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花結びの剪定者  作者: 右島咲多
第一章
22/22

出会い

「須藤くん、そ…その子は…?」

横の柚利乃が唖然とした表情をこちらに向ける。

その場の全員の視線が春樹に集中する。

「おっ…俺にも何がなんだか…」

困惑しながら春樹は再び少女に視線を向ける。

「えっと…君は?」

少女は「ふんっ」と鼻を鳴らし腰に手を当て、自信満々に答えた。

「よかろう。耳の穴貫通させてよく聞け!我はつば_うにゃっ!」

話し出すと同時に少女の頭に舞香が自分の白衣が覆い被せる。

「これは驚いたなぁ。まさか女の子出てくるとはな」

少女の脇に手を入れ、体を持ち上げる。

「えーい離せっ!女っ!何をする!」

移動中、少女は子供の駄々をこねるように暴れていたが、そのまま床に降ろされた。

机から降りて見ると、盛大な登場だっため大きく見えたが、少女の身長は春樹の胸ぐらいまでの高さだった。

春樹は腰を落とし、少女に聞く。

「えーと…もう一回聞いてもいいかな?」

せっかくの口上を邪魔されたからか、少女は少し不機嫌そうにしていた。

「我は椿の精。花の持ち主であるお前を救うため、花から生まれた」

ん?救う?……………まぁ一旦そこは置いておこう。

「うーん…………何から聞いていこう…」

悩んでいると本部長室のドアが開いた。

「失礼します。本部長、そろそろ会議のお時間です」

「___っ!そうか、わかった。すぐに行く。すまないが、私はもう行かなければならない。その子については後日、杏奈くんに報告書としてを纏めて出してくれるか?」

「はっはい…」



「つまり、セイは俺の花から生まれた存在で、花の力を俺の中でサポートしてくれている、と」

「うむ。花が開花し、ある程度流れが安定したからこうして姿を現した、と言うわけじゃ」

本部長室を出た後、春樹たちは少女を連れ柚利乃の家に戻ってきていた。

あの状態のまま外を出歩くわけには行かないので、一度春樹の中に戻ってもらい、家についてからまた出てきてもらった。今は柚利乃から服を借り、白いTシャツを着ている、少し大きそうだが。

「須藤くん、さっきから言ってる。そのセイって言うのは何?」

「えっ?この子の名前だろう?さっき自分でそう言ってたじゃん」

お茶を三人分運んできた柚利乃が首を振る。

「須藤くん。彼女が言ったのは椿のセイちゃんって意味じゃないわ。セイは精霊の精。つまり私たちで言うところの人間って意味よ」

「えっ、あ、そうなのか!俺はてっきり、”高校生の須藤” みないな意味かと思ってたわ」

春樹は少女に向き直った。

「えっとじゃあ、君の本当の名前は何て言うの?」

そう聞かれ少女は目を反らした。

「名前はない。あったかもしれないが、忘れた」

そう彼女は呟く。その瞳は少し悲しみ映しているように見えた。

すると、少女は春樹の顔に指をさす。

「春樹、お前が我に名をつけろ」

「え?俺が?」

「そうじゃ。お前が我の主なのだ。その責任はある」

少女からの突然の申し出に、春樹は顎に手を当て勘考する。

急に名前をつけろと言われても、正直ちょっと困る。とは言え、確かにこのまま名前がないと言うのはやはり不便だ。何かいいのを考えないとな。

「名前………なまえ…か」



「どう決まりそう?」

キッチンで夕食の準備をしていた柚利乃が聞いてきた。

「全 然 ダ メ」

椅子にだらんと背をもたれた春樹は天井を見上げながら言った。別にヒントが上に書いてあるわけではないが、なんとなく見上げてしまう。と言うか、このままあまり首を戻したくない。なぜなら、学校のプリントの裏紙に箇条書きされた名前の候補と目の前に座っているご機嫌斜めな精霊さんがいるからだ。

