転生管理官
俺は転生管理官だ。
転生ゲート手前のカウンターに立ち、来世へと転生する人間たちを導くのが、俺の仕事だ。
前世での生を終えた人間たちは次々と、動く道のようなものに乗って、俺の前に流れてくる。
前世での生を終えて、来世へと向かう人間たちと多少の会話をして、愚痴や後悔などを聞いてやってから、転生ゲートへと導く…というのが、転生管理官という仕事だ。
早い話が、転生管理官というのは愚痴や後悔を聞いてやるマシーンだ。
もちろん、たまには転生したくないと駄々をこねる人間もいるが、それを強引にでも転生ゲートに押し込むのも、俺の仕事だ。
うんざりするような仕事だが、もううんざりしすぎて何とも思わなくなっている。
そうでなければやっていけないのも、転生管理官という仕事だ。
色々な人間がやってくるので、面白いと言えないこともないが…
とにかく仕事は仕事なので、やらなければならない。
またひとり、前世での生を終えた人間がやってきた。
まだ若い…少年と青年の間ぐらいの若者だ。
「…僕は…死んだんでしょうか…?」
ここに来る人間たちがまず最初に口にするのは、このセリフだ。
「はい、あなたはお亡くなりになり、これから来世へと転生することになります」
俺はマニュアル通りの言葉を返す。
すると若者は
「あのっ…僕、好きだったゲームの世界に転生したいんですけど…!」
と目を輝かせて言った。
結構な割合で、こういった勘違い系の人間は、いる。
「ゲームの世界への転生はできません」
俺が答えると、
「えぇっ?!転生って好きな世界に行けるんじゃないんですか?!」
若者は驚いたように言った。
「行けません。あなたが前世で暮らした世界にしか転生できません」
俺の説明に、若者はまだ困惑していた。
「魔法が使える世界に、チート能力持ちとして転生…とかは…?」
「できません」
俺は端的にそう答えた。
「あなたはあなたが生前暮らしていた世界のどこかに転生します。それはあなたが暮らしていた街かもしれませんし、遠くの国かもしれません。すべては運と、偶然です」
淡々と説明する俺に、若者は
「そんな…だったらもっと生きていたかったよ…事故でいきなり死ぬとか最悪だよ…」
と落胆した様子でつぶやいた。
「あなたが亡くなったのも、運と偶然でしょう。転生ゲートへどうぞ」
俺は転生ゲートを指し示し、動く道は若者をゲートへと運んで行った。
次にやってきたのは、派手な見た目の女性だった。
「…あたし、死んだの…?」
声は男だった。
「はい、あなたはお亡くなりになり、これから来世へと転生することになります」
見た目と声の違いにちょっと驚いたが、それは表に出さず、俺は言った。
「…あたし、男に生まれちゃったけど、女に生まれたかったの…今度こそ、女に生まれたいって思うんだけど、それって叶えてもらえる…?」
なるほど、心と体が合致していない人間だったのか。
「男性として生まれるか女性として生まれるかは、ご自身の希望で決めることはできません」
俺がきっぱりと言うと、彼女?はがっかりした顔で
「…そうね…前世でもそうだったんだもの…女に生まれたかったけど、男に生まれちゃったんだもんね…」
と言って、ため息をついた。
なので俺は
「あなたは男に生まれても女性として生きてきたのではないのですか?転生して同じことになっても、あなたはまた、女性として生きる道を選ぶのではないですか?それならそれで良いではありませんか」
と、ちょっとだけ自分の考えを伝えてみた。
すると彼女は目を見開いて
「…そうね、きっとあたし、また男になっても女になるわ。それでいいのよね…子供産めないのが悲しいけど…でも、形だけでも女になりたければ、なればいいのよね…!」
そう言って、少し笑った。
俺も少しだけ笑って
「はい、転生ゲートへどうぞ」
と転生ゲートを指し示し、彼女は動く道でゲートに運ばれて行った。
次にやってきたのは、まだ幼いと言える少年だった。
「…僕、死んだんですね…」
震える声でそう言う少年に、
「はい、あなたはお亡くなりになり、これから来世へと転生することになります」
と伝えると、少年はうなずいて
「…今度は、いじめられたりしないようなとこに生まれたいです…」
小さな声でそう言った。
「どこに生まれても、いじめるやつはいるでしょう」
俺がそう言うと、
「そんな…またいじめられるなんてイヤだ…!」
少年は目を見開いて声を上げた。
「いじめられたら、いじめ返せばいいのではないでしょうか」
俺の言葉に、少年はさらに目を見開いた。
