第9話 魔王エリーナ
「ねぇ、少しあなたのこと教えてくれる?」
「え、えと・・・」
俺は急な質問に戸惑った。まだ頭が整理されていない。
「魔王様、危ないので離れてください」
女の子と一緒にいた男が心配そうに言った。
「大丈夫よ、ヴェイルズ。さっきも言ったけど敵意はなさそうなんだし」
「そうは言いましても・・・」
さっきから彼らの会話を聞いているが、気になる言葉がある。
「あの、魔王というのは?」
「あ、気になる?そうね、あなたのことを聞くなら、まずは私から自己紹介しないとね」
そう言うと、彼女は一歩後ろに下がってから俺の目を見て言った。
「私の名前はエリーナ、皆からは魔王って呼ばれているよ」
魔王。ゲームや小説に登場するラスボスのイメージだ。こんな女の子が魔王なのか?
俺には信じられないことだった。もしかしたら、この世界の魔王は俺のイメージと違う存在なのかもしれない。実際、俺のことを助けてくれたみたいだし。
「私としては、「魔王」より「エリーナ」って呼んでほしいのだけど」
そう言いながら、魔王は悲しそうな顔をして、傍にいる男の顔を覗いた。
男は困ったような顔をしていった。
「私は魔王様を名前で呼ぶつもりはありません。もしそんなことをすれば、他の方たちに何をされるか分かりません」
「ちぇっ、つれないなぁ」
魔王は不満気な顔した。
すぐに俺のほうに振り返ると、今度は楽しそうな顔をして、こう尋ねてきた。
「もしよかったら、うちに来てお茶でも飲みながら話を聞かせてくれない?」
これを聞いた男と老人は慌てた表情で彼女を説得し始めたが、魔王は自分の考えを変える気はないようだ。
俺は少し考えた。
このまま魔王について行っていいのだろうか。危険ではないだろうか。
あの老人のように、俺を簡単に殺せるような奴がたくさんいるかもしれない。
このままここに残ったって、俺には何のデメリットもない。わざわざ危険を冒してまで行く必要はない。
ただ・・・。
「分かりました、僕を連れて行ってください」
男と老人に囲まれて説得されていた魔王だったが、俺が答えると目の色を変えた。
そして、二人を振り切って俺のとこまで来ると、手を掴んで言った。
「それじゃあ、行きましょ!私の魔王城に!!」
魔王を説得していた二人は呆れた表情だったが、魔王自身はとても楽しそうだ。
それを見た俺も嬉しくなった。
俺は三人と一緒に空を飛びながら魔王城へ向かった。
危険がないとは言えない。
ただ、この判断は間違いではない気がする。
気の緩みとか、楽観視とか、そういったものではない。
この世界について何か知れるかもしれないという期待はあるが、それ以上に、言葉では言い表せない何かを感じた。
もしかしたら、運命というやつなのかもしれないな。
俺はこれからの未来に、今までとは違ったワクワクを感じた。
すでに日は沈み、辺りは真っ暗だった。
俺たちは星明かりに照らされながら、遮るもののない大空を、魔王城を目指して飛んだ。
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