猫と鴉の共同戦線
いつもの4人で夢の中の図書館に侵入して本を漁った。1人はK。1人はKの子供。1人は僕の同居人だ。
手をかざし、本をスキャンして行く。こうすると良作がピンポイントで分かるのだ。今回は当たりが少ない。
画伯というグロテスクな絵と4人将棋の薄い本。これには見覚えがある。以前の夢でも見たのかもしれない。しかし小説のネタにはならない。めぼしいものが無かったので図書館からは撤退する。
水辺にある、病院風の古い応接間。その奥の隣が僕の家だ。ちょっと建物の影になっていてわかりにくいが、そこに自宅がある。大きな鍋だってあるし、フライパンだって壁にかかっている。テーブルもあるし、暖炉もある。パッと見わかりにくい立地で、狭いながらも、僕のマイホームなのだ。
さきほどの応接間で、爆弾が落ちてくるという噂をしている年配の人々がいる。こう壁のガラスのほうから離れるといいらしいですねぇ。とのんきに話している。
噂をすれば影が差すという。実際に爆弾が落ちてくる。ガラスが割れる。逃げ惑う人々。病院の周囲は溶けない氷の浮かぶ水辺だ。僕は半分沈み、葦の下に埋もれて、氷の上を歩く2人の偵察兵から身を隠す。
遠のく意識。体が重い。死んだようになって、身体がぴくりと動くのを押さえつけて、時間だけが過ぎた。
「戦況はどうだ?」
起きてすぐ、隣の鴉を捕まえて聞く。鴉は喋れない。苦しそうだから手を離す。
すると、猫(三毛猫だった)がくりきんとんを兵糧にして戦っていた。なんでも、人間が居なくなったから、戦わざるを得なかったらしい。
ひとまずそこにあった箱入りのくりきんとんを貪り食って、猫にもストローで口の中にぽいぽいぽいとおすそわけする。
「状況は絶望的だ。人間よ」
「いや、まだ絶望するには早いさ」
僕は状況を聞きだす。
ドローン対ドローンの戦争が始まったこと。停止命令が効かなかったこと。製造ラインが暴走して、人間が滅んだこと。ドローンのターゲットではない、鴉と猫による共同反抗作戦が始まったこと。
「推測だけど、僕の病院にあった無限病院食製造機の一つがまだ稼動しているらしい。そこでくりきんとんが作られているんだ。夢の中だから直せば無限に食料が補給できる。だから勝機はある」
僕が断言すると、猫は言った。
「鴉の編隊であれば空中ドローンを打ち落とすことができる」
「猫の小隊であれば地上ドローンを打ち壊すことができる」
「そなたを私に代わって征夷大将軍に任命する。申し分なかろう」
「僕は少しずつ階級が上がっていくようなストーリーがが好みなんだけど」
「そんな時間は無い」
ばっさりと僕の要望は切り捨てられる。
猫たちは、文字通り猫の額のようなこの地域を守って戦っていたのだという。くりきんとんだけでは兵站に限界が来る。ゆえにこのような戦略を取っていたのだが、追加で魚や肉のペーストが製造できるとなれば話は変わってくる。
また、ドローンは偵察用がほとんどで、敵である人間を探すことに特化しているせいで攻撃力はほぼ皆無のモデルが大半らしい。僕の姿が戦場で発見されてしまうと、対策として対人攻撃ドローンが出てくるかもしれないので、僕は病院の中で地図上の部隊を動かす、参謀的ポジションについていた。
僕は鴉と猫を指揮して、別の病院を攻め落とし、無限病院食製造機を奪っていった。
だが図書館が燃え落ちたという情報に、僕は驚いた。夢の中の図書館は不滅の存在だと思っていた。それが、僕が仮死状態になっている間に、焼け落ちたのだという。信じられないが、今は猫の言うことを信じて戦うしかない。
単なる機械的な陣取りゲームとなったこの戦争を、ひとまず僕と猫と鴉で、終わらせなければならないのだから。