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【どこから始めますか?】【つづきから】

作者: 埋木花咲

連載中に思いついた小話です



連載中

【死神様がいるセカイ】

http://ncode.syosetu.com/n7411cg/


こちらもよろしくお願いします

【体感型RPG・人生やりなおしませんか? をプレイいただきありがとうございます】


【このゲームは、あなたの人生を元にして作られたゲームです】


【どこから始めますか?】


【はじめから】【つづきから】




こんな阿呆らしいゲームを始めたのには訳がある。決して俺の意思じゃない。


(まこと)は誰にともなく呟いた。



高校一年の夏。

俺は恋をした。


相手が誰だったかなんて、思い出したくもない。そんな苦い恋だ。

それが、俺をここまで駄目人間にするなんて思っても見なかった。

今でも後悔している。あの時「好きだ」と伝えてしまったことを。



そして、俺は迷いなく


【つづきから】


を選択した。






雨が頬を濡らす。だけど空は晴れている。俗に言う、狐の嫁入りだ。

歩道橋の下を車の列がとめどなく流れている。排気ガスがクサい。

右隣の歩道では、真っ赤な風船を配る熊が暑さのためか、顔の部分を取り外そうとしていて。

左側の歩道では、おやつを買ってもらえなくて愚図る子どもを、母親が殴り飛ばしていた。

そして歩道橋に立つ少年の隣には、少女がいた。


三年前のあの日と変わらない、何の変哲もない日常の風景である。






「今日も暑いねー」


彼女は言う。


「……そうだな」


俺も答えた。



長い沈黙が二人を包む。

久しぶりに聞いた声は、どこか想像とは違った。



「……あんたさぁ」


そう言いながら彼女がこちらを見る。


「進路とか、決めた?」


「まだ俺ら、高一だぜ?」


「そうだけどさぁー」


彼女がぶらぶらと足を揺らす。

この仕草は何か言いたいことがあるけど、言えない時の仕草だった。


「お前はなんか決まってんの?」


そう聞くと、彼女はこちらに向けていた目を、遠く前方へと向けた。


「……決まってるよ」


その瞳には一瞬の揺らぎもなくて。俺はなぜか負けた気になった。


「ま、あれだろ。お前の夢なんて、飯いっぱい食うことくらいだろ」


そんなからかい文句しか言えない自分が悔しかった。


「違うよ」


そんな自分に真面目に答えて来るこいつが、憎らしい程、俺は大好きだった。


「じゃあ何になるのさ」


「言わない」


「何も考えてないんだろ」


俺は歩道橋の階段を降りながら聞く。

彼女が小走りでついてきた。


「ちゃんと考えてるもん」


「じゃあ言ってみろよ」


「いわないもん!」


「は? なんなんだよ」


「……なんで怒るの」


「お前のそう言うとこ面倒臭い」


「……なにそれ」


「もう帰ろうぜ。送ってくよ」


空を爆撃音のような轟音を立てながら、移動していく飛行機。


「……たかった」


大事な部分は、その音にかき消された。


「……なんだって?」


「わたしは……あんたの」


そして俺がその言葉の続きを、聞くことは二度となかった。



身体に強い衝撃が走る。その瞬間、黒いものが視界の端を横切った。



痛む体を無理やり起こし、俺は隣にいたはずの彼女を探した。



そして見つける。

数メートル先に転がる、彼女の肢体を。



不思議なことに、悲鳴は出なかった。

ただ無音の世界が、俺を包んでいた。



彼女に駆け寄る。



「おい」



そう声をかけ身体を揺する。

彼女がうっすらと目を開けて、俺を見た。

そして一言。



「……(りょう)……よかった」



そう呟いて、目を閉じた。



「……と?まこと?おい、目を開けろよ、まこと」



いくら揺すっても、その身体は自力では動こうとしなかった。






その日から俺は、彼女の姿を追い求めた。



ついには、彼女になることを、望んだ。



俺の中で、何かが壊れた瞬間だった。






そんなある日、小包が届く。


中を見ると【体感型RPG・人生やりなおしませんか?】と言う文字があった。

なにも考えず、それをゲーム機にセットする。



【体感型RPG・人生やりなおしませんか? をプレイいただきありがとうございます】



暗闇の中、そんな言葉が踊る。



【このゲームは、あなたの人生を元にして作られたゲームです】


【どこから始めますか?】


【はじめから】【つづきから】




こんな阿呆らしいゲーム。信じられるわけないじゃない。

……だけど、あの日に戻れるなら。私はもう一度、真に会いたい。


俺は誰にともなく呟いた。




高校一年の夏。

俺は恋をした。


相手が誰だったか、忘れられやしない。そんな俺の全てをかけた恋だった。

それが、俺をここまで駄目人間にするなんて思っても見なかった。

今でも後悔している。


あの時「好きだ」と伝えなかったことを。



あの事故さえなければ、俺は真を失わなかった。



そして、真として生きて行こうと、思うこともなかった。



隣で彼女が笑っていたはずなのだ。






そして、俺は迷いなく


【つづきから】


を選択した。

涼を失い、涼として、男として生きてきた真。

彼女が【人生やりなおしますか?】というゲームを

手に入れたところから始まる物語です。


彼女はやり直すことを望みます。

そして、やりなおした世界で、涼を助けます。


が、世界は繰り返されて。


今度は真を失った涼が

ゲームをプレイし始めてしまう……。



というところで完結している物語です。




お読みいただき、ありがとうございました。

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