放課後の魔女試験と魂の貯蔵庫
夢の話をしよう。あるいはそれは半分くらい事実だったかもしれないが。
僕は夜の街を歩いていた。そこに工事中のビルだったか廃工場だったかがあり、僕はそこに進入した。少し暗いが、物の色や形がわかるくらいには光が差し込んでいた。人は誰も居なかった。ただ、サイズが大きなゴミ箱、ダクト、換気扇、バッテリー、その他もろもろの巨大なオブジェクトがそこかしこにあった。
ゴミ箱の分類札を見てふと思った。これは試験だ。放課後の魔女試験だ。正直なところ、なぜそう思ったのかは分からない。ただ、自分の中の何かが試されているのだという思いで、僕はその工場の中を見た。大小様々な四角い箱があった。それらの箱の辺のところには、触れることが危険であることを示す、黄色と黒の斜線が入っていた。
魂の貯蔵庫だ。大量の魂が、そこに貯蔵されている。
それは仏教的な輪廻転生を司る古臭いシステムだった。カビが生えそうで生えない(なぜなら鉄と油から成るから)宇宙の神秘の欠片だった。自分の背丈を越えるような、巨大なバッテリーがそこらじゅうにあり、あるものは積まれ、あるものはクレーンで吊られていた。夢とは思えぬ、有無を言わさぬ説得力があった。僕はその中に呆然と立っていた。
いや、僕が進むべき道は明白だった。目の前には展開されたダンボール箱によって歩くべきコースが大雑把に示されており、僕はそのところどころ途切れたダンボールの床を踏み外さないように歩いていくだけでよかった。巨大なダクトがあり、巨大な換気扇があり、巨大な影が落ちていた。僕は影をよけ、時にジャンプし、ダンボールを踏みしめて歩を進めた。
どこがゴールなのかは分からない。そもそも輪廻転生にゴールなどというものはないのかもしれない。全ては泡沫の夢なのかもしれない。それでも。
僕はルールを違えることなく、放課後の魔女試験を進み、終にクリアした。したのだと、思う。それは僕が最初に見た白昼夢であり、今でもありありと思い出せる物語であった。
もちろんこんな話を信じろというほうが無理だ。
僕だって、ただの白昼夢だったと切り捨ててしまいたい。そう思って忘れてしまえたら、きっと楽だっただろう。ある一つの、事実を除けば。
母の記憶に間違いが無ければ、僕は警察に保護されたとき、上下共に工場作業員が着るような灰色の薄汚い作業着を着ていたのだという。座り仕事専門だった僕が、普段なら、決して着ないであろう服装をしていた理由とは何だったのか。母はその服を、汚いから捨てたと言う。だから明確な説明と言うものは、求めても決して、もう二度と手に入らないのだ。




