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モブ令嬢と騎士  作者: はるさんた


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20/21

第20話 いってらっしゃいのキス


朝の陽光が、白いカーテン越しに部屋を照らしていた。

エリスはキッチンで朝食の仕上げをしていた。焼きたてのパンの香り、温かなスープの湯気、そして小さな花瓶に活けた庭の花。

新しい生活にも、少しずつ慣れてきた。


「……ライナルト様、そろそろ朝食が冷めてしまいますよ」

エリスが声をかけると、寝室から大きなため息が聞こえた。

「……あと少しだけ、エリスと一緒にいたいんだが」


ライナルトはシャツの襟を整えながら現れた。

黒髪を軽く後ろで束ね、深い青の瞳が少しだけ眠たげだ。

けれど、エリスを見つけると一瞬で柔らかい笑顔になる。


「仕事に行く気が……出ないな」

「もう、子どものようなことを」

エリスはくすりと笑いながら、パンを皿にのせる。


ライナルトは席に着いても、どこか落ち着かない。

視線はずっとエリスの方に向いている。

「……エリス、今日も本当に可愛いな」

「またそんなことを……。もう、ライナルト様」

彼女の頬がほんのり染まる。


食後、鎧の肩紐を整えるライナルトを見つめながら、エリスは静かに立ち上がる。

「……行ってらっしゃいませ。どうか怪我のないように」

そう言って、彼女は背伸びをしてライナルトの頬にそっとキスをした。


ライナルトは一瞬、動きを止める。

そして、ゆっくりと笑う。

「……エリス、それは反則だな。もう仕事どころじゃなくなる」

「だめですよ、ちゃんと行かないと」

「わかってる。でも、早く帰る。なるべく早く」


彼は軽く額を彼女の額に合わせ、名残惜しそうに囁いた。

「……ただいまを言うまで、俺のことを考えていてくれ」

「……もちろんです」

エリスは微笑み、見送る。


その日、騎士団では——

「ライナルト隊長、やけに機嫌いいですね」

「……まぁな。家に天使がいるんでな」

カールが苦笑する。

「なるほど……甘々ですな」

「当たり前だ」


そして夕刻。

任務を終えると、ライナルトは誰よりも早く馬を走らせた。

家の扉を開けるなり、エリスが出迎える。

「おかえりなさいませ、ライナルト様」

「ただいま、エリス」


その瞬間、彼はたまらずエリスを抱きしめた。

「……やっぱり、君の顔を見ないと一日が終わらない」

「お疲れさまです。ちゃんとお仕事できましたか?」

「うん。でももう限界だ。今は君に甘えたい」


エリスは少し照れながらも、そっとライナルトの髪を撫でる。

「……いいですよ。お疲れさまです、ライナルト様」

彼はそのままエリスの肩に顔を埋め、穏やかな吐息を漏らした。

「……やっぱり、帰る場所はここしかないな」



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