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花結びの剪定者  作者: 右島咲多
第一章
17/22

飛来する厄災_2

_____疲れる。

体に乗る瓦礫に手を掛け、柚利乃は立ち上がる。服に着いたガラスやコンクリートの破片を両手で払う。

先ほど、病院で傷は治してもらったが、完全に回復したわけではなかった。叩きつけられた背中や所々の体の筋肉はまだ痛む。「安静にしていろ」と言われたが、ザープが出てはそうも言ってられない。自分を労っていては被害が拡大する一方だ。

スカートの裾を少し捲る。太ももに巻かれたレッグホルダーから小さな容器を一つ取り出す。中には少量の緑がかった液体が入っている。水剤だ。応急措置ではあるが、戦闘で負った傷を癒してくれる。側面の輪っかに指を入れピンを引き抜き、中の液体を一息で飲み干す。

「……………しょっぱい」

空の容器をホルダーにしまい、自分が開けた穴に向かい歩き出す。

水剤の効力で体の傷口は緑色に光り出し、壁際に着いた時には全て綺麗に塞がっていた。

ビルの壁際に立ち、辺りの状況を素早く確認する。最後に見た記憶よりもザープはかなり前進している。寸の間、気絶していたのかもしれない。

ザープに近づこうにも車道は乗り捨てられた車でいっぱい。

歩道は投げ飛ばされた車両と瓦礫が散乱している。

なら___

「雪花」

右手をかざし、空中に立方体の足場をひとつ顕現させ、それに跳び移る。側面に足裏を付け、それを思いっきり後ろへ蹴る。ビルに平行に進みながらザープへと接近する。ある程度のところでビルに移り、壁をつたって走る。

首もとと左前足の果実は初めて見た時から気づいていた。体の下に潜り込んだ時右後ろ足、脇腹にもあることを確認している。そして、細胞壁の固さ。先ほどの攻撃の反省から、ある程度しっかりと力を込めなければ斬れない。相手の動きも止められてかつ、斬り落とせる可能性が高い場所。さっき斬ろうとしたところの反対側。

柚利乃とザープ体が横一線に並んだ瞬間壁を蹴り、ザープへと跳ぶ。ギリギリまで体を細くし空気抵抗を減らす。接触する直前白鷹を生成する。

横に構え、ザープの右前足に刃を添える。助走をつけた分威力は上がっている。角度、位置、共に狂いなし。揺らぎのない綺麗な水平線を描く。刃は__________虚空を斬った。

「____っ!?」

反対側の建物の壁に着地し、地面に降りる。状況が飲み込めず、目を丸くする。道路の真ん中、車を踏みながら進んでいたザープの姿が消えている。柚利乃が通り過ぎる瞬間確かにそこにいたはずだ。なんなら刃の先は少し触れていた。

不可解な謎に思考を巡らせていると突然奥から衝撃音が聞こえる。

その方向に目を向けた時、柚利乃は目を疑った。

四つ足で歩いていたザープが仰向けになって奥の信号機の柱に寄りかかっていた。衝突事故でもあったかのように信号機の柱はへこみ折れ曲がる。そして、驚いたのは顔の部分だ。白鷹で斬った鼻先、それを含めた左半分が撃ち抜かれたように抉れていた。

