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花結びの剪定者  作者: 右島咲多
第一章
19/22

覚醒_2

さっきよりも街が小さく見える。歩くだけで何が飛んでいき、少し手を動かすだけで建物が崩れた。

「おいおい、あんま街壊すんじゃねぇよ。そこのラーメン屋、結構お気に入りだったんだぞ」

紅い炎がザープの目に映る。それはとても小さく鼻息一つですぐに消えてしまいそうほどの。

瞬間、ザープの腹部に衝撃が入る。

その威力に耐えられず後ろへ飛び、奥の交差点のビルに突っ込む。凄まじい衝突音が夜のガーデン内に響く。ビルに行くまでの過程で何台もの車が風圧で飛んだ。

「おっと痛かったか?わりぃな。これが挨拶だって教官から教えられたもんで」

立ち上る砂煙に向かって春樹は言う。

完全に開花したおかげで、身体能力の強化も重畳だ。体がとても軽い。

膨れ上がった煙からザープが飛び出す。六本の足を動かし、春樹に突進する。直前で跳び、二本の右腕を大きく掲げる。空気を裂きながら迫るその爪は僅かに光を漏らし、春樹へと振り下ろした。寸前で後ろに跳び躱す。再び着地した時、目の前にはザープの顔があった。口を大きく開け、食らいに来る。

春樹の上半身をザープの口内が覆う。

「_やべぇっ!」

牙を両手で掴み、ギリギリのところで耐えていた。ザープの生暖かい息が体にかかる。

地面が春樹を中心に割れていく。

「…ぐっ…ぅっ…」

腕がプルプルと震えだす。そう長くは保てない。

「食うのは、はちみつだけにしやがれぇぇええ!」

全身からから炎が噴き出し、小さな爆発が起こる。

その勢いに押し返され、ザープの体が後ろへ傾く。

右足が紅く燃える。地面を蹴り、ザープの眼前の高さと並ぶ。

「歯食い縛れぇっ!」

ザープの顔に春樹の右足が打ち込まれる。

巨大な体は建物に飛ばされ、ガラスの入口を破り奥へ突っ込んだ。

「_っと」

体をくるりと回し春樹は着地する。今の攻撃で確信した。力の強弱を意識的に変えれるようになっている。あんなに難しかったのが嘘みたいだ。開花するだけでこんなに違うのか。

「………ふふっ」

火の灯る拳を見て春樹は口元を緩める。

殴り飛ばしたザープを追うように春樹は建物の中に入っていった。



中に入ると赤い絨毯と煌びやかな装飾が春樹を出迎える。

ここはどうやら演奏や劇などをする劇場のようだった。

中央には二階へと続く大階段がそびえ立っている。

ザープはそれにのけ反り伸びていた。

追撃のため拳に力を込め構えると、ザープの体が動く。

そばにあった大きな柱に二本の右手の爪をかけザープは立ち上がる。

「結構きいてるようじゃん」

自分の攻撃がどこまで通用するか内心不安なところもあったが、目に見えた手応えに気持ちが高揚する。

右手に引っかけていた爪をより深く柱に突き刺す。

「………ん?」

そして、崩れる音をたてながら、柱を引き抜き二本の右手でそれを振り上げる。

「お、い…おいおい…」

二階の廊下、天井に吊るされていたシャンデリアに当たり、落下する。

あんなの食らったらひとたまりもない。

「待って待って待て待て待てまてぇぇええっ!」

重圧を纏いながらザープは柱を振り下ろす。

衝撃波と土煙が巻き起こる。

迫り来る強大さに怯みそうになるが、地面を蹴りギリギリで躱す。

衝撃波で残っていた建物の照明が全て割れる。

「くそっ!目が_っ!」

暗闇に目がすぐに順応できず、視界が黒に染まる。瞬きや見開いたりしてみたが、まだはっきりと形を捉えられない。暗闇に包まれた視界の中、大きな影が身に迫るのを感じた。

ザープの攻撃は一撃では終わらなかった。叩きつけた柱をそのまま振り被り、空中に飛んだ春樹を追撃する。

重い一撃が全身に響く。

「__っ!あ、ぅ___!?」

壁に直撃し、冷たい重圧が内蔵を押し潰す。

衝撃音と壁が崩れる音が辺りに木霊した。



春樹がザープとこの劇場に来てから約数分。この短時間で劇場はもはや廃墟に等しい姿へと変わっていた。

土煙が消え、視界がはっきりする。振りかぶったまま停止していた腕をザープは下ろした。確認するとザープが小首を傾げた。壁にできた大きなクレーター。中心には赤い血痕が花火のように広がる。

そして、腕を振るった時に巻き込まれたロビーのソファーやテーブルがめり込んでいた。

しかし、それだけだ。クレーターに血痕はある。手応えもあった。だが、打撃を食らったら本人がいない。肉片となって跡形もなくなったのか?

柱を持ち上げ辺りを探す。下を見ても壁の破片しか転がっていない。どこにもいない。奇妙な静けさを感じた。首を振るった時、シャンデリアのガラスの破片が外の街灯の光を反射する。一瞬、視界が光に覆われ目がくらむ。

「人間なめんなよ。熊野郎」

光から逃れた時、目の前に春樹の姿があった。頭を赤く染めて。

ザープの一撃を確かにこの身に受けた。壁に叩きつけられ、意識が薄れる。しだいに柱の圧迫感が失くなり、体が下に滑り落ちそうになった時、彼は柱を掴んだ。つるつるした表面に両手の指を柱の表面に食い込ませる。あの状態で離さなかったのは根性としか言えない。そして、ザープが柱を持ち上げた瞬間に滑り台の要領でザープに接近した。

拳に灯る紅い炎がザープを照らす。

いつもより大きく、ザープの顔面を捉えるため。

「頭潰して骨をたぁぁぁあつっ!」

炎の拳を叩きつけた。




「………はぁ…」

誰もいなくなった街を見ながら柚利乃はため息をつく。

結局、行かせてしまった。

彼を逃がし、私がザープと戦うのが剪定者として正しいはずなのに……。

彼を止めることができなかった自分の不甲斐なさが身に染みる。

…………とは言え、自分でも無理をしている自覚はあった。

立つのだってままならなかったあの状況では、説得力がないと言われても仕方がない。

「…………」

だが、ここでじっとしているわけにはいかない。

手のひらを宙にかざす。白鷹は……まだ作れないか。

「………くっ……」

ビルの壁に手を着きならが立ち上がる。休んだおかげで少しだけ体力が回復した。

最後に春樹を見たのはザープと建物に入っていくところだ。

歩き出そうとした時、通信が入る。怒鳴り声に近い音量が耳に響く。杏奈からだ。

「こちら白梅。…………はい、大丈夫です。………はい………今大型のザープと戦っています。………すみません、私の力不足です。………………了解です。では、応援が来しだい須藤くんを連れ撤退し_」

会話の途中、柚利乃は言葉を失う。

建物から飛び出して来た物に全ての注意を奪われた。

遠くで杏奈が呼び掛ける声が聞こえる。だけど答えられない。目を逸らすことができなかった。

なぜなら、柚利乃の目に映るのが血を撒き散らしながら建物から飛ばされる春樹の姿だったからだ。

「須藤くん____っ!」


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