「そんなっ…僕、そんなことできない…!」
俺はため息をついて、続けた。
「人をいじめるような奴は、相手がいじめられてもやり返さないような人間である場合、さらにいじめます。なら、やられるばかりではなく、やり返せば良いのです」
すると少年は、
「…そうか…やられっぱなしじゃなくて、復讐すればよかったのか…」
とつぶやいた。
「そうですね、何か悪いことをやられたら、やり返す権利は生じるでしょう」
うなずきながら俺が言うと、
「次は、いじめられっぱなしになんかならない…!」
と、少年は決意をこめた目で転生ゲートを見つめた。
「はい、転生ゲートへどうぞ」
俺が転生ゲートを指し示すと、少年は大股で堂々と歩いて行った。
…歩かなくても動く道なんだけどな…
次にやってきたのは、中年というより壮年といった感じの男だった。
「わしは死んだのか?!」
いきなりそう大声で言われたので、
「はい、あなたはお亡くなりになり、これから来世へと転生することになります」
と、マニュアル通りの言葉を返すと、男は怒り狂い出した。
「ふざけるな!!わしはまだ死ねんのだ!!」
大声を張り上げて怒鳴り始めたので、
「ここにいらっしゃる方のほとんどが、そうお思いでしょう」
俺はうなずいて、そう言った。
「やっと…やっと会社が大きくなって、社会的地位も上がって政界進出を考え出したところだというのに!!ふざけるな!!」
男は怒鳴り続けた。
「それはご愁傷様です。ですが、あなた以外の亡くなった方々の中にも、あなたと同じようにやり残したことがある方はいらっしゃいます。あなたひとりではありません」
俺がそう言うと、男は
「ふざけるな!!わしと他の人間とでは価値が違うのだ!!わしは、何も成していないような小者とは違う!!わしはまだ死ぬわけにはいかん!!」
と、さらに声を大きくして怒鳴り散らした。
「人の命の価値は同じです。会社社長であろうと、生まれたばかりの赤ん坊であろうと、人の命の価値は等しく同じです。そんなことすらわからないあなたが、政治家などになることなく亡くなったのは、周囲の人たちにとっては幸いでしょう」
俺の言葉に、男は顔を真っ赤にして怒りだした。
「貴様っ!!貴様っ…!!」
俺に殴りかからんばかりの男に、
「はい、転生ゲートへどうぞ」
と言うと、動く道は男を乗せてゲートに向かった。
男はまだ何かわめいてるようだったが、無事に転生ゲートに吸いこまれて行った。
次にやってきたのは、三十代ぐらいの痩せた女だった。
「私は、死んだのでしょうか…?」
戸惑ったような、心細げな表情で女はそう言った。
「はい、あなたはお亡くなりになり、これから来世へと転生することになります」
と、マニュアル通りのセリフを言うと、女は
「私…天国に行きたいんですが…行けますか…?」
と言った。
なので俺が
「ここからは天国にも地獄にも行けません。次の生のために、あなたが暮らしてきた世界のどこかに生まれ変わるだけです」
と答えると、女は
「えっ…天国はないんですか…?」
と目を見開いて尋ねてきた。
「少なくともここからは天国には行けません。生まれ変わるだけです」
俺が改めてそう説明すると、
「そんなっ…まじめに頑張れば大病もせず幸せに暮らして…天国に行けるって、そう信じてたのに…ガンになってっ…治らなくってっ…」
と悲壮な表情になって、女は言った。
ははあ、宗教関連の人間だな…と俺は思い当たった。
今までにも結構な数の宗教関連の人間は見送ってきた。
その人間たちはことごとく、天国があると信じていたようだった。
「天国に行けなくても、次の人生はもっと幸せになれるかもしれませんよ。まじめに頑張れば大病にならないなんて、そんなことはないってわかったんですから」
俺がそう言うと、女は目を見開いて瞬きした。
そして
「…今度は、もっと…幸せに…なら、もっと好きに生きたい…です…」
とつぶやいたので、
「はい、転生ゲートへどうぞ」
と俺は女に転生ゲートを指し示し、動く道は女をゲートへと運んだ。
次にやってきたのは、まだ若い…少女から大人になったばかりのような女だった。
「…私…死んだのね…」
自分が死んだのはちゃんと理解しているらしいので、
「はい、あなたはお亡くなりになり、これから来世へと転生することになります」
と、マニュアル通りの言葉を伝えた。
「…私だけ、死ぬなんて…」
どうやら、何か事情があるらしい。
「私だけ…とはどういうことでしょう?」
とりあえず尋ねてみると、女は
