スープの味
突然、異世界に飛ばされて混乱して泣きそうになっていた僕に声をかけてくれた女性は、どうやらシスターらしく、僕を教会の様な建物に連れてきてくれた。
なぜ教会の様な建物かと言うと、まず建物が所々傷んでいるのかガタが来ている所が目立つ事が1つ。
もう1つが、この教会の中に子供がたくさん居る事だ。
まぁ僕も子供と言えば子供なんだけど……。
「○×▽□、○▽□?」
建物に着いた女性が突然振り向いて僕に話しかけてきた。
だけど相変わらず言葉が理解できないせいで何を言っているのかさっぱりわからない。
彼女は、よく教会にある木でできた長椅子を指さして同じことをもう一度口にしていた。
どうやら椅子に座れと言っているらしいので、大人しく座る事にした。
僕が座ると、彼女はいそいそと別の所に歩いて行ってしまい、放置されてしまった。
「え?どこ行くの?ちょ放って行かないで……」
そう言おうとした時には彼女は視界から消えていた。
もしかして、人攫いの人に着いてきてしまったのだろうか?
もしかしたら、殺人鬼の所?
いやでも、子供がたくさん居たから、人攫いの方かな?
けど僕を攫っても何も無いし、身代金を払ってくれる人も居ないから、やっぱり殺されるのかな?
自殺しようとした僕への神様からの罰なのかな?
一人になってしまった事で僕の頭の中はグルグルと不吉な事ばかり考えてしまっていた。
僕が一人で考え事をしていると、急に目の前に人の顔が出てきた。
「ぎゃ!」
僕は驚いて悲鳴を上げて椅子から転げ落ちてしてまった。
そんな僕の慌てぶりを見て、顔を出してきた子がケタケタと笑ってきた。
「な、何がそんなにおかしいんだ……」
叫ぼうとした時、僕は目の前の人物の顔を見て言葉を飲んでしまった。
だって、その子はとても可憐でこの世の者とは思えないほど綺麗な女の子だったからだ。
年は僕と同じくらいで12歳くらいに見えたけど、綺麗なライトグリーンの髪に大きめの蒼い目、顔立ちも整っていた。
僕が息を飲んで少女を見ていると、少女は僕の視線に気づいたのか笑うのを止めてじっと見てきた。
「えっと、あの、その、」
と、僕が言葉にならない事を繰り返していると、少女は微笑みながら手を差し伸べてくれた。
僕が彼女の手を取ってお礼を言うと、少女は首をかしげていた。
「○××▽□?」
少女が何か言ってきたが今度は僕が首をかしげてしまった。
その様子を見て、少女は僕の手を引っ張って教会の外に連れ出した。
何をするのかわからずなすがままで着いて来た僕に、少女は木の枝を渡してきた。
僕が受け取って何をするのかわからず首をかしげていると、少女が自分の木の枝で地面に何か絵を描き始めた。
その様子を見て、何をしたいのか分かった僕は、地面を指さしながら少女に尋ねた。
「絵を描けって事?」
そう言うと、少女は頷いて絵を指さしてきた。
絵は、人がキョロキョロと周りを見渡していた。
「どこからきたの?かな」
僕がそう呟きながら、遠くからってどうやって絵で表したら良いのか考えて一つの絵を描いた。
僕が描いたのは、丸い星を2つ書いて違う世界からやって来た事を表してみた。
その絵を見て彼女は、星の下に「?」を書いてきた。
どうやら星がわからないらしい。
少女が「?」を描いた所を枝で指してから、指で地面を指してみた。
そうすると、少女が今度は少しわかったのか一応頷いてくれた。
そうして僕と少女は質問と答えを絵に描いて、少しだけだが話をする事ができた。
何度か二人でやり取りをしていると、僕を連れてきてくれたシスターが後ろから声をかけてきた。
「○○××▽◇?▽□□」
相変わらず何を言っているかさっぱりわからないが、少女はシスターの方を向いて、何事か話をしていた。
「▽□○××、××▽□」
少女の言葉を聞いたシスターは頷いて少女の頭を撫でていた。
そして今度は僕の方に向いて、食べるジェスチャーをしてきた。
「食べる?何を?」
食べる物が何かわからなかったので、首をかしげると手招きをされたので、近づくとスープらしき物がお皿に入っていた。
「これ僕が食べていいの?」
というジェスチャーをすると、シスターは優しく微笑んで頷いてきた。
この世界で初めての食事は、とっても暖かく、優しい味のするスープだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
