第14話 デートのひととき
週末の午後、城下町は穏やかな陽光に包まれていた。
エリスは少し緊張しながらも、指定された待ち合わせ場所へ向かう。
そこには、いつもの鎧姿ではなく、軽装のライナルトがすでに待っていた。
「お待たせ、エリス嬢」
ライナルトはにこやかに微笑み、少し砕けた口調で声をかける。
「……ライナルト様、こんにちは」
エリスは頬をほんのり赤くして答えた。
二人は城下町の市場へ向かう。並ぶ屋台には、新鮮な野菜や果物、色とりどりの布や工芸品が並んでいた。
ライナルトは時折、商品を手に取りながら解説したり、冗談を交えてエリスを笑わせる。
「ほら、この果物は見た目より甘いんだ。食べてみるか?」
エリスは少し恥ずかしそうに首をかしげながらも、笑顔で受け取る。
市場の小道を歩くと、人々が忙しく行き交う中、ライナルトはさりげなくエリスの歩調に合わせ、彼女の安全を気にかける。
「人混みが多いな。足元気をつけろよ、エリス」
「はい、ありがとうございます」
その気遣いに、エリスの胸は少し熱くなる。
ライナルトは果物や花を指さしながら、街の逸話や店主の話を楽しそうに教える。
「この花は、城下町の守護祭りで使われるんだ。君が好きそうだな」
「……私ですか?」
「そうだ。君の好みも気になる」
市場を抜けた二人は、静かな公園へ向かう。木々の間から差し込む光が、柔らかく芝生を照らす。
ライナルトはベンチに腰を下ろし、エリスを隣に座らせる。
「ここなら少し落ち着けるな」
「はい……静かですね」
しばらく二人はベンチに座り、街での出来事や伝承の話、日々の些細なことを交わす。
ライナルトは時折、冗談交じりにエリスをからかいながら、楽しそうに笑う。
「おい、そんな顔してどうした? 困ってるのか?」
「……いえ、そんなことは……」
エリスはつい照れて、視線を伏せる。
日が傾き始める頃、ライナルトはふと真剣な表情になった。
「エリスとこうして歩くと、街も少し違って見えるな」
「……そうですか?」
「そうだ。君がいると、穏やかで落ち着く気がする」
エリスは胸の奥が熱くなるのを感じ、思わず俯く。
――私も、ライナルト様と一緒にいると……落ち着く……
ライナルトは静かに笑い、そっと手を差し伸べる。
「君の話をもっと聞きたい。伝承もいいけど、君自身の考えや好きなこともさ」
「え……私ですか?」
「そうだ。知りたいんだ、君のことを」
恥ずかしさに顔を赤くするエリス。しかし、ライナルトの真剣な眼差しを見て、心が少しずつ開かれていく。
「……わかりました。少しずつ、話してみます」
ライナルトは満足げに頷き、さりげなくエリスの手元に手を置く。
「ありがとう。君がこうしてくれるだけで、俺は嬉しい」
日差しが傾く頃、ライナルトは軽く笑い、そっと提案する。
「今日は楽しかった。次は、もっと長く歩けるといいな……君と、街を巡ってみたい」
エリスは小さく頷き、心の中で――
――はい、私も……また、会いたい……
二人の距離は、一歩ずつ確実に近づいていった。
市場の賑わいや木々のざわめきも、二人だけの穏やかな時間の中では柔らかく包まれるようで、自然と心が通じ合う――そんな午後だった。




