第35話 新居
「今日からここがビッグマウス君の部屋だ」
ボルスさんに案内された部屋は、いくつもある宿舎の中でも一番オンボロの宿舎だった。
外から見た感じでは、おおよそ10階建ての建物だ。
外壁は剥がれ落ち、建物内は至る所にホコリが溜まっている。
俺の部屋は7階にあった。
もちろん、エレベーターなどない。
あるのは急な階段だけだ。
しかも、サビだらけで今にも崩れ落ちそうな。
なんか、大学の寮を思い出すな。
俺は大学生時代に寮で暮らしていた。
昔からある大学で、キャンパスもずっと同じだ。
それの傍らに建てられた寮もまた、かなり年期が入っていた。
最初のうちは家賃が安いから優良物件だと思っていたが、暮らしていくうちにストレスがどんどん溜まっていった。
なぜかって?
そりゃあ、設備がヒドイ有様だったからよ。
共有のキッチンは臭いし、窓は隙間だらけ。
部屋のあちこちにネズミの糞が散乱していた。
夏は熱水、冬は冷水しか蛇口の水は出なかった。
こんな生活、何年も続けられないよ。
だから、俺は1年で寮を退寮してアパートに住むことにした。
少し家賃は高くなったが、とても満足感があった。
このとき、二度とオンボロの部屋には住まないと決めた。
俺には向いていないのだ。
そう、向いていないのだ・・・
「ボルスさん」
俺は、心の底から湧き上がる感情を抑え込め、平常時の表情でボルスさんに言った。
「これは無理です。汚すぎます」
もっとオブラートに包むべきだったか。
ちょっと言葉が強すぎたな。
表情は我慢できても、脳までは制御できなかった。
クソッ、俺の脳が勝手に!
「ビッグマウス君・・・」
ボルスさんが珍しく静かだ。
俺の思いを理解してくれたのか?
「森で寝たいのか・・・?」
逆だった。
静かなる怒りだった。
「この部屋に住めて嬉しい限りです!」
森で寝るのだけは勘弁だ。
命がいくつあっても足りない。あとシーツも。
こうして、俺の部屋は5号棟の702号室に決定したのだった。
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