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Tの忠告

消灯後。


「……だからいったのに」

「……いうふうにしないから」

「……になっちゃうよ」

「……ってことはさあ」

「……なんだからね」


 寝入ろうとすると僕の耳に幻聴が聴こえる。全部無視すればいいのだが、親兄弟の声で再生されるから性質が悪い。明白な命令口調ではなく、どうでもいい会話の断片なので記憶して脇に追いやることもできない。ただ誰かに声を掛けられたという感覚だけがじんわりと残り、僕の安眠を妨害する。発症前には無かったことだ。


「お兄ちゃん!」しかしその声だけは記憶に無い声だった。


 僕は目を覚ました。闇の中、目を凝らして見ると、そこには佇むT君が居た。消灯時間になってから人のカーテンの内側のテリトリに入ってくるあたり、一切の常識を踏み外している。T君の空気読めない感はすさまじい。

 

「最初に忠告しておくけど! あのお姉ちゃんとは関わらないほうがいいよ!」


 とTは言った。

 

「なんでそう思うの?」

「前科あるから!」


 Tはすぐに返した。

 

ODオーバードースっていうの? Kは誰かの興味を引こうとして、あれ何度もやるの! 食べ物も食べないし! だから関わっちゃ駄目!」


「声大きいよ。これKに聴こえてるんじゃないの?」


「今はKは寝てる! 関わっちゃ駄目!」


 Tはすぐにカーテンから出て行った。やれやれ。あの子はいつもあの音量とイントネーションで喋るのか。

 僕はふと思い立ち、ガラケーを取り出してODオーバードースについて検索する。


>オーバードース(drug overdose、過量服薬)とは、向精神薬、つまり医薬品や薬物を、生体の恒常性がそこなわれる用量になるほど摂取すること、それによって起こる状態、症状、または概念。心身に深刻な症状を引き起こし、時に死亡する場合もある。


 時に死亡する場合もある。僕はそこに引っかかった。ODを何度も繰り返す、なのに死なない。つまり致死量ではないが、一時的に意識不明になったり、後遺症が残ったりするのだろうか。とある理由で半端に医学の知識がある僕は、そう結論づけて、開いたガラケーをパタンと閉じる。


「お薬は用法、用量を守って、正しくお使いください」


 僕は思い出した文句を唱える。この病棟では、薬は毎日手渡しされる。それを飲んだかどうかはその都度チェックされ、薬を溜め込むことは基本的にできないはずだ。それでもODするということは、つまり何らかの方法で薬をくすねているということで、かなり悪質なケースだということになる。


 T君の忠告をどう受け止めるべきか、Kは本当にそういうことをする女性なのか。ふりしきる幻聴の中、僕は目を閉じて眠った。

 睡眠薬が効きすぎたのか、起きたのは十一時ごろだった。

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