第55話 眠い
すでに日は沈み、ラストラドを静寂が覆っている。
宿舎には明かりが灯り、人々の陽気な声が聞こえてくる。
俺とアキは、ラストラドを囲む城壁の上で、真っ暗に染まった森を空高くから悠々と照らす星々を見つめていた。
元の世界にいたころには、決して見ることができなかっただろう。
この景色は――上手く表現できないが――一切の濁りなく神秘的だ。
「なぁ、ショウ」
静かに夜空を見上げていたアキが、少し眠たいのか、ウトウトしながら声を発した。
俺は落ち着いた様子で、彼女のほうを見た。
「ショウは、カコピオスの皆がドラゴンの討伐に参加できると、本気で思ってる?」
アキの声に覇気はない。
むしろ、悲しみのようなものを感じる。
らしくないな、俺に弱い姿を見せるのは。
だいぶ眠たくなったのだろう。
それに、俺の「目的」を知れたことで緊張の糸が切れ、疲れが一気に押し寄せたのかもしれない。
・・・
でも、この質問は、彼女の心の奥底で常に見え隠れしていたのだろう。
鍛練に集中するため、雑念を持たないため、辛い現実を受け入れないため、
その疑念に蓋をしていたに違いない。
一時は俺の言葉に心を動かされ、未来に希望を見出した。
それは確かだ。
でも、時間が経つにつれ、彼女の中には以前の恐怖や絶望が再び生まれている。
未来に希望を持つことができても、過去の絶望を捨てることは容易ではないのだ。
彼女が、彼女の中の、ドラゴン討伐に参加できなくなる過去を忘れることはない。
「答えろぉ・・・ショぅぅ」
もう口が上手く回っていない。
ここで眠られると、運んで帰るのが面倒なのだが。
それに、こんな状態じゃあ、質問に答えたところで覚えていないだろう。
「早く・・・答えろよぉぉ・・」
確かに寝ぼけているのだが、その目には真剣さを感じる。
「・・・分かったよ」
どうせアキは明日の朝には忘れているので、無駄な話だと思うが、仕方なく質問に答えることにした。
「絶対にドラゴンの討伐に参加できる・・・とは思っていない」
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