「彼氏に浮気されてっ…彼を殺して私も死んだつもりだったのにっ…私だけ死んだの…?」
と聞き返してきた。
「さて、あなたの彼氏とやらがどのような方なのかは存じませんので、当方にはわかりかねますが」
と俺が言うと、
「悔しいっ…!!死にたくないっ!!」
と女は鬼の形相になって地団太を踏み始めた。
地団太を踏む人間なんてホントにいるんだな。
驚きつつもそれを表情に出すことなく、
「死にたくないと仰られても、もうあなたはお亡くなりになっているのでどうしようもありません」
俺がそう言うと、女は
「帰るっ!!帰る!!帰って、彼を殺すっ!!」
とわめき始めた。
俺はため息をついて
「もう戻れませんよ。あなたはお亡くなりになって、これから転生するのですから」
と女に向かって言った。
「いやよっ!!絶対帰る!!転生なんてしたくない!!」
女はわめき続けたので、俺はまたため息をついた。
そして
「あなたのように、死にたくない、転生もしたくないと駄々をこねた人間は、死ぬより辛い…地獄を見ることになりますよ。当然、生き返ることもできません」
と、駄々をこねられた場合に使うようにとマニュアルに書かれたセリフを発してみた。
「…なに…それ…」
女はわめくのをやめて、目を見開いて俺を見た。
「試してみますか?」
目を細めて女に向かってそう言うと、女は黙り、おとなしくなったので
「はい、転生ゲートへどうぞ」
俺は転生ゲートを指し示し、女は動く道でゲートへと運ばれて行った。
次にやってきたのは、失礼ながら薄汚く見える中年の男だった。
「俺…死んだのか…」
「はい、あなたはお亡くなりになり、これから来世へと転生することになります」
マニュアル通りのセリフを返すと、男は
「オヤジとオフクロに…殺されたのか…」
と、とんでもないことを言った。
俺はちょっと興味がわいたので
「なぜご両親に殺された…と?」
と尋ねてみた。
すると男は
「俺がニートだったからだよ…」
と答えた。
ああ、それは殺されても仕方ない…と思ったが、なぜこの男が中年になるまで両親はニートのままでいさせたのかも気になった。
「なぜご両親はあなたを、その年になるまでニートのままでいさせたのですか?そしてなぜ、今になって殺したのでしょうか?」
と聞いてみると、
「知らねえよっ!毎日ちゃんとメシを俺の部屋の前に置いてたのに!ネットでもゲームでも何でも俺の好きにさせてたのに!なんで今さらって、俺が聞きてぇよ!!」
と男は怒鳴り始めた。
「あなたと、ご両親のお年はおいくつだったのですか?」
俺がそう聞くと、男は
「…俺が59でオヤジとオフクロは80…いくつだったかな…」
と答えた。
「なるほど、ご両親はご自分たちが亡くなられた後のあなたのことを思いやって、あなたの命を奪うことにしたのですね」
俺がうなずきながらそう言うと、男は
「…は?それのどこが思いやりだよ?!」
と、また怒りだした。
「あなたは自分の部屋にこもりきりで、お母様の準備して下さったご飯を自分の部屋で食べていたのでしょう?もしお母様が亡くなったら、どうするつもりだったのですか?」
俺の言葉に、男は
「親が死んだら、俺だって働いたさ!!」
と言った。
なので
「本当に?還暦前まで働かずに自室にこもっていたあなたが、ご両親がいなくなったからといって外に出て働けるなどと、本気で思っているのですか?」
と俺が言うと、男は目を見開いて黙った。
「ご両親は、ご自分たちが亡くなった後、あなたは働きに出ることもできず、下手をすれば飢え死にするのではないかと心配されたのではないですか?そして今頃…ご両親も自ら命を絶っているかもしれませんよ?」
俺がたたみかけるように言うと、男はうつむいてしまった。
しまった、正論で追い詰めすぎたか。
そう思ってちょっと後悔していると
「…どうすりゃいいんだよ…」
男はうつむいたまま、ぽつりとそう言った。
なので俺は
「はい、転生ゲートへどうぞ。次はご両親に殺されないような生き方ができればいいですね」
と、マニュアル通りの言葉にちょっとひと言足して、男に転生ゲートを指し示した。
男はうつむいたまま、動く道によってゲートに運ばれて行った。
次にやってきたのは、疲れた顔をした中年の女だった。
「私…殺されたの…?」
いきなり物騒な…と思ったが、まあ殺されたにしろ病気で死んだにしろ、死んだからここに来たんだろう。
と思ったので、俺は
「はい、あなたはお亡くなりになり、これから来世へと転生することになります」
と、マニュアル通りのセリフを返した。
