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雪花と朝顔_1

「これより剪定を開始します」

薙刀を構え、宣言と共に地面を蹴る。

接近する柚利乃に対し、ザープは左右の翼を大きく広げ迎え撃つ。翼の内側には無数の巨大な紫色の朝顔の花が咲いていた。すると、花が翼から伸び始める。一人丸呑みできるその大きさの花は頭上から少女に襲いかかる。

「はっ!」

薙刀の斬り上げで花を両断する。

続けざまに来る花を(かわ)し、そして切り裂きながら足を止めることなく接近する。道路に散る花を背に進み。気づいたときにはその間2メートルほどまでに距離を詰めていた。刃を横に構える。

「_っ!」

しかし、動作の途中で不穏な気配を察する。

頭上に黒い影がかかる。体を捻り柚利乃は強引に斬り上げる。刃と(くちばし)が激しくぶつかり合う。ザープの鋭い嘴が柚利乃に向けられていた。

「…くっ_っ!」

嘴を弾き、後方へ跳ぶ。

あの嘴はこのザープの最大の武器。警戒しなければ。

「危ないっ!」

春樹の叫びを背中で受ける。

視界の両端に紫の影が見える。朝顔の花が左右から挟み込むように構えていた。空中に跳ぶ瞬間を狙っていたのか。逃げ場がない。

「問題ないわ」

柚利乃は薙刀を横に持つと柄部が一気に伸びる。そして、切先と石突(いしづき)が左右から花の子房のところまで刺さし花を押さえた。

薙刀を足場にし頭上へ跳ぶ。

「雪花_白鷹(はくたか)

柚利乃は手を前に出し、白い粒子が手のひらに集まり出す。すると、先ほどと同じ薙刀が顕現(けんげん)し、それを掴んだ。

首を上げ、ザープも再び迎撃体勢をとる。だが、遅い。首を上げたときには既に鶏冠(とさか)が白鷹の切先(きっさき)に触れていた。

「はぁっ!」

脳天から足先まで、狂いのない綺麗な一線を描く。

両断された体が左右に横転し、景色が開ける。

荒れ狂っていた(つる)も力を無くし、地面へと落ちていった。

インカムから通信が入る。

「よくやった、柚利乃。今、二体目も位置を送った。すぐに向かえ」

目の前に空間ディスプレイが出現し、本部から座標が示された地図が送られて来た。

「了解です」

地面を蹴り、柚利乃は屋根に跳び移る。そして、そのまま次の現場へ駆けて行った。

「……………」

交戦の一部始終を春樹は静かに見ていた。緊張が解けたのか、プツリと糸が切れたように地面に崩れ落ちた。

「気を付けろって………お前の方が危険だろ」

もう見えなくなっていた勇猛な少女に春樹はそう呟いた。



「っ!_あれ?」

いつまで待っても痛みが来ないことを疑問を思い、奈津菜はおそるおそる目を開ける。

街灯で明るかった視界が暗くなっている。

一瞬、失明という言葉が頭を(よぎ)ったが、そうではなかった。暗闇に目が慣れてきて自分の手のひらを認識できた。

状況が飲み込めず、手を伸ばし辺りを模索する。

すると、指先が何かに触れた。

「冷たっ!」

手にひんやりとした冷たい感覚が襲う。

「何…これ?」

手を叩きシードを起動する。設定をライトに変更し、目の前を照らす。

「うわっ!」

反射させた光に驚き、手びしを作る。

現れたのは一面の白い壁だった。汚れのない綺麗な白だった。ライトの明かりに照らされて、キラキラと虹色の光を放つ。

再び、その壁に触れる。

先程感じた冷たい感覚、シャリッとした小さな氷の粒。

奈津菜は目を見開いた。

「もしかして、これ…雪?」

どうしてこんなところに雪が…。小首を傾げる奈津菜。しかし、どんなに考えてもその答えは出なかった。でも、これのお陰で私ザープから助かったんだし、これはそんな悪いものじゃない…よね。不安は残っているものの一旦、この壁について考えるのは置いておくことにした。

「えーと、どっかに出口は…」

正面の壁から探してみたが、出口らしきものは見つからなかった。地面に落ちていた石を拾い、壁を叩いてみたが、びくともしなかった。壁を壊して出るのはおそらく不可能だろう。

天井の高さは膝立ちして、頭の上に少し空間ができるほどの高さだった。背面の壁を確認するため、足をずりながら、体の向きをくるりと反転させた。シードのライトをかざし、再び出口を探す。すると、白い壁の中から突然人の顔が浮かび上がった。