病院の手伝いに行っていたシスターが帰って来た。
今日は普段に比べてかなりゆっくりだったので、患者さんが多かったのかと思っていたが、どうやらシスターのお節介焼きが出たみたいだ。
「また子供を連れて帰って来た。今度はまた変な服を着た子だな」
私はそう思いながらシスターに連れてこられた男の子を見ていた。
彼は、上下に分かれた服を着ているが、見た事の無い色と見た事の無い靴を履いていた。
「ん?靴?靴って確かかなりのお金持ちしか履かない奴よね?あの子もしかしてかなりのお坊ちゃんなのかな?」
私が1人でブツブツ言いながら考えていると、シスターに連れられて教会の中に入っていった。
多分スープを飲ませてやるのだろう。
何故かシスターは連れてきた子供に毎回スープをふるまっている。
ある種の儀式の様になっている事を私は知っていた。
シスターと男の子の後に続いて教会に入ると、シスターが男の子に話しかけていた。
「そこら辺の椅子に適当に座ってて、スープを持ってくるから」
とシスターが言っているのだが、男の子は首をかしげるばかりで全く座ろうとしない。
その様子にシスターが今度は椅子を指さして同じことを言ったら座った。
どうも話が通じている感じがしなかったのと、不思議な恰好に惹かれた私は、彼の顔を見るために正面に回ってみた。
すると、彼は下を向いて何か考え事をしながら段々深刻な表情になっていった。
その様子を興味深く見ていると、目が合った。
その瞬間、彼は慌てて立とうとしたのか、バランスを崩してこけてしまった。
それも盛大に女の子みたいな悲鳴を上げるものだからついつい笑ってしまった。
「○、▽□××◎……」
あ、何言ってるかさっぱりわからないや
ん~どうしよう、このままだと何を言ってるのかわからないや
私がどうしようか考えていると、彼は何か言おうとしたのか口をパクパクと魚の様に開いては閉じてを繰り返してブツブツ言っていた。
「○▽、○◇、▽××」
というかこの子いつまでこけたままで居るのかしら?
立てないのかな?と思い、手を差し伸べると、意味が分かったのか手を取ってくれた。
その時に何か彼が言っていたが、私には意味が解らなかったので、聞き直した。
「あんた、さっき何て言ったの?」
ついつい聞いてみたが、やっぱり意味が通じてないな。
このままじゃ埒が明かないので、彼の手を引っ張って教会の外に連れ出した。
外に出た私は、適当な枝を彼に渡して、絵を描き始めた。
人の顔を書いて、周りを見渡させて、と書いていると、彼が絵を指さして口を開いた。
「○×▽□□?」
多分絵を描けって事が通じたのだろうと思って見ていると、彼が今度は自分に対して呟いていたかと思うと、絵を描き始めた。
ただ、彼の描く絵の意味が全く分からなかった。
丸い何かに人が乗っかっている絵が2つ?
片方の絵と私を交互に指さしてきた。
え?これ私?
そして、もう片方の丸の上に乗っている絵と自分を指さしていた。
全く意味が解らなかったので、丸の下に「?」を書いてみると、彼が少し考えてからもう一度指さしたのは、丸と地面?
丸が地面で立っているのが私って事はわかったので頷いてみた。
すると、彼の顔が少し明るくなり、また色々描いてきた。
そうやってお互いの事をいびつな絵を頼りに話していると、後ろからシスターの声がした。
「こんな所に居た。貴女が相手をしてくれてたの?アイリ」
私がシスターの方に顔を向けると、彼女が何をしていたのかと聞いて来た。
「シスターエリーが連れて帰ってきた彼と絵でお話をしてみたの、彼ってなんだか不思議な子ね」
そう答えると、シスターは私の頭に手を置いて撫でながら、ありがとうとお礼を言ってきた。
そして、シスターは、今度は彼の方に向かって食べる動作をしていた。
その動作を見て彼が意味を解ってないのか首をかしげていると、シスターが手招きをして教会の中に連れて行った。
シスターが指さすスープに彼は戸惑ったのか何事か言っていた。
「×、○×▽▽□?」
彼が遠慮しているのだろうとシスターは考えたのか、黙って笑顔で頷いていた。
その様子を見た彼は、シスターの作ったスープを黙って飲みながら泣いていた。
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