「何が…何がいけなかったの…?かわいい息子のために、いい塾にも入れたし、そのおかげで成績だってすごく上がって先生方にもほめられたのに…何が…何が…?!」
と女が頭をかきむしりながら取り乱し始めたので、
「いい塾に入って成績を上げて先生方にほめられることは、息子さんが望んだことですか?」
と尋ねてみると、女はさらに頭をかきむしりながら取り乱した。
「成績さえ良ければ、いい大学にも入れるでしょ?!そしたらいい会社にも入れるでしょ?!それのどこが悪いのよ?!」
叫ぶ女に
「息子さんが何を望んでいるのか、聞いてみたことはありますか?」
と聞いてみると、女は頭をかきむしるのをやめた。
「…ないわ」
女はぽつりとそう言った後
「だってあの子、何も言わなかったんだもの!!何も言わなきゃわからないじゃない!!わからないなら、親としてできる限りのことをしてあげたいじゃない?!全部私のせいなの?!」
と叫んだ。
なので俺は
「じゃあ、息子さんも悪いですね」
と女に言った。
女は顔を上げて、こちらを見た。
「何かやりたいことがあれば、息子さんだってあなたに言えば良かったんですよ。何も言わずにあなたを殺すなんて、そりゃ息子さんも悪いですよ」
俺の言葉に、女は気が抜けたような顔になった。
「…やっぱり私が悪いんだわ…あの子が私に何も言えなかったのは…私が悪かったんだわ…あの子のせいじゃない…」
結局この女は、息子が大好きで大切で仕方ないんだろう。
その大切な息子に殺されたんだから、本望と言えば言えるんじゃないのか?
俺はもうこれ以上この女に何を言っても堂々巡りだと思ったので
「はい、転生ゲートへどうぞ」
俺は転生ゲートを指し示し、女は動く道でゲートへと運ばれて行った。
次にやってきたのは、かなり高齢の男性だった。
「私は…やっと死ねたのですか…」
ここに来る人間の第一声ではかなりレアなセリフだ。
「はい、あなたはお亡くなりになり、これから来世へと転生することになります」
とマニュアル通りのセリフを返しつつも、俺は”やっと”という言葉が気になった。
「…やっと、と申しますと?」
と老人に尋ねると、老人は
「私は百年以上生きてしまったのですよ…」
と悲しげに答えた。
「それは…そんなにも長生きなさったなら、ご家族なども喜んでいらっしゃったのでは?」
また俺が尋ねると、老人は首を横に振った。
「八十を超えた娘夫婦が私の面倒を見てくれていたのです」
老人の言葉に、俺は驚いた。
「…超老老介護…ですね…」
俺がそう言うと、老人は笑った。
「言いえて妙、ですな。そうです、超老老介護の末に、娘夫婦が先に亡くなってしまったのです」
老人は泣き笑いのような顔をして、そう言った。
そして
「長生きなどするものではない…と、私は私の長寿を恨みました。なので、やっと死ねた…と喜んでいるのですよ…」
老人は、ちょっと安心したように言った。
「…ここには、死にたくなかったのに死んでしまった若者がたくさん来ます。彼らのことを思えば、あなたは贅沢ですよ」
俺がため息をつくと、老人は
「それはそうでしょうけどね…でもね、子供たちを見送る側も辛いんですよ…若くして亡くなった人たちにだって、きっと家族はいたでしょう。その人たちに先立たれた親御さんの気持ちが、私には痛いほどわかります…」
と、そう言った。
「…そうですね、失礼しました。なるほど、見送る側も辛いのですね…」
俺がそう言うと、老人は俺の顔をじっと見つめて言った。
「あなたも若くして亡くなったのでしょうか?それならきっと、あなたの周りの人たちも、とてもお辛かっただろうと思いますよ…」
俺が?
若くして死んだ…?
…わからない。
俺は自分の見た目すら、知らない、わからない。
俺は俺がどこからここに来て、転生管理官になったのかも、わからない。
俺が考え込んでいると、老人が言った。
「…で?私はこれからどうすれば良いのですか?」
俺ははっとして
「は…はい、転生ゲートへどうぞ」
と老人に転生ゲートを指し示し、老人は動く道でゲートへと向かった。
次にやってきたのは、高齢の女だった。
「私は…死んだのね…」
落ち着いた様子で、女はそう言ったので
「はい、あなたはお亡くなりになり、これから来世へと転生することになります」
と、マニュアル通りのセリフを返した。
どうやらたいした愚痴も後悔もなさそうなので、スムーズに送りだせそうだ。
そう思っていると、女は
「…あなた、こんなところにいたの…?」
と俺に向かって言った。
俺が?
