爪の痕
ひとりの少年がしゃがんでいた。
昔に崩壊した建物の、そのまま放置されていた瓦礫の山の傍ら、岩の角塊を集めていた。
少年は毎日、壁の欠片を集めた。
ある日どこからか、真新しい石材をたくさん集め持ってきた。
そしてそのいくつかを砕いた。四角い石材を地面に並べていき、その上に泥を塗り、
そこへ壁の欠片と真新しい石材の欠片を隙間なく並べた。
彼は何も言わなかった。
それからも毎日彼はやって来て、
毎日、彼は石材を砕き並べ、毎日、集めた壁の欠片とあわせて積んだ。
彼は毎日やって来た。
彼は何も言わなかった。
ある頃から町の子供たちが、彼とともに
石材を砕き並べ、壁の欠片とあわせて積み始めた。
彼と子供たちは何も言わなかった。
ある頃から町中の大人たちが、彼と子供たちとともに
石材を砕き並べ、壁の欠片とあわせて積み始めた。
彼と子供たちと大人たちは何も言わなかった。
ある頃から、国中の人々が、彼と子供たちと町中の大人たちとともに
石材を砕き並べ、壁の欠片とあわせて積み始めた。
誰も何も言わなかった
とある人が、立派な装飾をこしらえた。
それはようやく出来上がった建物の天辺に、そびえたつように飾られた。
その天辺の飾りは、この建物を壊した人の、息子がつくった。
天辺にその飾りがついて初めて、その建物は昔と同じ形になった。
その外壁は、真新しい石材と、古い壁の欠片で斑になった。
それは、この建物が壊れてから、60年後の話。