最初に見た図書館の夢
「ここには建築基準法が無い」
最初に強く感じたのはそのことだった。おそらく僕自身に建築学の知識がないためであろう。この図書館の中では重さによる構造の崩壊というものが想定されていなかった。
全ての書籍は書架に収まっている。そして書架もまた、別の巨大な書架に収まっている。情報の入れ子構造。それはある意味では蜂の巣にも似ていたが、ある意味では全く似ていない。無限に続いている本棚では、構造の差異がもたらす密度の違いは重要視されていないのだ。
そもそも僕は、全体の構造を類推できるほどの広さを見渡せるわけではない。人間の視界は有限で、目の前の本棚を意識するだけで精一杯なのだ。
それでも、僕は幼い頃からの疑問を頭の中からひねり出す。欲しいのは、この宇宙の真理。それ以上でもそれ以下でもない。
「真理を」
分厚く、まばゆく光輝く本が、音もなく眼前に現れていた。開かれてはならないはずのページは開かれた。全ての文字には調和があり、理由があった。いろは歌のごとく、かくあるべしという場所に収まったほとんど重複の無い単語の群れ。その本には、間違いなく真理が書かれていた。
これが夢の中だという警告を無視して、僕は文字を読み取ろうとする。現実味が上昇し、解像度が上がり、文字の輪郭を僕の言語野が読み取る。脳にかかる異常な負荷。
ね……こ……
大学病院の入院棟、病室のベッドで目が覚める。
宇宙の真理は、たった2文字で表されることが判明した瞬間である。
このときから、僕は猫を見ると宇宙の真理に思いをはせるようになった。それと、猫の居ない悲しい宇宙、キャットロストのことを。