第41話 過去 2
前回に続き、今回も第三者視点です。
「皆、こっちだ!急げっ」
騎士団の指示のもと、住人たちの避難が進められた。
目先の目標は、この城下町から離れることだ。
思入れのある故郷を去らなければいけないのは誰にとっても辛いことだ。
町を去る者の多くは、滅びゆく故郷を涙目になりながら見つめていた。
だが、歩みを止めることはできない。
一秒でも早くここから逃げなければ、命を失うかもしれないのだから。
逃げ行く人々を妨げるかのように、降りしきる雨は激しさを増した。
地面は泥へと姿を変え、人々の歩みを確実に遅らせている。
「ドレイガン様、我々も避難しましょう」
騎士団長の男が、再び城主ドレイガンのもとを訪れた。
全身からは、雨で濡れたのでだろう、水が垂れている。
男が声を掛けたにも関わらず、ドレイガンは窓の外を見つめたままだ。
その視線の先では、未だにドラゴンが町を破壊している。
「どうされたのですか?」
怖いほど静かな様子のドレイガンを不思議に思い、男は質問をした。
ドレイガンは男に背を向けたまま、小さく口を開いた。
「私を置いて行け」
「!?」
衝撃の返答に、男の頭は真っ白になった。
「・・・なぜですか」
男はさらに質問をした。
何か意図があるのではないかと考えたのだ。
自ら命を捨てるようなマネをこの人はしないと信じているから。
ドレイガンは男に顔を見せようとはせず、低い声で答えた。
「私はドラゴンと戦う」
男は絶望した。
自分の尊敬する人が、自ら死のうとしているのだ。
到底、納得はできない。
男は考えた。
おそらく、彼は町を破壊されパニックに陥っているのだと。
そのせいで正常ではない行動をしてしまっているのだと。
そう自分に言い聞かせた。
だが、男は心に底では気づいていた。
ドレイガンが冷静であることを。
そのことを否定するために、自分に嘘を言い続けているのだ。
そこまでしてでも、ドレイガンの死を、男は受け入れたくはないのだ。
「ドレイガン様、ドラゴンと戦っても勝ち目はありません。無駄死にするだけです。今は逃げることが最優先です。あなたがそう言ったのですよ」
男の言葉に、ドレイガンが反応する様子はない。
死を覚悟しているのだと、男は悟った。
ついさっきまで、自分がそうだったように。
「私には死ぬなと言いながら、あなたは死ぬのですかっ!それはあまりに身勝手だっ!!」
男は怒鳴った。
自分のことはどうでもいいのだ。
嫌われようが、罰を受けようが、死ぬことになろうが、関係ない。
自らが尊敬する人の命を救う、それこそが何よりも大切なのだ。
すると、男の言葉に心を動かされたのか、ドレイガンは身体を男の方に向けた。
そして、怒りと悲しみという相反する感情に支配された男の顔を見て、両手を上げた。
さっきまでの冷酷な表情から一転して、顔全体の筋肉を緩め、口角を少しだけ上げている。
「降参だ。やっぱお前には敵わんな」
「・・・ッ!」
男は笑みを浮かべながら、涙をこぼした。
この人の命が失われずに済むのだと。
心の底から嬉しさが込み上げた。
ドレイガンは両手を下ろし、続けて言った。
「私はドラゴンに立ち向かう」
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