NEET株式会社とアーガーデュエル
NEET株式会社の公式サイトより引用
>NEETとはNot in education(勉強していない), employment(雇用されていない), or training(職業訓練していない)の略なので、雇われたらニートではなくなってしまいます。よってNEET株式会社には、雇用された従業員は一人もいません。メンバー全員が取締役で、基本給はなく(成果に応じた役員報酬はあります)、労働基準法も適応されません。ニートはニートらしく、取締役として生きていくのです。
という嘘くさい会社の説明会が、2013/06/11(火)にあって、僕はこれに参加した。
理由は、三十代という人生の折り返し地点に立つにあたって、実家にひきこもって何もしないままというのではあまりにも悲しいと思ったからだ。そのときには、僕はそういう判断ができるくらいには、快復してきていた。
それに、僕はこういう言葉遊びのような会社が好きであった。IRCというテキストチャットシステムに僕は常時接続しているが、そこで「NEET商事」とか「河川敷労働所」とか、そういう古典的なギャグがはるか昔から飛び交っていることを、僕は知っている。
そんな荒唐無稽な話が現実になると聞いた時、そこに参加しないという選択肢は僕には無かった。
説明会には、300人を超える人たちが集まった。この企画を立ち上げたW氏曰く、50人集まればいいほうかな? と考えていたらしい。実際にはその6倍の300人が集まってしまったわけで、会場がパンクするのではないかと思ったほどだ。
正直な話、説明会の時点では、NEET株式会社が上手くいくという保証はどこにもなかった。だが、少なくとも退屈はしなさそうである。統合失調症と血友病を抱えたまま何もせずに朽ちていくという選択肢は、論外であったので、僕はこの企画に乗ってみることにした。
説明会のあと、NさんというIT技術に詳しい人と、中小企業共和国という団体の支援によって、SNSとメーリングリストが立ち上げられた。そこに参加した200名以上の人たちは、SNSで思い思いの夢を語り合った。同じ頭文字なので紛らわしいが、Sさんという方にも出会った。ボードゲーム(電源を使わないゲーム)が好きで、ゲームを作ってみたいという夢を聞くうちに、自分の胸の内に秘めていたタロットに関する記憶が泡のように浮かんできた。
中学生のとき、美術部でタロット大アルカナをモチーフにした22個のデフォルメされたキャラクターを描いたことがある。だが、文化祭に出すクオリティであるとはとても思えず、自己嫌悪の果てに、絵を塗り潰したという苦い思い出。
だが、そのSNSでは、そんなネガティブな思い出すら原動力となり、タロットを使ったゲームを作りたいという具体的な案がまとまっていった。Y氏がルールの原案を作り、僕がそのルールを大きく誤解したことによって、タロットをモチーフにしたカードゲームのプロトタイプが誕生した。
カードゲームというものは、プリンタとカードスリーブ、補強用のカードがあれば比較的安価に自作できる。印刷に次ぐ印刷。調整に次ぐ調整。プロトタイプを配り、実際に遊んでもらって、面白い点とつまらない点を聞き出す。つまらない部分は切り捨て、面白い部分はどんどん伸ばしていく。そんな地道な努力の果てに、「アーガーデュエル」は印刷屋に入稿され、めでたく完成した。
200人以上の大所帯になってしまったため、メンバー間の調整に時間を食い、NEET株式会社はこのときまだ登記されていない。そのため、アーガーデュエルは「NEET有志タロットゲー事業部」という名前で、2013年11月のゲームマーケット(電源を使わないゲームの祭典)で売り出された。初めてのゲームマーケットでは、100個中75個が売れた。利益はあまり出なかったが、自分たちでゲームを作ったという満足感は、かけがえの無い体験となった。