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妖魔夢想  作者: 四畳半
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第6章「日常・学校にて」

 教室にて。

 進級してから数日後に入学式を迎え、生徒の数が多くなった。

 授業もそこまで苦ではなく、割と付いていける。

「では、授業を始めます」

 何回かこの人を見ているが未だに慣れない。

 教壇の上に立つのは中国人の李・仙華(リ・シェンファ)先生だ。

 外見は僕達と同じくらいだが実年齢は300歳を超えている。

 勿論一般人ではなく、仙術を自在に操る魔術担当の人間だ。

 仙術というのは簡単に言ってしまうとチートじみたものであり、見えないものを見えるようにしたり、逆に自分が透明になったり、ただの石を金の塊に変えたり、死者を蘇らせたり、不老不死になったりと何でもありな魔術なのだ。

 しかしその分なるには常人には不可能とも言える程の努力や修練を積み重ね、『枯れる』必要があるという。

 ここらへんの思想は僕には到底理解できないので割愛。

 先生がタッチペンを手に取り、液晶ボードにすらすらと魔術の概要を書いていく。

 僕は机の上に備え付けられたノートパソコンに文章を入力していく。

 ちらっと横目で祀達に目を向けると皆普通に扱っていた。

 ちょっと意外。

 彼女の行う授業は大変難解だと評判だ。

 筆記は教科書の暗記でどうにかなるが実技は人によっての資質がある分、そうはいかない。

 僕には残念ながらそっちの資質は無いのでこの授業は暇で仕方がない。

 遅くまでネットの掲示板に書き込んでいて寝不足な僕は大きなあくびを一つした。

「みっともないなぁ、そんなに大きな口を開けて」

「寝るのが遅くなってね……そう言うそっちは僕より寝るのが遅いだろうに余裕そうだね」

 僕は隣人の男子生徒・天野雅(あまの・みやび)に目を向けた。

 名簿的におかしいだろうが、席はすぐに自由となったのだ。

 祀は僕の左隣に。

 阿形と吽形は僕と祀の後ろの席に着いている。

 で、雅は僕の右隣。

 天邪鬼(あまのじゃく)である雅はククク……と卑しい笑い方をする。

「今日はボクの所に美味いカモが来てね。結構お金が稼げそうなんだよ」

「客をカモって言うのはどうかと思うけど」

「それはそうだね、注意しよう」

 彼と関わってからそこまで経っていないがすぐに気付いた事がある。

 詐欺師的な性格で金にがめついという事だ。

 人から避けられるタチだが本人は懲りずに寧ろそういう状況を利用しているフシすらあるので手に負えない。

「授業はあと……十分で終わりですか」

 液晶ボードにすらすらと長ったらしい文章を書いていた仙華が壁の時計を見る。

 僕を含めた魔術苦手生徒は涼しい顔をしながらも内心はガッツポーズをして歓喜に震えている事だろう。

 もう少しで今日の難問が終わる。

 早くも数人はパソコンのモニターを閉じている。

 流石に早いがそれ程嬉しいという事だろう。

 僕もタイピング練習じみた事は今すぐやめたい。

「……では、一応今日やる分は終了しましたし、実技のテストでもしますか」

 仙華がいきなりそんな事を言った。

 クラスの時間が止まる。

 そんな中で普通の状態なのは祀、阿形、吽形、千鶴くらい。

 そうして次に起きたのはざわめきだった。

 多くの生徒が嘆いている。

 勿論僕もだ。

 というか普通授業の最初にやるものじゃないか、それ。

 祀達は至って普通。

 やはり神社の運営に携わっているだけあって魔術は得意のようだ。

 超能力者である巳肇や千鶴はどうなのだろうか、と思い、見てみたが二人共涼しい顔だ。

 もしかしたら魔術も能力も本質的なものは変わらないらしい。

 確か魔術は魔力を何らかの道具を媒体にして様々な現象を起こす事だし、超能力は自分の精神エネルギーを魔力に変換して媒体無しで様々な現象を起こす事だ。

 それくらいしか違いはない。

