第13話 デートの誘い
城下町の図書館は静まり返り、窓から差し込む午後の陽光が木の机に柔らかく映えていた。
相変わらずエリスは窓際の席に座り、民間伝承や逸話を集めた本を手にしていた。今日は歴史書ではなく、少し軽めの読み物だ。
「今日はどんな本を読もうかな……」
小さくつぶやき、ページをめくる手が少し震えているのは、まだ街でのライナルトのことを思い浮かべているからだ。
足音が近づき、柔らかな影が机の上に落ちる。
「やあ、エリス嬢。ここで会うとは思わなかったな」
ライナルトが少し肩をすくめ、砕けた笑みを浮かべて現れた。
エリスは思わず顔を上げ、頭を下げる。
「……ライナルト様」
ライナルトは机の向かいに腰を下ろし、にこやかに話しかける。
「この本は何を読んでるんだ?」
「民間伝承や古い物語を集めた本です」
「へえ、珍しいな。俺はこういう話、あまり知らないから、少し教えてくれ」
エリスは少し照れながらも、ページを指し示して話す。
「これは、昔の勇者ではなく、知恵や優しさで人を助けた人の話です」
「なるほど……そういう視点か。面白いな」
ライナルトは興味深そうに頷き、時折質問を挟む。
「じゃあ、君が一番好きな話はどれだ?」
「そうですね……助ける者の話です。勇者よりも、知恵や気配りで人を守る人が好きです」
「……君らしいな」
ライナルトの口調は柔らかく、でも少し親しげになっていた。
彼はふと身を乗り出して、本に手を置きながら、穏やかに言う。
「街での喧嘩、君が巻き込まれなくてよかった」
エリスは顔を赤くし、目を逸らす。
――ライナルト様、やっぱりすごい……
ライナルトは机越しに少し距離を縮め、にこやかに笑う。
「騎士団の仕事は忙しいけど、こうして君と話せる時間も、俺にとっては大事だ」
エリスは思わず小さく息をつく。
彼の視線がじっと自分を見ていることに、心臓が早鐘のように打つ。
ライナルトは少し身を前に傾けて、手元の本を軽く示しながら言う。
「君の意見も聞かせてほしい。伝承の中で、一番印象に残った場面はどこだ?」
エリスは答え、彼は頷き、さらに前のめりで会話を引き出す。
「なるほど、君はこう考えるのか……面白いな。君の話は聞いていて楽しい」
沈黙が一瞬訪れる。ライナルトはふと微笑み、低めの声でつぶやく。
「また会えたらいいな……本だけじゃなく、君自身にも興味がある」
エリスは思わず息をのむ。
――……私も、また……会えたら……
ライナルトは少し間を置き、にこやかに提案する。
「そうだ、この週末、もしよければ一緒に街を歩いてみないか? 城下町の市場とか、散策してみたいんだ」
エリスは顔を赤くして俯きながらも、ゆっくり頷く。
「……はい、ぜひ……」
図書館の静けさの中で、ライナルトの落ち着いた騎士としての姿と、少し砕けた笑顔に、エリスの心は徐々に惹かれていった。
互いの気持ちを意識しつつも、まだ言葉にできない、やわらかな距離感――それは二人だけの穏やかな時間だった。




