第52話 小川は大河に
ザワザワ・・・
そんな擬音語がピッタリと合うほど、今日の鍛練は周囲の目が集中している。
アキが俺たちの鍛練に参加してから二日目。
あの怒り心頭だったアキが、「弱虫部隊長」と「どこの馬の骨かわからない虫」二人と一緒に鍛錬をしているという噂が広まったみたいだ。
いつもは宿舎に籠りっきりで、日の光を浴びようともしないゾンビモドキたちも、今日は珍しく外に出てきている。
それほど、アキが鍛錬をするのは予想外のことなのだ。
「皆が注目してるよ・・・。なんか、お腹の調子が悪い気がする」
俺の横を走っているマンガスさんが、例のごとく弱音を吐いている。
いつにもまして、顔が引きつっている状態だ。
だが、今のこの状況は望んでいたものだ。
そう、チャンスの到来なのである。
「マンガスさん、これはチャンスですよ」
「チャンス?」
マンガスさんが不思議そうに俺のほうを向いた。
周りからの視線にストレスを感じているようだが、俺の言葉に少し期待をしているようだ。
さっきよりも顔色が良い。
「皆が僕たちの鍛練をする様子を見れば、一緒にやりたいという気持ちになるはずです」
アキがそうだったように、カコピオスの皆の心の中には、鍛錬をしたいという思いが確かに存在しているのだ。
今はそれを仕方なく抑えているだけ。
アキという前例――先駆者が現れたからには、それに続くように鍛錬を始める奴がきっと出てくるはず。
そうやって、どんどん鍛錬をする人が増えていけば、いつかは全員が鍛錬を始める。
それは、何もない大地にたった一つの小川ができ、長い年月をかけて小川が大河になるようなものだ。
最初に生まれた小川は自らの道を作り、そこにいくつもの水源が加わることによって、小川はゴールまでの道を変えることなく大きな大河に成長するのだ。
アキがカコピオスの連中に鍛練をするという道を示した。
あとは時間の問題だ。
今は小さな小川だが、いつかは大きな大河になる。
俺はそう信じている。
――という風なことをマンガスさんに熱く語ってみたのだが、反応はいまいちだった。
もっと泣きながら共感してくれると思っていたのに、(マンガスさんは涙腺が脆そうだから)
あっさりとした笑顔を返されただけだった。
俺は拍子抜けをしたわけだが、決してマンガスさんが喜んでいないのではない。
マンガスさんは伝えたかったのだろう。
喜ぶのは、本当に成すべきことが成されたときだと。
今は現状に満足するのではなく、最善を尽くすべきだと。
マンガスさんの軽い笑顔からは、確かにそういう思いを感じた。
普段のあの人の様子からは想像もできないが、そうは言っても、伊達に部隊長をしているわけではない、ということなのだろう。
このとき、初めてマンガスさんがリーダーっぽく見えた。
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