第22話 肉担当の見学 6
侍女に連れられて、俺は病室を訪れた。
魔王城の病室に来るのは初めてだ。
病室といっても、他の部屋とあまり変わらない。
少し大きめの空間に、ベットがいくつか並べられ、それをカーテンで仕切っているだけだ。
病室の入り口には、机と椅子があり、様々な器具が置かれている。
そして、その椅子には背の低いおばあさんが座っていた。
「はじめまして。君がショウかな?」
おばあさんは、ゆったりとした口調で話しかけてきた。
「はい、私はショウです。あなたは?」
「ワタシの名前はマート。魔王城で治療を専門にやっているよ」
そういうと、マートさんは俺をヴォルニクさんのところに案内した。
ヴォルニクさんは、部屋の隅のベットに寝ていた。
「ヴォルニクは、ワーウルフの中でも怪我が一番ひどかったから、当分は安静にしないといけないんだよ」
マートさんは、そう言って戻っていった。
「よう、ショウ。来たか」
俺の顔を見たヴォルニクさんが身体を起こした。
包帯は巻いていない。
どうやら、傷は塞がったようだ。
良かった。
「ヴォルニクさん、僕に何の用ですか?」
ヴォルニクさんは、悲しそうな顔で窓の外を見つめながら言った。
「ショウ、お前には申し訳ないことをした。人間が現れたとき、俺は怒りに飲まれてしまった。そのせいでお前を危険にさらしてしまった」
俺は、謝られたことに驚いた。
「いえいえ、ヴォルニクさんに非はありませんよ!だから、謝らないでください」
「・・・そうか」
少しの間、会話が止まった。
ヴォルニクさんは、下を向いて何かを考えたあと、俺の顔を見た。
「俺たち、ワーウルフは、故郷を人間に奪われたんだ」
「え・・・」
ヴォルニクさんは、ワーウルフたちが魔王城に来た経緯を話し始めた。
ワーウルフは、集落を作らずに縄張りを作る。
そして、その中で生活を行う。
ヴォルニクさんたちは、そうやって生活を続けていた。
でも、ある日、人間に襲われることになる。
人間を貧弱な生物と思っていたヴォルニクさんは、油断してしまい、深手を負った。
他の仲間たちも次々と倒され、打つ手がなくなる。
生き残った者だけでも逃がそうと、ヴォルニクさんが盾になって人間を食い止めようとした、そのときだった。
「魔王様たちが、俺たちを救ってくださった」
瀕死のワーウルフたちを救護して、行き場を失った彼らを魔王城に案内した。
「魔王様のおかげで、俺たちは今も生きているんだ」
彼らもまた、エリーナに救われたんだ。そう思った。
「どうして、この話を僕に?」
ヴォルニクさんは、真剣な表情で答えた。
「俺は人間が憎い。これは事実だ。でも、それ以上に大切なことがある」
大切なこと?
「それは、生きることだ。今のお前は、人間が憎いかもしれない。でも、怒りで我を忘れてはいけない。まずは生きるをことを最優先に考えるんだ」
何か、俺の中に変化を感じる。
心を覆っていた闇に、糸筋の光が差し込んだかのような。
「魔王様に助けられたこの命、無駄にしてはいけない。だから、自分の憎しみに打ち勝ち、生き抜くんだ。お前も、憎しみに負けるんじゃないぞ」
ヴォルニクさんの言葉が、俺を暗闇から引き出した。
心がすっきりした気がする。
「まぁ、俺の言えたことじゃないんだがな」
ヴォルニクさんは、照れたように頭の後ろを掻いた。
「分かりました、ヴォルニクさん。僕、命を大切にします」
「そうか、伝わったようで良かった」
俺は、明るい笑顔でそう答えた。
これから先、何が起こるかわからない。
でも、命を無駄にするようなことはしない。
それは、誰も幸せにはならないだろうから。
魔王城の皆のためにも、俺は生き抜いて、必ず恩返しをしよう。
そう、心に誓った。
「魔王様、人間の件ですが・・・」
「ええ、不可解な点が多いわね」
エリーナとヴェイルズが話をしている。
緊急会議が終わり、各自の部屋に戻っている途中だ。
「見張りをしているゼファルドが気づかなかったこと、私たちの知らないスキル、そして、魔王城の近くに現れたこと、謎だらけだわ」
エリーナは頭を抱えている。
ヴェイルズは、少し考え込んだあと、口を開いた。
「例の人間が去っていくときに言っていたのですが、「勇者」がどうのこうのと・・・」
エリーナは窓の外を見つめた。
「「勇者」・・・、人類を救う救世主か」
これから先、何が起きようとしているのか、このときの俺には想像もできていなかった―。
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