「ねばねばして気持ち悪いのぉー」

次に瞬きした時にはザープの目の前に春樹がいた。そして、抉られ残った顔に手を引っ掛け、右のビルへと投げ飛ばした。

「草は草らしく地面に沈んどれ」

右腕を上げ人差し指を天に突き立てる。すると、指から一本の大きな火柱が立つ。それはまるで大剣を掲げているように見えた。

「消えろ」

春樹の言葉と共に炎の大剣が振り下ろされる。

ザープに直撃した瞬間、大きな爆発音と共に辺り一面が炎の海へと化す。

ザープの体は黒く焦げ落ち、最早原型をとどめていなかった。

「つまらんの…。これではまだまだ遊び足りぬわ」

ふんっ、と鼻を鳴らし手応えの無さに春樹は不満を溢す。それなりにデカかったので、身体の慣らしにちょうどいいと思ったのだが見た目ほどでもなかった。

頭をかき、顔を歪ます。

すると、遠くから爆発音が聞こえた。それを聞いて春樹は唇を上げた。

「ほぉ…次は、あそこか」

嬉しそうに呟くと、爆発のあった方向に春樹は歩みを進める。

「___っ!待ちなさい!」

いつの間にか近付いて来ていた柚利乃は春樹を呼び止める。しかし、聞こえていないのか無視しているのか、柚利乃に背を向けそのまま歩いて行く。

「須藤くんっ!」

離れる背中に春樹の名を強く叫ぶ。二度目の呼び掛けでようやく足を止める。

「ザープと戦うのは私たち剪定者の仕事。さっきは助かったけれど、あなたはこれ以上ここにいさせるわけにはいかないわ。このまま避難して」

そう彼は花の力を使えるとは言え、私たちが守る一般市民だ。これ以上、彼を危ない目にあわせるわけにはいかない。

立ち止また背中に寄り、右手を掴み引き寄せる。

「それに右手の花錠はどうしたの?佐伽羅先生に能力を使うのは禁止といわれていたはずよ。……………これ以上は危険だわ。予備の花錠は私が持ってるからこれを___」

「……………はぁ…」

言い寄られ、不快そうに春樹は大きなため息をつく。

そして、ゆっくりと振り返る。

「_っ!」

彼の目を見た時、柚利乃は言葉を失った。

その目が彼女を刺すような眼差しでこちらを見る。

空間に体が縫い付けられたように停止する。

「小娘の分際で我に口答えするのか?」

殺気に近い気迫に気圧され、全身の毛が逆立つ。呼吸も忘れる緊張感。言葉を発することが、許されないと思ってしまうほどだった。唇が重い。息が詰まる。だが、言わなければならない。止めなければならない。恐怖心を押し殺し、声を絞り出す。

「_」

圧に抗い、何とか言葉を発っしようとする。しかし、それは音にならなかった。

すっかりと力が無くなった腕を払い、春樹は再び歩き始めた。

地面を蹴り、ビルへと跳ぶ。衝撃波が辺りを襲う。

体に当たった風で思考を取り戻し、柚利乃が気づいた時には春樹は既に数メートル先に跳んでいた。

「待ちなさい!」

柚利乃は瞬時に雪の鎖を生成し、春樹の足に巻き付けた。しかし、春樹の足に触れた瞬間、ぼっと炎が燃え上がり、鎖が溶けて消えてしまった。鎖を再生している頃には既に春樹の姿は目で見るのが困難なほど遥か遠くへと行ってしまった。

「くっ_」

唇を噛みしめる。少しだけ血の味がした。

込み上げてくる悔しさ。だが、その裏にはどこか安心している自分がいた。

両手で頬をたたき、気持ちを奮い立たせる。

「…………止めなくちゃ」

地面を蹴り、柚利乃は春樹を追った。



「第十五区内の避難誘導70%完了」

「遅いっ!後、10分以内に100%にしろと自衛隊に言え」

「りょ、了解」

「_っ!司令っ!緊急事態です!」

手元のモニターを見ていた管制員の男が声を上げる。

「どうした、何かあったか?」

「先ほど白梅隊員の戦闘区域付近で謎の熱源を感知したので、区内の監視カメラを調査したところこんなものが……」

メインモニターに映像が映し出される。

それを見て、杏奈は驚愕する。

「どういう………ことだ…っ!」

そこに映っていたのは倒れたザープを投げ飛ばし、炎の大剣でザープを消し飛ばす春樹の姿だった。

それに付随するように通信音が鳴り響く。柚利乃からだ。

「こちら白梅。緊急事態発生。須藤春樹の花が開花した模様。暴走状態になっており、現在、単独で行動しています」

「こっちも今確認した。…………おい、小僧の居場所を出せっ!」

杏奈が呼び掛けるとメインモニターのマップ状に新たに春樹の位置情報が現れる。それに並ぶように付近の監視カメラの映像が表示される。

「柚利乃、小僧はポイントAのザープと殴り合ってやがる。不味いな、そこはまだ一般人が逃げ切れてねぇ。一刻も早く小僧を止めろ!」

「了解です!」

通信が切れると、デスクに置く手を強く握りしめる。

「小僧のやろう…っ!面倒事増やしやがって………っ!」



青黒く染まる夜空。いつもは見える星も街の明るさでほとんど見えなかった。

ザープの唸り声。逃げ惑う人たち。警報の音が入り交じる街を紅い炎が駆ける。

人々の流れに逆い、常人を越えた脚力でザープに近付く少年がいた。

少年に武器などない。その身一つで巨大なザープと立ち向かっていた。

逃げる人の中にこの光景を見た者が何人かいた。その光景に呆気にとられ不意に足を止めてしまう。

しばらくしてその者たちに先ほどまでとは違う恐怖の色が襲う。ザープが倒れた後も彼らは逃げることをやめなかった。拳でザープをねじ伏せた者の姿を目の当たりにした彼らにはどちらが化け物なのか、もうわからなくなっていた。だが、そう思うのも仕方ない。

ザープと戦う少年の心に抱くのは正義感ではないという事はその顔を見ればわかる。愉悦感。ザープを殴り、そして殴りまた殴り、そうして粉々になる姿を見て、彼はとても楽しそうに笑っていた。



