第3章 再びの邂逅
王都の図書館。静寂の中、香ばしい古書の匂いが漂う。エリス・フォン・ヴァレンタインは、淡い緑色の瞳を文字に向けながらも、どこか落ち着かない気持ちを抱えていた。
舞踏会の夜、月明かりに照らされた庭で出会ったライナルトのことが、ふとした瞬間に頭をよぎる。
「……今日も静かだわ」
小さく呟きながら、彼女は本のページをめくる手を止める。そんなとき、廊下の方から足音が響いた。軽く、しかし確かに誰かが近づいてくる。
「……エリス嬢?」
顔を上げると、黒髪を短く整えたライナルトが立っていた。深い青色の瞳が柔らかく彼女を見つめる。剣の稽古で見せる鋭い威圧感はなく、ただ静かで穏やかな空気を纏っていた。
「……ライナルト様……」
思わず小さな声で答えるエリス嬢。頬がわずかに赤くなり、胸の奥が甘くざわつく。
ライナルトは少し照れくさそうに、しかし真剣な表情で言った。
「偶然だね。君がここにいるとは思わなかった」
「ええ……静かに過ごせる場所だから、よく来るんです」
歩きながら、ライナルトは心の中でぼんやりと考える。
(他の令嬢たちは派手で目立つけれど……あの子の雰囲気は不思議で、どこか落ち着くな……)
エリスもまた、ライナルトの深い青色の瞳に見つめられ、胸が高鳴る。
(……舞踏会の時と同じ……でも、今度は向こうから声をかけてくれた……)
しばらく歩きながら、二人はお互いのことを少しだけ話す。家族のことや、本が好きな理由、訓練や騎士団の話――短くとも、互いに距離を縮める時間だった。
「……また、図書館で会えるかもしれないね」
ライナルトの声は低く、真剣だった。
「はい……また、会えたら嬉しいです」
エリスも控えめに微笑む。
通路の端まで歩くと、二人は一度立ち止まった。ライナルトは心の中で小さく決意する。
(次に会えるときは、もっと堂々と……君の前で迷わず振る舞おう)
エリス嬢も、心の中でそっと思う。
(……また、会えたらいいな……)
月明かりや窓から差し込む柔らかな光に照らされ、控えめな令嬢と若き騎士の心の距離は、静かに、しかし確実に近づき始めていた。




