第7話 はじめての釣り
次の日、俺は昨日と同じように川に向かった。
あらかじめ、家の周りにある植物を使って釣り竿を作っておいた。正直、釣り竿と言えるような代物ではないが、ものは試しだ。釣れないなら、別にそれでもいい。
川に向かう道中、何匹かウサギを見つけた。俺はすでにウサギの血を10匹以上は吸っており、スキル「頭突き」はかなり強化されていた。
そして、スキルを使う中で気づいたことがある。強化されたスキルは意識することでその威力を制限できるのだ。これのおかげで俺はウサギを吹っ飛ばさずに済んでいる。
しかし、イノシシは一度倒して以降、まだ見かけていない。スキル「咆哮」は遠距離からでも使えるので、早く強化をしたいのだが。
「あ~、やっと着いた。1時間歩くのって、けっこう疲れるんだよな」
はじめて川に来たときは冒険をしているようで楽しかったが、ゴールが分かっていると早く着きたい気持ちがあって、あんまり楽しくはない。
「それじゃあ、釣りをするか」
俺はお手製の釣り竿に、そこら辺の土を掘り返して出てきた謎の幼虫を引っかけた。そして、川に向かって投げ入れた。
あまり釣り糸(植物のツル)は長くないので、遠くに飛ばすことはできなかった。
何が釣れるかワクワクしながら俺は待った。
30分後、まだ釣り竿に反応はない。釣りをする人は何時間も釣れるまで待つことがあるらしいが、俺には我慢できない。ブラック企業に勤めていたせいか、のんびりすることに抵抗があるのだ。
立派な社畜だなと、懐かしみながら思った。
さらに30分後。
釣れるのを待つのに疲れてきて、一度散策でもしようかと釣り糸を回収しようとした、そのときだった。
釣り糸が水の中に引き込まれた。
「お!やっと掛かったか!」
俺のテンションが一気に上がった。
俺は急いで釣り糸を手繰り寄せた(もちろん、リールはついていない)。
「これは、思ったより大物だぞっ!!」
俺は釣り糸が切れないように祈りながら、まだ見ぬ獲物に期待を寄せた。
「もう少しだ・・・頑張れ俺の釣り竿っ!」
力いっぱい釣り糸を引っ張ると、巨体が姿を現した。
全身を鱗に覆われ、人間を一口で飲み込めるくらいの大きな口をした魚だった。
ドーンッ
釣り上げた巨大魚が地面に落ちた。
まだまだやる気満々の様子だ。地面の上で暴れまわっている。あの尾が直撃したら、ただでは済まないだろう。
近寄ることができそうにないので、俺はスキル「咆哮」を使った。
しかし、一度使っただけでは動きを止められなかったので、静かになるまで何度も「咆哮」を使った。
「はぁ、はぁ・・・。やっと静まったか。スキルを使うのだって、疲れるんだよ」
巨大魚の動きが止まるまで、かなりの時間がかかってしまった。喉が痛い。
疲れが溜まっているが、新たなスキルを早く手に入れたいので、巨大魚の血を吸うことにした。
それに、このサイズでは家まで持って帰れそうにない。
「早いこと血を吸って、暗くなる前に帰ろう」
俺は急いで血を吸った。もちろん、今回も美味しい血でした。
「一定の血を吸ったため、スキル「探知」を獲得しました」
「お、新しいスキルは「探知」か!」
さっそく、スキルを発動してみた。今回のスキルは頭の中で意識するだけで発動するみたいだ。
「おお!」
このスキルは俺の期待どおり、他の動物の居場所がわかるみたいだ。詳しい動物の種類まではわからないが、大きさだけなら、なんとなく分かる。
自分を中心に半径10m程度しか動物の位置は分からないが、強化をすれば範囲が広がるだろう。
俺は明日からも川に行くことを決めた。
このスキルがあれば、もっと効率よく動物を見つけられるだろう。それに、イノシシのときみたいな危険の回避にもきっと役立つに違いない。
俺は今日の収穫に満足しながら、家に帰った。
「スキル「咆哮」が何度も使われるから様子を確認に来たのだが・・・・、あれは何だ?ホーンラビット
の「頭突き」に、レイジボアの「咆哮」を持っているじゃないか。それに、スキル「吸血」とは一体
・・・」
長い白髪に、おんぼろのローブ、とがった耳に褐色の肌色をした老人が、空中を飛びながら川のほうを見下ろしている。
「危険因子は早急に排除しなければ・・・、この地の安寧のために」
この日を境に、俺、大村翔の運命は動き始める―。
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