「おい!いい加減にしろ。とっとと名前を決めんかっ!」

「いや、でもなぁ…」

名前を決めろと言われてからおそらく合計で十個近く案は出していると思う。出しているのだが…。

「どれもしっくり来ないんだよなーー」

「はぁ…」

少女は深くため息をつく。

とまぁそんなこんなでこれが小一時間続いているのだ。

「さっきから同じことばかり言っておるぞ。我は何でも良いと言ってるではないか」

「そんなこと言ってもよ…」

少し首を曲げ、キッチンの方を見る。

「柚利乃、なんかいいアイデアあるか?」

「そういうのは自分で決めた方がいいと思うわよ」

「そうか…。そうだよな…」

首を戻し、「うーん」と唸りながらプリントとにらめっこをし、春樹は頭を抱える。すると数秒後、フッと顔を上げる。

「よし決めたっ!」

「おっ!やっと決まったか!?」

春樹の声に不機嫌顔から一転。少女の表情が明るくなった。

身を乗り出し、少女は期待を寄せた目で見つめる。

「夕飯食べてから考える」

「がはっ!」

少女の身体が机に崩れ落ちた。

机に顔をうっぷしたまま少女は柚利乃に聞く。

「おい、女。春樹はいつもこうなのか?」

「女じゃなくて柚利乃ね。___さぁ。私、須藤くんとそこまで長い付き合いじゃないし」

そう言いながら柚利乃は鍋を掻き回す。

「ねぇ、須藤くん。_____須藤くんって優柔不断なの?」

「ん〜優柔不断っていうか……………。普段からそうって訳しゃないんだけど」

ポリポリと頭をかく。プリントを持ち、候補の名前たちを春樹は見つめる。

「名前って一生その人が背負っていく物じゃん?生きてる間だけじゃなくて、死んでもさ。だから、そういうことを考えれば考えるほど、すげぇ重要なことだって思っちゃってさ」

重く考えすぎ、と言われればそうなのかもしれない。だが、慣れてないせいかこれで本当にいいのかと永遠に沼ってしまう。

はぁ…みんなペットとか子供の名前を決める時ってどうしているのだろうか………。

「気持ちはわかるけど、いつまでもこのままって訳には_」

「あーー!もうーー!めんどくさい!」

「__っ!おい!ちょっとっ!」

限界を迎えた少女はいきなり春樹からプリントを取り上げる。そして、それを天井へと放り投げた。

少女は大きく息を吸うと、それを一息で短く吐き出す。

「ふっ!」

吐いた息は炎を纏い、まるでサーカスの火吹きのように吹き出し、辺りの空気が一瞬熱くなる。

「バカっ!こんなところで能力を使うな!」

慌てて燃え落ちる紙を確保し、両手で叩き火を消す。

「家に燃え移ってまた火事になったらどうすんだよ!」

「ふんっ!ちゃんと火力は考えておるわ」

この間のことがあってから柚利乃の家では絶対に能力は使わないって決めてるのに。このやろう…。

「ったく。せっかく考えた候補が全部燃えちまったじゃぇかよ」

「それを思い付いた時に即決してないのなら気に入らないところがあるってことじゃろ。ならそんなもの、あってもなくても変わらんわ」

紙はほとんど燃えてしまい、ギリギリ切れ端の一部分だけしか残っていなかった。はぁ…新しい紙、持ってきて書き直すか。

両手を開き、ちゃんと火が消えていることを確認する。身体に熱耐性があるせいでたまに温度だけだと火がついているのか、ついてないのかわからなくなる。

「─っ!」

中身を確認した時、春樹の動きが止まった。

手のひらほどの燃え残った紙の切れ端。

その紙にわずかながら残っていた文字を見て春樹の頭の中で何かが弾けた。

「なぁ、精霊」

「なんじゃ?」

先ほどの行動を悪びれる様子もなく、少女は暇そうに足で机を押し、椅子をゆらゆらとさせていた。

「名前、決まったぞ」

不機嫌そうな目をしたまま少女は視線だけ春樹に向ける。

しかし、春樹の顔を見た時、眉を上げた。そして、口元を緩ませる。

なぜなら、先ほどまでとは異なりその表情は自信に満ちていたからだ。

動きを止め、少女は椅子の上に立ち、春樹を力強く指さす。

「ふん、なら宣言しろっ!後世に紡がれる我の名を。そして、果たせ。我が主としての最初にして最大の名誉をっ!」

春樹も椅子から立ち上がった。

そして、その名を告げる。


「お前の名前は_コウカだ」


「コウ…カ?」

少女は目を丸くする。名前の制作中、候補をボソボソと一人で呟いていたが、その名は初めて聞いた。

「あぁ」

春樹は頷き、手を差し出す。

候補を書く際に名前作りのヒントになるかと思い、始めに椿で連想される物をいくつか書き出していた。

紙の隅に書いた言葉。つまり、春樹が一番最初に書いた言葉。それが_

「”紅” い ”花” で紅花(こうか)だ。___どうだ?」

春樹が聞くと少女は突きつけた手を下ろし、「はあ」とため息をつく。

「散々悩んでそれとはのぉ」

「…………ダメか?」

少女の反応に出していた春樹の手が下へと落ちていく。

「………いや、気に入った」

テーブルに左手を着き、身を乗り出すと少女は春樹の手を力強く掴み取った。

「我が名は紅花。お前を救う椿の精。さぁ、これから楽しくやろうではないか。春樹」

燃える炎のよう美しいその紅い髪を揺らしながら、精霊の少女_紅花は満面の笑みで名乗った。

その顔を見て春樹も笑顔で答えた。そして、か細くも(たくま)しいその手を強く握り返す。

「あぁ、これからよろしくな。紅花っ!」


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