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夢幻図書館殺人事件

 どさり。一人の女性司書が硬質な床に向かって倒れた。

 黒髪の混血で、名をサナティという。流血は無いが即死だった。倒れた本人がアカシックレコードにそう書き込んでいるから、間違いは無い。


 司書。それはこの夢の中にある図書館を守護する仮想人格バーチャルパーソナルユニットだ。この文章を読んでいる君のような図書館利用者にわかりやすく、AIと言い切ってもいいだろう。そんな非人間的な存在を殺害せしめることができるのだろうか? できる。できるのだ。


 情報爆弾ミームボム


 AI司書にはそれぞれ、7ランクのセキュリティクリアランスが存在し、ランクに応じた高速な回線速度が保障されている。だが、通常その回線速度をフルに使うような事態は稀だ。なぜなら、あらゆる意味情報ミームは圧縮されて転送されるため。この「楽園のスキゾフレニア」というエッセイでさえノイズと見まごうほどの情報圧縮プロセスが、図書館敷地内を常時包み込んでいると思ってもらえば理解しやすいだろう。


 だが、圧縮されているということは、展開もされているということ。各AI司書の許容量を超える意味情報ミームを一度に転送すれば、すさまじい情報圧によって、脳内での爆発めいた状況を作り出すことが可能だ。


 そして図書館司書という存在に向けたその行為は、まさしくテロリズム。少なく見積もっても、ハッキングの合図に他ならない。それも、内部からの。


「申し訳ないが、今日この場から、図書館利用者を帰すわけにはいかなくなった。全員動くな!」


 突如として集められる図書館利用者。その中には、別の業務にいそしんでいた図書館司書たち六名も含まれる。列挙しよう。


 ダナルー。20代、銀髪のミュータント。

 ガムラン。30代、茶髪のドワーフ。

 キイトト。30代、青い服の小人。

 フリルル。20代、ピンクの服の小人。

 カッサンドラ。10代、紫髪の人間。

 アルパ。10代、緑髪のエルフ。


「私はフジモリ。探偵だ。犯人はこの中にいる」


 懐から取り出されたのは、認証局ブルーベリーサインによって認証済みの本物の探偵手帳。俺はこの場では唯一の、認証済みの職業、探偵だ。ゆえに、俺は決して犯人ではありえない。


「我々の中に犯人がいる、と?」ダナルーが言う。

「くだらん」ガムランが一蹴する。

「ボクは犯人じゃないよ」キイトトが笑う。

「ワタシも犯人じゃないです」フリルルも笑う。

「……」カッサンドラは沈黙する。

「司書が殺人を犯せると? ……愚かな」アルパは眼光を放つ。


 いいだろう。犯人からのその挑戦、このフジモリ、受けて立つ。


 その図書館の名は夢幻図書館。ゆえに、この事件の名は、夢幻図書館殺人事件となる。

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