第10話 恋心の自覚と悩み
騎士団の訓練場は、午後の柔らかな光に包まれていた。
だが、ライナルトの頭の中は、嵐のように騒がしかった。
(――俺は……エリス嬢を、ただの令嬢としてではなく、守りたいと思っている)
胸の奥で、確かな感情が芽生えていることを、彼は隠すことができなかった。
あの薄緑の瞳、肩にかかる濃い茶色の髪、そして穏やかな微笑み――
思い出すだけで、心が熱くなる。
「……この気持ちは、もう恋心以外の何物でもない」
ライナルトは決意と不安が入り混じる胸の内を整理しようと、仲間の元へ歩み寄った。
「ライナルト、今日は珍しく沈んでいるな。何かあったのか?」
金髪のカールが、鍛え上げられた体格を揺らしながら笑みを浮かべて声をかける。
澄んだ碧色の瞳には、冗談めかした軽やかさと、仲間を気遣う優しさが混じっていた。
ライナルトは深呼吸して答えた。
「実は……少し相談がある」
仲間たちは訝しげに集まる。
「……まさか、恋か?」一人が声を上げると、カールもにやりと笑った。
「おいおい、ついにライナルト様も普通の若者か。そりゃ悩むわな」
ライナルトは微かに笑みを返し、口を開く。
「恋心だ。相手は……エリス嬢だ。男爵家の令嬢で、穏やかで本好き、控えめな性格だ」
「図書館でよく見かける子で……だが、あまり社交的ではない。俺が話す機会はまだ少ない」
カールは目を細め、興味深そうに頷く。
「なるほど……よく知らん相手だと、慎重になるのも当然だな」
ライナルトは少し肩の力を抜き、仲間たちに視線を向ける。
「求婚すべきか、まずは会話を増やすべきか……悩んでいる」
カールは肩をすくめ、軽やかに提案する。
「まずは彼女のことを少しでも知ることだな。焦るな、でも逃すなよ」
他の仲間たちも冗談交じりに意見を出す。
「うむ、慎重にだが、行動は早めに」
「まずは小さなきっかけを作れ」
ライナルトは頷き、心の中で決意する。
――迷いながらも、自分の気持ちに正直に行動する。
ただし、慎重に。焦らず、だが確実に。
「……わかった。まずは、会話の機会を増やすところからだ」
その言葉に、仲間たちは満足そうに頷き、カールは冗談めかして背中を叩いた。
ライナルトは微笑みを返しつつも、胸の奥で熱くなる感情を抑えた。
外の光は穏やかだが、彼の心はすでに、あの薄緑の瞳の令嬢へ向かって燃え始めていた。
――次に会うとき、どんな顔をしていいのだろうか。
その想いが、期待と緊張を同時に押し寄せる。
ライナルトは、心の中で小さく誓った。
――絶対に、彼女を守り、そして想いを伝える。




