの好きな物や将来の夢などありきたりな会話をしていたが、ついにアイリが我慢できなくなったのか爆弾を落としてきた。

 

 「なんで毎回あんた達喧嘩してるの?特にカインは何でトーマにばっかり突っかかっていくのよ?」

 確かにそれは僕も知りたい。彼は何で僕に突っかかって来るのか理由が解れば対処もできる。

 アイリの質問にカインは嫌そうな顔をして答えない様にしようと顔を背けた。

 だが、そんな事を許すアイリではない。

 彼女はカインの前に回り込み、もう一度質問を繰り返していた。

 それから何度も同じことを繰り返し、ついにカインが根負けしたのか、話し始めたのだ。

 

 「俺は、ただこいつが鬱陶しいから苛ついて喧嘩してるだけだよ」

 と、これまでアマンダ等に話していたのと同じ内容だったので、アイリが睨むと、カインはため息をして諦めた。

 

 「……わかったよ、言うよ、言えば良いんでしょ?俺はこいつがシスターエリーを独り占めしてるのが嫌なんだ。それを見てるとイライラするから喧嘩するんだ」

 そう言ったカインの表情は憮然としていた。

 

 「エリー、好き?」

 俺が言葉足らずにカインに質問すると、彼は顔をゆでだこの様に真っ赤にして俺に怒鳴ってきた。

 

 「あぁ好きだよ!シスターエリーの事が大好きさ!」

 

 「でも、シスターエリーは皆に優しいし、特別トーマだけじゃないでしょ?」

 そうアイリが口を挟むと、彼はイライラしながら、違うんだと反論してきた。

 

 「こいつは、計算ができるじゃないか、それでシスターエリーがこいつを頼りにしている。それが俺はどうしようにも無く苛つくんだ……」

 そこまで言うと、彼は一人奥の方へ入っていった。

 

 「僕、エリー、離れる」

 僕がそう言うと、アイリは首を振って優しく話しかけてきた。

 

 「ううん、それは違うと思うよ。カインはカインで頼りになる所をシスターエリーに見せるべきなのよ。ただ彼は自分にできる事がわからないだけ。そうそれが一番イライラしている原因なんだと思うよ」

 そう言うと、アイリは僕に向かって躊躇いがちに続きを話そうとしてきた。

 

 「あのね、私ね、その……」

 

 「ガァ――!」

 アイリが何か言い澱んでいると、森の奥から何かの吼える声が聞こえてきた。

 

 「カイン!危ない!」

 僕はとっさにカインが襲われているかもしれないと駆けだそうとしたが、僕の後ろをアイリが付いて来ようとしていたので、僕は彼女に違う事をお願いした。

 

 「アイリ!アマンダ!呼んで!」

 

 「え、でも、貴方たちだけ……」

 そう言うと、アイリは躊躇っていたが、僕が必死にお願いをすると、彼女は渋々頷きながら。

 

 「すぐに連れて来るから絶対に死なないでね!」

 と言って走ってアマンダの元へと行ってくれた。

 その後ろ姿を見て、僕は安心してカインの元へと駆けだすのだった。

 

 

 

 

 今日は、久しぶりに山菜取りの引率にやって来た。

 ただ、この山菜取りは、彼らの仲直りの為でもある。

 

 何が原因なのか私にはわかっていないが、多分山が解決してくれるだろう。

 鈴も持たせたし、封魔の山だから魔物の心配もほぼ無い。

 それにアイリも付いているので、結界の範囲を出る事はほぼ無いだろう。

 

 彼らを送り出してから、私は一人で腰かけていた岩を相手に訓練を始めた。

 今日の訓練は、冒険者時代からやっている「岩砕き」である。頭部程の岩を選んではそれを拳で粉々にする訓練だ。

 

 そんな訓練を一通り終わらせ、日が高くなり始めた頃、突然山の中から「ガァ――!」という魔物の鳴き声が聞こえてきた。

 

 「な!魔物!それもあの鳴き声はロンリーウルフ!」

 私が急いで笛を鳴らそうとしたが、一瞬躊躇ってしまった。

 それは笛の音がロンリーウルフを人里に引き付ける可能性があったからだ。

 ロンリーウルフはその名の通り、一匹で狩りをする狼型の魔物で、基本的に素早さは無い物の、力が強い中型の個体だ。

 

 そんなものを人里に招き入れては大変だと思った私は急いで森へと入るのだった。


18時にも更新します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