第23話 新たな指針
「えっと、次のお仕事見学なんだけどね・・・」
俺は、エリーナと次の仕事見学について話をしている。
昨日の夜は緊急会議があり、城内は慌ただしかったが、一晩経つと、いつも通りの様子に戻っていた。
俺も気持ちを切り替えて、新しい見学先を聞きに来たわけだが・・・。
「あのね、その・・・」
「?」
さっきから、エリーナの歯切れが悪い。
何か言いづらいことがあるのだろうか。
「実はね・・・、もう仕事がないの」
「え?」
俺の仕事見学、終了しました。
・・・。
いや、
そんなわけないだろ!?
「魔王城には、他にも色んな人がいるだろ?あの人たちも仕事してるよな?」
「・・・(汗)」
まじか。
魔王城の大多数は、引き籠りニートだったのか。
「勘違いしないでね?皆が仕事をしたくないわけじゃないんだよ。ただ・・・」
エリーナによると、魔王城の仕事の大半は侍女たちだけで十分足りているそうだ。
彼女たちの出来ない一部の仕事を、ゼファルドやワーウルフたちが代わりにしているだけなのだ。
「皆は、あれだよ・・・、用心棒をしてるんだよ!」
俺は呆れた目でエリーナを見た。
分かってはいたが、やっぱりお人好しだ。
他の人が働いてないなら、俺も働かなくていい気がしてきた。
こんなに仕事を探しているのが馬鹿らしく感じる。
でも、恩を仇で返すのは嫌だ。
「それじゃあ、俺は今までの見学先から仕事を選べばいいんだな?」
「いや、そのことなんだけど」
エリーナの表情が、少し硬くなった。
「ショウには、強くなってもらいたいの」
「強くなる?俺が?」
「ええ、昨日の件があったから」
どうやら、エリーナは人間の侵入を警戒しているようだ。
「次にショウが人間と遭遇したとき、同じように助けが来るとは限らない。もし一人だったら、一瞬でやられる可能性もある。だから、自分の身を守れるようにショウには強くなってほしいの」
確かに、エリーナの言う通りだ。
あの人間に比べれば、俺は遥かに弱い。
それこそ、蚊のように。
俺は強くなる必要があるのかもしれない。
「分かった、強くなるように努力するよ」
「ありがとう。それで、これからなんだけど―」
「ただ、」
エリーナは、俺が強くなる理由は自分の身を自分で守るためだ、と言った。
エリーナらしい、他人思いの考えだ。
俺は、そんなエリーナを尊敬している。
でも、それに甘えるのは別の話だ。
「俺が強くなるのは自分を守るだけじゃなくて、皆を守るためだ。もし人間が攻めて来たら、俺も戦う」
エリーナは、驚いたような顔をした。
そして、その後、微笑みながら言った。
「分かった、そういうことにしてあげる」
エリーナは優しい。自分よりも他の人を大事にする。
でも、だからこそ、誰かがエリーナを大事にしてあげなきゃいけない。
魔王城にいる皆は、こういう気持ちなのだろう。
「皆も、エリーナも、守れるくらい強くなってみせ―」
「口だけは達者だな、ビッグマウス君」
「!?」
後ろから、重圧感のある低い声が聞こえた。
「ビッグマウス君、すべてを守るというのは簡単なことではない。それでも、強くなりたいか?」
俺は後ろを振り向いた。
朝食で見たことのある顔だった。
牛のような顔をして、身体は筋肉質で、身長が2メートル以上はある大男が、そこには立っていた。
「ショウ、今後は彼があなたを鍛えてくれるわよ」
大男は、俺の目の前まで近づき、上から見下しながら言った。
「俺の名前はボルス。これからよろしくな、ビッグマウス君!」
こうして、俺の鍛錬生活は幕を開けた。
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