「ふぅー。さっきよりは楽しかったわい」

二匹目のザープも倒した春樹はとても気分がよかった。

とはいえ、気持ち的には準備運動が終わった程度。もう少し遊びたい。

肩や首を回し、体をほぐしていると、背後から獣のうなり声が聞こえた。それを聞き春樹は口元を緩めた。

「探す手間が省けたの」

振り返ると先ほどと同じ熊のザープが後ろ足の二足で立ち、こちらを見ていた。騒ぎを聞きつけてか、ザープの方から寄ってきたようだ。

「つまらんのー。また熊か…」

姿を見て少し、声色が落ちる。

だが、今まで戦った熊のザープの中で一番大きい。

「まぁよい。今度はお前が遊び相手になってくれるってことじゃろ」

嬉しそうに笑うその表情はどこか子どものような無邪気さを感じる。

地面を蹴り、再び拳を振り上げる。

花の力を拳に集め、炎を燃え上がらせる。

一発、二発とザープの体に拳を打ち込む。倒れさせるつもりで殴ったが、そうはいかなかった。三発目を用意したとき、種の弾丸が放たれる。寸前のところでかわし、ザープの体を蹴って、地面に着地する。

触れてみて確信した。やはり、見た目通り前の二体よりも強い。

「ひゃっひゃっひゃ!」

喜びが溢れ、高笑いをする。

あぁ気分がいい。魂の道筋に力を通す度、殴ったサープが吹っ飛んでいく度、大量アドレナリンが放出される。

「ひゃっはー!」

叫びを上げながら、春樹は再びザープへと跳ぶ。

それに反応し、ザープは爪を立て、頭上から勢い良く振り下ろす。

視界が朧気になっていた。打撃に耐えきれず、手が血だらけになっていた。だが、それすら今はどうでもいいと思えた。だからかもしれない。拳を引き、手を伸ばすまで、自分の手に炎が灯っていなかったことに気づいていなかったのは。

「あっ…」

拳を見て理解した時、一瞬脳内で時間が止まった。

戦いに優れた者ならその次の一瞬で回避の行動に移るのだろう。だが、春樹はただの一般人だ。それにそんな冷静さもない。その一瞬は一秒になり、ほんの僅かに行動が遅れる。そして、次の行動に移ろうとした時にはザープの攻撃を避ける時間などとうに失くなっていた。

振り下ろされた爪が春樹の体を切り裂く。鮮血が飛び散り、高揚していた春樹の体はさらに焼けるように熱くなっていく。

「__がはっ!」

視界が点滅し、意識が遠のいていく。

熱が頂点まで達するとさっきまで高ぶっていた感情が煙のように一気に消えていく。

勢いを失った春樹の体は力無くそのまま地面に落ちて行った。



さっきまで騒がしかった人の悲鳴も今はどこからも聞こえなかった。サイレンが鳴り続けているが、それを差し引けば静寂とも言えるくらいだ。

もう辺りには人っ子一人いない。いや、一人だけいた。目の前で仰臥(ぎょうが)する少年が。

「●▲◆…」

爪を立て、ザープは春樹の体に突き刺す。敵を倒したと曲尽(きょくじん)するように体を持ち上げる。口を開け、口内に投げ込もうとした。

その時、斬撃がザープに直撃する。掲げた右腕が斬り落とされた。腕から溢れ落ちた春樹の体は地面に向かって落下する。着地する寸前、地面に柔らかい雪の絨毯が出現し、それを優しく受け止めた。

戸惑いを見せるザープ。

その怯む間にザープの懐に柚利乃が入る。白鷹の左右の斬り上げでザープの両足と左手を切断していく。

地面に落ちかけたザープの体の腹部を蹴り飛ばし、奥に止まっていた大型トラックに突っ込む。ザープの体が前に倒れてかけた時、ザープの口に白鷹が突き刺さり、車体に体が張り付けられた。

「……▪………◼………►…」

何か言いたげに唸るザープ。

掲示物となったザープにゆっくりと足音が近づく。

「彼を止めてくれたこと感謝するわ。でも_」

刺さった白鷹を片手で掴む。車体から地面へ直線でなぞるように引き、胴体を斬る裂く。

「傷つけたことは許さない」

体は地面に落ち、小さな地響きを鳴らした。

マップ状の赤い点が消え、生態反応のロストを確認する。

「須藤くんっ!」

慌てて駆け寄り、春樹の状態を確認する。

傷を見て血の気が引いた。

肩から太ももにかけて抉られるように付けられた大きな爪痕。

下に敷いた雪の色がどんどん赤く染まっていく。

息はある。…大丈夫だ。落ち着け。まだ、助かる。

レッグホルダーから水剤を取り出す。手持ちはこれで最後だ。栓を抜き中の液体を傷に満遍(まんべん)なくかける。

傷が少しずつ癒えていくのを確認する。このまま安静にしていれば、おそらく大丈夫だろう。

本部へ通信を入れる。

「こちら白梅、須藤春樹を確保。ですが、ザープの攻撃による重傷を確認。運送部及び医療部の手配を_」

シードからアラートが鳴る。

表示すると未活性の黄色のマークをしていたカタバミの種子が赤色のザープ化の表示に変わっていた。

位置は____真後ろ。

「_っ!」

腹部に激痛が走る。脇腹に種の弾丸が直撃する。

制服を抉りながら内蔵を押し潰す。

そして、体は宙を舞い、回転しながらビルの壁に叩きつけられた。

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