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風呂死 BATH AND REBIRTH

 風呂死。


 それは、風呂に入ると「死ぬ」という強固な強迫観念であり、精神的な体験である。実家で介護されて暮らす以上、実家のルールには従わねばならない。僕は毎日夜8時になると風呂に入るように言われる。そして風呂に入って「死ぬ」。理屈は分からないが、そういうことになっている。おそらく湯船に漬かったタイミングで、僕は「死ぬ」。過去との連続性が断ち切られ、現在の自分を認識できなくなり、死と再生を繰り返す。


 BATH AND REBIRTH


 僕は風呂が嫌いというわけではなかったが、さすがに理不尽な「死」の繰り返しに、いささか諦観じみたものを覚えずにはいられなかった。なにしろ、何度も何度も「死ぬ」のである。医者に説明しても、友人に説明しても、首を捻られるのがオチであった。ギリシャ神話に、風呂死の神とかがいてもよさそうなものだが、いくら調べても似たようなケースが無い。となると、統合失調症の影響による、病気の症状であると結論するしかない。


 毎日々々夜8時に確実に「死ぬ」ことから、僕はデル・カーネギー著『道は開ける』に書いてあった文句を、実際に忠実に実行する羽目になった。イエス・キリスト曰く、「明日のことを思い煩うな」がそれである。

 また「過去と未来を鉄の壁で閉ざせ。今日一日の枠の中で生きよう」と本に書いてあった。まさにそれこそが文字通り真理になってしまったのだから、たまったものではない。


 迫り来る風呂死に怯えながら、今日できることをTODO(やることリスト)に書き出し消化していく。それはまるで、童話『100万回生きたねこ』を地でいっているようであり。誰にも理解されないまま一生を「死」の連続で終えるのかと思うと、もうなるようになれと思ってしまって。


 100回か200回くらい死んだあたりで、僕は逆に悟りを開いてしまったかのように、むしろ積極的に人生の設計図を思い描くようになり、おそらく本当の意味で、今を生き始めたのである。

 何かを成し遂げねばならぬ。今までできなかった、何かをやり遂げねばならぬ。そう思って日々を見つめ直してみると、なるほど世界には改善すべき点、ひび割れがたくさんあるように思えてきた。僕は30代になったのだ。そろそろ自分の人生について、覚悟を決めなくてはならない。

 MtGというトレーディングカードゲームから、一つ雰囲気付けの文章フレーバーテキストを引用しよう。


>誰もが言葉を発しなかった。 その必要が無かったから。 エルドラージの脅威に対しては、単純な選択しかなかった。武器を置いて無力に死すか、武器を握り締めて微力に死すか。

>――英雄の時


 僕の人生は、このあと大きく様変わりすることになる。

 具体的には、2013/06/11(火)NEET株式会社の説明会に参加したことによって。

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