第3話 初めてのスキル
ウサギの血を吸って以降、あの音声は聞こえてこない。なんだったのだろうか。
「スキルかぁ。やっぱり異世界なんだから、そういうのもあるのかな」
俺は「頭突き」というスキルを試すために岩に向かって頭突きをしたが、特に変化は起こらない。ただ頭を痛めただけだ。
「わからないことは深く考えないで、次は家を探そう」
森のなかを少し歩き回ったところで、ちょうど良い大きさの洞穴を見つけた。奥行が5メートルくらいで広すぎず狭すぎず、いい感じだ。
「とりあえず、ここを中心に生活するか」
今日はもう疲れたので、眠ることにした。
次の日、俺は食料を探しに森へ出かけた。どうやら、昨日見つけたウサギは頻繁にケンカをするらしく、傷のある死体がときどき見つかった。さすがに腐っているウサギの血を吸う気にはなれず、死んだ直後のウサギを探して回った。
数時間探して、ようやく新鮮な死体を見つけた。腹は減っていなかったが、貴重な食料なので吸うことにした。
「昨日のウサギより美味しくはないが、それなりにうまいな」
やはりウサギの血はクセになる味だった。昨日と今日のウサギで味が異なるのは、鮮度の問題なのだろうか。
「そろそろ吸い終わるな・・・」
再びあの音声が聞こえてくるのか、俺はドキドキしながら残りの血を吸った。そして、すべての血を吸い終わったとき、頭の中に声が響いた。
「一定の血を吸ったため、スキル「頭突き」を獲得しました。スキル「頭突き」はすでに獲得しているため、統合されます。スキル「頭突き」が強化されました」
「強化?」
前回とは違う音声が流れた。どうやら同じスキルを獲得したときは、そのスキルが強化されるらしい。つまり、ウサギの血ばかり吸っていては新しいスキルは手に入らないようだ。
「でも、強化されたところで使い方がわからないんだけどね」
俺は家に帰ることにした。
ポツ、ポツ
「あ、雨が降り出したな」
ザーーー
「ヤバい、大雨じゃないか!?」
俺は急いで家に向かった。そして家にたどり着くと、異変に気がついた。俺の家の中に向かって足跡がある。ウサギよりは大きな動物の足跡だ。俺は洞穴の入り口から中をこっそり覗いた。
「これはまずいな、イノシシ?か」
中にはイノシシが一匹いた。かなり大きなイノシシだ。サイズは牛と同じくらいあるだろう。
「とりあえず、このまま隠れて様子を見よう」
そう思ったときだった。
ポキッ
「あ」
俺は足元にあった木の枝を踏んでしまった。そして、イノシシが俺に気づいて襲ってきた。
「や、やべ!」
俺は初めて羽を使って飛んだ。今までは他の動物に見つからないために飛ばないようにしていたが、飛び方自体はなんとなく理解していた。
ブ~ン
イノシシは頭上で飛んでいる俺を睨んでいる。
このまま飛んで逃げたいが、蚊は速く飛ぶことができない。俺はイノシシが去るのを待つしかなかった。待っていればいなくなると思っていた。
しかし、ここは異世界。俺の常識は通用しなかった。イノシシは俺のほうに口を向け、叫んだ。
ブオォーーーーー!!
空気が揺れ、全身に衝撃が走った。俺はうまく羽を動かすことができず、地面に落ちた。顔を上げると、目の前にイノシシが立っていた。
どうする?もう逃げれないぞ。
イノシシは俺に向かって勢いよく突進してきた。
「クソっ!一か八かだ!!」
そう思って俺は叫んだ。
「スキル「頭突き」ィィッ!!!」
俺は全力で向かってくる相手に頭突きをした。
ドンッッッ
鈍い音が森に響き渡った。そして、
ドサッ
イノシシは地面に倒れた。
「・・・」
俺は少し放心状態になったあと、目の前の光景を理解した。
「す、すげえぇ!これがスキルか!」
頭突きをした瞬間、俺の身体が自分のものでないような力が湧いた。おそらく、これがスキルなのだろう。
「でも、しっかり頭痛いな」
俺は頭を撫でながら、初めて自分で倒したイノシシをいただくことにした。
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