「いやーーっ!」

驚きのあまり奈津菜は手に持ってい石を投げつけた。

「痛っ!」

そして、後ろの壁まで一気に体を後退(こうたい)させる。

壁に張り付くようにして、ブルブルと体を震わせる。

すると、先ほどの顔が話し出す。

「って………。いきなり、何すんだよ…」

声を聞いた瞬間、体の震えが一気に収まっていった。

「はる兄…?。」

「せっかく、助けに来たのにひどいお出迎えだな」

赤い鼻をさすりながら春樹は苦悶の表情を浮かべる。

「バカ!バカ!バカはる兄!。もう脅かさないでよ!」

怒りと安堵の混ざった罵声がかまくら内に響く。

「いるなら声かけてよ。何で黙って顔だけ出すの!」

「顔出した瞬間にちょうどライト向けられたんだからしょうがないだろ。後一応、正面から来たときに壁叩いたり、声かけたりしたぞ」

そう言われ、奈津菜は眉を上げた。壁を叩いた音も春樹の声も全く聞こえなかった。

「そ、そんなの知らない。聞こえてないなら言ってないのと同じだもんっ!」

暗くて顔は見えないが、なんとなくふて腐れているのが春樹でもわかった。

「はいはい、俺が悪かったよ。_____そんなことより、さっきのザープは白梅が倒してくれた。今のうちにゲートに行くぞ」

「うっうん」

春樹が顔をどかす。

今見ると外の街灯に照らされてか、出口の一ヶ所だけ明るくなっているように見えてわかりやすかった。

奈津菜はハイハイでかまくらから出てきた。

「俺、靴履いてないからおじさんの靴借りていいか?」

「知らないけどいいんじゃない?」

体を起こし、周囲を見回す。

辺りからは嵐が過ぎ去ったかのような異様な静けさを感じた。

警報の音は相変わらずうるさいがそれでも少し気味が悪かった。

「立てるか?」

春樹が手を差し出した。

「うん_痛っ!」

「おい、大丈夫か?」

立ち上がろうとした瞬間、奈津菜が左足を押さえる。

「ザープを見た時にビックリして足捻っちゃったみたい…」

痛みに表情を歪める。

ここから一番近いゲートでもそれなりに距離がある。その足では自力でゲートまで歩くのは厳しいだろう。

「_ったく。しょうがねぇなぁ」

とため息混じりに言うと、春樹は奈津菜に背中を向けで腰下ろした。

「え?」

奈津菜は驚き、目を丸くする。

「早く乗れ。ゲートまで行ってすぐに病院で診てもらうぞ」

「_うん」

膝立ちをし、春樹の肩に手を置いた。

左足を使わないように両手で春樹の肩を押しながら立ち上がり、背中に乗った。

「よいしょっと」

両足を持ち、立ち上がる。体を跳ねさせ位置を調整し、春樹は歩き始めた。

ここから一番近いゲートまで歩いて約二十分。バイト先のコンビニの前を通った先にある駅前のゲートだ。普段はただの扉のデザインの床なのだが、緊急時になるとそこが開き、地下へ続く通路が現れる。そこを通り、隔離壁の向こうへと避難する。

「ねぇ…はる兄」

「ん?なんだ?」

「…………えっと…ねっ。うん…………………その…」

何か言いにくいのか。口をもこもごさせる。

少しの間の後、顔を背中に埋め奈津菜は口を開く。

「おんぶ…。あ、あり…が、とう」

はいはい、と春樹は苦笑する。

よほど恥ずかしいのか肩を握る手に力が入っていた。

普段からこれぐらい可愛げがあればなぁ。

と、まぁそれはそれとして…。

「…………」

体を跳ねさせ、下がり出した奈津菜の体を上に上げる。

額に汗を滲ませる。

「…お前、意外と重いな」

「…………え?」

春樹の言葉に奈津菜は思考が止まる。

「身体小さいし米ぐらいかなって思ってたら米より全然あるし。食べ盛りだからその分増えてんかな…?」

「はっ、はぁぁぁぁあああ!?」

頬赤みが全面へと広がっていく。

「ヤバイな。ちょっと腕疲れてき_いでっ!」

突然、脳天から髪を思いっきり引っ張られる。

「女の子にそんなこと言うなんて信じられない!デリカシーって言葉知らないの!?だからはる兄はモテないんだよ!このとうへんぼく!ミトコンドリア!」

「いててててっ!おいバカっ!上で暴れるな!」

髪を引っ張るや頭をポカポカと殴り、やりたい放題に暴れる奈津菜。

まずいまずい気が抜けて要らんことしゃべりすぎてしまったか。

_____とは言え、疲れてきたのは本当だ。ここからゲートまではそれなりにまだ距離がある。部活を辞めてから運動をサボっていた春樹にはなかなか酷な仕事だ。もっと楽に行ける方法はないものか…。

「あっ、あった」

毛根を引っ張られ頭がスッキリしたおかげかいい案が浮かぶ。

「いででっ…。なぁ、いっ…ちょっと寄道して………いいか?」

引っ張る手を奈津菜は止める。ゆっくりと手を下ろし、少し顔を曇らせる。

「…遠回りするなら、やだよ」

表情が暗くなったのを察し、春樹は振り返る。そして、笑顔で返す。

「大丈夫。通り道だから」

そう言って春樹は歩みを進めた。

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