第4章 図書館の静かな時間
王都の図書館。静寂の中、香ばしい古書の匂いが漂う空間で、エリス・フォン・ヴァレンタインはお気に入りの席に座り、本を開いていた。
ページをめくる音だけが小さく響き、外の喧騒とは別世界の静けさが広がる。
「……やっぱり、ここは落ち着くわ」
小さく呟きながらページをめくる手を止める。しかし、どこかそわそわした気持ちも混じっていた。
その時、足音が近づく。普段の訓練場とは違う、柔らかく落ち着いた音。
「……エリス嬢?」
顔を上げると、黒髪を短く整えたライナルトが立っていた。深い青色の瞳が静かにこちらを見つめている。
「……ライナルト様」
控えめに頭を下げるエリス嬢。頬がわずかに赤くなる。
ライナルトは微笑み、柔らかく言った。
「今日もここにいたんだね。偶然じゃないのか?」
「はい……静かで、ゆっくり本を読めるので」
少し歩きながら、ライナルトは尋ねる。
「どんな本を読んでいるんだ?」
「……歴史の本です。王国の昔の出来事や、騎士団のことも興味があって」
その言葉に、ライナルトの瞳が少しだけ輝いた。
「騎士団のことが気になるなら、僕に聞いてもいいよ。……少しなら教えられる」
エリス嬢は驚きと少しの照れで目を丸くする。
「えっ……あ、ありがとうございます……」
胸の奥が温かくなるのを感じ、そっと頷いた。
歩きながら、ライナルトは心の中でぼんやり思う。
(この子の雰囲気は不思議だ……静かで落ち着く……読んでいる姿を見るだけで、妙に心が和む)
エリス嬢もまた、ライナルトの深い青色の瞳に見つめられ、胸が高鳴るのを感じる。
(……また会えた……でも、今日は図書館だから、少し安心して話せる……)
二人はしばらく歩き、静かな光の差し込む通路の端で立ち止まる。
ライナルトが小さく微笑んで言った。
「……また、会えたらいいな」
エリス嬢は顔を赤くし、驚きと嬉しさで小さく息をつく。そして、恥ずかしそうにコクンと頷いた。
図書館の柔らかな光の中で、控えめな令嬢と若き騎士の心の距離は、静かに、しかし確実に近づいていった。




