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これまでのあらすじ 前

 楽園のスキゾフレニア。

 

 そんなフレーズが頭に浮かんだので、僕はそれについてエッセイを書いてみようと思う。

 この話は半分真実で、半分が嘘だ。君はこのエッセイを信じてもいいし、信じなくてもいい。まず始めにフィクションありきの創作の世界では、それはあまり話の本質ではない。

 

 まず、僕の自己紹介から始めないといけない。僕はニートで、三十二歳の男性だ。顔が縦に長く、友人に言わせると(残念ながらイケメンではなく)おっさんの顔をしている。老けて見えるのだ。髪の毛は癖っ毛で、放っておくと勝手に七三分けになって、さらにおっさん臭くなってしまうから、散髪の際にはかなり短く刈っている。

 

 ヒゲは通院の前に剃るが、いつもは伸ばしっぱなし。にきびは無いが、額の生え際と鼻の横には脂漏性皮膚炎があり、少し赤くなっている。でもこれは皮膚科の先生が悪いわけではない。単にかさぶたができない体質なので、洗っても洗っても治らないだけだ。元はフケ症であったが、皮膚科で勧められたシャンプーとリンスを使ってからは、フケは出ていない。その点では、皮膚科の先生には感謝している。まあ自己紹介はこんなものだろうか。

 

 ああ、重要なことを忘れていた。

 

 僕は狂っている。

 

 スキゾフレニアというのは、昔で言う精神分裂病、今で言う統合失調症のことだ。オーソドックスなところでいうと、幻覚・幻聴とか、被害妄想とか、関係妄想とか、宗教妄想とかだ。一概に狂っているといっても、その症状には色々ある。内容によっては無害な症状もあるし、有害な症状もある。被害妄想や希死念慮なんかがそれだ。

 

 統合失調症の原因は、まだよく分かっていない。先進国でも後進国でも、およそ百人に一人の割合で統合失調症を発症することがわかっている。その背景に先天的因子、すなわち遺伝子が絡んでいるという説は有力だが、それにしてもおそらく複数の因子が絡み合っていて、そうやすやすとDNAの特定にまでは至らないだろう。うつ病同様に、ストレスによる発症という説もあるが、これは世界中どこでも、環境に関わらず百人に一人の割合で発症するという事実を説明できていないので、僕は信じていない。

 

 さて、どこから書こうか。まずは、僕が最初から狂っていたという証拠を出すほうが簡単だろう。


 僕は小学校時代、ある理由から運動部に所属することが出来ず、音楽合唱部に入れられた。

 僕はそのころから視野狭窄気味だった。多目的ホールでの部活動そっちのけで、僕は狂ったように本棚の本を速読していった。小学三年生の科学、小学四年生の科学、小学五年生の科学、小学六年生の科学……といった具合だ。読書に没頭しているときに、合唱部の顧問の先生に怒鳴られ、引っ張られ、移動し、僕は無理矢理合唱コンクールに向けての練習につきあわされた。

 しかしまあ、部活をすることは楽しいものだ。僕は最初のうちはソプラノを得意になって歌ったが、後にアルトに回された。声変わりしたのだ。特殊な訓練をしない限り、男はいずれメロディラインを、ソプラノを歌えなくなる。それは当時の僕にとって、とてもショックなことだった。

 

 もう一つ。僕にはカニバリズムの癖があった。唇の皮を剥いて食べる癖があったし、人差し指の第二関節を血が出るのも構わずに齧る癖があった。爪を歯で噛んだし、噛み千切ることも多かった。端的に言えば、僕は自分を食っていた。

 そしてもう一つ。僕は男の子の友人にも女の子の友人にも興味を示さなかった。保育所にいたときに、もう既に人間関係の複雑さというものに飽き飽きしていた。僕は自分がバイキンマンみたいなマッドサイエンティストになるということを疑っていなかったし、そもそもマッドサイエンティストとは孤高で理解されないものだ。

 

 それでも多少の友人は居た。しかし彼は頭が良すぎて、別の地区の中学校に進学していってしまった。彼はヘッセの「車輪の下」という本を読んでいた。神学校に行った神童が挫折し、自殺してしまう話だ。いまなら彼の気持ちが分からないでもない。「考古学者になりたい」と漏らしていた彼は、本当は、みんなと同じ中学校に進学して、苦楽を分かち合いたかったのだろう。

 

 毎年四月、教科書が配られた日に内容を全部読んで暗記し、一週間で全ての問題集を解いた。ノートを取るのも得意だった。テストの点は悪くは無かった。100点は当たり前だと思っていたし、ちょっとした記憶違いで95点というのも多く取った。ミスは分析し、次のテストに生かした。

 先生から見れば、自慢の生徒だったのかもしれない。僕も嬉しくなかったといえば嘘になる。僕は点取り虫と化した。人間関係の構築には全く労力を割かず、授業で積極的に「組」になる相手は居なかった。でもそれを寂しいとか悲しいとか感じたことはなかった。僕には、そういう感情が抜け落ちていた。

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