こんなところにいたのかって??
「あの…私のことをご存じなのですか…?」
俺がそう尋ねると、女は
「…忘れてしまったのね…私は一日たりとも忘れたことはなかったのに…」
と悲しげに言った。
なので俺は
「…私には何の記憶もないのです。気づけばここにこうして立っていて、毎日やってくる人々を転生ゲートに送り出すという仕事をしていたのですが…」
と正直に答えた。
すると女は
「あなたは、私との結婚式の前日に…車を運転していて、対向車線をはみ出してきた酒酔い運転のトラックと正面衝突して、死んでしまったのよ」
と言った。
その言葉を聞いた瞬間、走馬灯のようにその時の記憶が蘇ってきた。
そうだ…仕事場から家に戻る途中、トラックと正面衝突して死んで…それから俺はここに来た。
そして…
「まだ死ねない!死ねないんだ!」
と叫びながら、動く道を逆走して…
その後の記憶がない。
気づけばここに…転生ゲートに向かう道にあるカウンターに転生管理官として立っていて、いつの間にか転生管理官の仕事をしてたんだ。
なんてことだ。
俺は全てを思い出して、呆然とした。
「…一緒に行きましょう」
女は、そう言ってほほ笑んだ。
その笑顔は、恋人だった彼女のものだった。
行きたい、一緒に。
このカウンターを飛び越えて、行きたい。
「…行けないんだ…」
俺の脚は、ここに縛り付けられたまま一歩も動けない。
寝ることも、食べることもなく、ただここに立っているだけだ。
「動けないんだ…」
俺はそう言って、ただ涙を流すしかなかった。
死にたくない、転生もしたくないと駄々をこねた人間は、死ぬより辛い…地獄を見ることになる。
当然、生き返ることもできない。
死にたくないと言った人間に対して使うマニュアルのセリフが、脳裏によぎる。
あれは、俺のようになるってことなんだ。
死にたくなくて、転生もしたくなくて…動く道を逆走した人間は、俺みたいになるってことだろう。
彼女に同じ轍を踏ませるわけにはいかない。
俺は涙をふいて、できるかぎりの明るい笑顔を作り、
「転生ゲートへどうぞ」
と彼女に向かって言った。
彼女は涙を浮かべながらもうなずいて、動く道によって転生ゲートに向かった。
彼女は振り返って
「忘れなかったから!ずっと…ずっとあなたを忘れられなくて、ひとりでいたから!だから…だからっ…」
と叫んだ後
「あなたと暮らした時間、幸せだったわ!!…ありがとう!!」
と言いながら、ゲートに吸いこまれて行った。
俺はただ、見送るしかできなかった。
俺は転生管理官。
転生ゲート手前のカウンターに立ち、来世へと転生する人間たちを導くのが、俺の仕事だ。
前世での生を終えた人間たちは、動く道のようなものに乗って、俺の前に流れてくる。
前世での生を終えて、来世へと向かう人間たちと多少の会話をして、愚痴や後悔などを聞いてやってから、転生ゲートへと導く…というのが、転生管理官という仕事だ。
たまには転生したくないと駄々をこねる人間もいるが、それを強引にでも転生ゲートに押し込むのも、俺の仕事だ。
人生は一度きり。
不慮の事故などでいきなり死ぬこともあれば、長患いの末に死ぬこともあるが、どちらにしても死は誰にでもやってくる。
死んでから後悔したくなければ、悔いの残らないように日々を精一杯生きなければならないだろう。
後悔しても、もう二度と生き返ることは出来ないんだから。
転生したくない、死にたくないと道を逆走すれば、俺と同じことになってしまう。
だから俺は、やってくる人間たちを必ず転生ゲートに送り出さなければならない。
それが俺の…転生管理官の、大切な仕事だ。
さあ、次はどんな人間がやってくるか。
どんな人間が来ても、ちゃんと…絶対に転生ゲートに送り出してやるんだ。
「…私は、死んだのですか…?」
次の人間がやってきた。
「はい、あなたはお亡くなりになり、これから来世へと転生することになります」
俺は少しだけ微笑んで、マニュアル通りのセリフを口にした。
最近精密検査続きで、人間いついきなり死ぬかわからないな…とか考え始めて、思いつきで少しずつ入力した短編です。漫画の状態で脳内に浮かんだものなので、小説にするのは難しいなと痛感しています。




