第6話 騎士団の昼下がり
王立騎士団の訓練場。
太陽の光が剣の刃に反射し、鋭い音が響く。
ライナルト・フォン・グラントは、今日も訓練生たちの模範となるような正確な剣さばきを見せていた。
鋭い一撃、迷いのない足運び。
だが――今日は、ほんのわずかに集中を欠いていた。
「……おい、ライナルト。どうした? 珍しくぼーっとしてたぞ」
剣を交えていた仲間の一人、アーロンが苦笑交じりに声をかける。
「……そう見えたか?」
「おう。あのライナルトが隙を作るなんて滅多にない」
周囲の騎士たちもどこかにやりと笑っている。
ライナルトは苦笑しつつも、剣を下ろして汗を拭った。
「……少し考えごとをしていただけだ」
「考えごと? 王命か? それとも――女か?」
アーロンの軽口に、ライナルトの動きがわずかに止まる。
「……まぁ、似たようなものかもしれない」
その返しに、訓練場の空気がざわめいた。
「おいおい! あの真面目なライナルトが“気になる子”だって!?」
「どんな令嬢だ? まさか王都の舞踏会で出会ったとか?」
「珍しいな、ライナルトがそんなことを言うなんて!」
ライナルトは苦笑しながら、頭を掻いた。
「まだ“気になる”というほどでもない。ただ……少し、話をしてみたいと思うだけだ」
「名前は?」
「……言うほどのことじゃない」
そう言いながらも、彼の脳裏には、図書館で詩を読むエリスの姿が浮かんでいた。
陽の光の中、静かに微笑む彼女の横顔。
その穏やかさが、なぜか離れない。
アーロンはにやりと笑って、肩を叩いた。
「そうか、そうか。なら俺たちも応援してやるよ。真面目なお前にぴったりの子ならな!」
「……頼んでいない」
そう言いつつも、ライナルトの表情には微かな笑みが浮かんでいた。
その日、訓練が終わっても――
ライナルトの心は、どうにも落ち着かなかった。
剣を磨きながらも、ふとした瞬間に彼女の声を思い出す。
(……あの詩、星が増えるほど想う――か)
思わず、空を見上げた。
昼の空には星など見えない。けれど、彼の胸の奥には確かに一つの光が灯り始めていた。