「静かに。点数が悪かった人は居残りですよ」

 ざわめきは更に一層大きくなった。

 先生、勘弁してください。

「安心してください、夜行君には特別授業があります」

 僕は噴き出す。

 何も言えなかった。

「夜行は先生のお気に入りみたいだね」

「君は何を言っているんだ」

 僕は呆れた目を雅に向ける。

 彼は肩を竦めた。

「特別授業って事は先生と二人きりな訳じゃん。という事は……僕の言いたい事がわかるだろう?」

「……ぶっ! エロゲじゃあるまいし、そもそも僕は先生にそんな感情は抱いていないよ」

「本当に? 経験豊富そうだけど奥手かもよ。仙術は常に修行していないとだからね」

 僕は呆れて嘆息した。

 まったくおめでたい奴だ。

 仙華は僕の『事情』を知っている数少ない人なだけだ。

 それにしてもさっきから祀の視線が痛い。

「夜行……君は自覚していないかもしれないけどまわりの男子には気を付けなよ」

 突然雅が声を低くしてそんな事を重々しく告げた。

「どうして?」

「君が一級フラグ建築士だからさ」

「……はぁ?」

 まるで意味がわからない。

 僕が一級フラグ建築士だって。

「その通りじゃないか。祀さん、阿形ちゃん、吽形ちゃん……3人と同棲しているんだろう? それなんてエロゲ?」

「同棲しているだけじゃん」

 僕がそう言った瞬間クラスの男子の半数近くがこちらに殺意を向けた――気がした。

 僕はごくりと唾を飲む。

 迂闊に変な事を口走れば殺される。

「……過ちはもう犯したんだね」

「待ってくれ、僕は一言もそう言っていない。まだ童貞だ」

 殺気が爆発的に大きくなる。

 パキッ。

 何人か歯ぎしりしすぎて歯が欠けたらしい。

 こいつ、僕を亡き者にしたいのか。

 僕は助けを求める為に祀達に目を向ける。

 しかし誰も反応は無かった。

 多分僕が苦しんでいる状況を楽しんでいる。

 ちょっと待ってくれ。

「そうか、4Pまで……アッ――!」

 僕は渾身の力で彼の脛を蹴った。

 雅は変な奇声を上げながら机にうずくまる。

 なんとか助かった……。

 僕は汗を拭う。

 他の生徒には聞こえていなかったようだ。

 僕は前に向き直る。

 そこに仙華が――居なかった。

 僕は首を傾げるがその理由はすぐにわかった。

 彼女は僕の隣に立っていた。

「夜行君……何度呼べばわかるんですか」

「先生……これには深い事情が」

 僕の言葉を遮ったのはボールペンだった。

 正確に言うと金の棒となったボールペン。

 それが僕の机に突き刺さっている。

 僕は思わずゾッとした。

「良いですか? 君の番ですよ」

 にこにこしているのが逆に怖かった。

 僕はただこくこくと頷くしかない。


 勿論抜き打ち実技テストの結果は散々だった。

 マジックアイテムの起動すらまともにできない。

 僕は嘆息して席に着く。

 いつの間にか机に空いた穴は塞がっていた。

 そして雅も復活していた。

「冗談が過ぎたよ」

「わかればいいさ」

 すると雅がこちらの耳に顔を近付ける。

「そうそう、最近面白い情報を仕入れたよ」

「タダで聴けるなら聞く」

「裏が取れないし、多分結構噂になってると思うからタダにしようか」

 これが彼にとっての会話の仕方だ。

 話を聞いてから「100円払って」なんて言われたらどうしようもない。

「この辺りに軍の手が伸びているらしいよ」

「軍? なんでそんな」

「まぁ日本には陸、地底、海、空、宇宙と複数の軍があって更に複数の司令が存在するから一部なのかそれとも全体での動きなのかはわからないけど」

「朧想街って軍の目に入る程利用価値のある場所なの?」

「影響力はあるけど利用価値になるかと言われればどうだろ」

 ふぅーんと僕は適当に相槌を打ってモニターに視線を戻す。

 そうしてふと窓の外に目を向けた。

 何か思惑が渦巻いている気がする。

 そんな事を思った。


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