第139話 事情聴取のち、招かれ虫。
「お久しぶりでございまする」
「オ、オ久シブリデス……」
絡んできたオログを、遺憾ながらボコボコにしたボク。
当然と言えば当然だけど、駆け付けた衛兵さんたちに囲まれて……ほど近いここに連れてこられた。
なんか、警察署……というか、ミニ牢獄? みたいな場所。
ボクは入ってないけど、チラッと牢屋みたいなの見えたし。
それで……衛兵さんにあの場での顛末を説明していると、ちょっと遠くがざわつくような気配があって……部屋に、見知った人が入ってきた。
小さい身長に、金色の綺麗な髪。
綺麗な外套を羽織ったその人は……ノキ・カルコさん。
「配下の者より、ムーク殿が衛兵に連行されたと聞きまして……どのような罪状でありまするか?」
「はっ」
カルコさんは、さっきまでボクが事情を話していた衛兵さんに質問している。
配下さんから聞いたって……ノキの人たち、どこにいたんだろ?
情報網が凄いですなあ……
「罪状はありません。彼は傭兵に一方的に絡まれ、なんとか説得を試みましたが……当の傭兵が一般市民に危害を加えようとしたため、やむなく制圧しました。これは、本人、周辺の住民の証言、精霊術によって裏付けられています」
「成程……聞いていた通りでありまする」
ホッ……よかった。
過剰防衛とかにならんくて。
『今更ですけど、この国にその法律はありませんから。過度に挑発などして喧嘩を吹っ掛けたのならともかく、今回のように腕を切られたら殺しても全然大丈夫なんですよ』
あ、そうだなんだ……安心!
『むにゃあ……おはいお……は? むっくんとっ掴まっとるし!? あああ、こんなことになるなら超ドスケベ神官にガス抜きさせるんやった……!』
なにかとてもひどい誤解が生まれているような気がする! 助けてトモさん!
『眠気覚ましにどうぞ、キムチ牛丼キムチマシマシです』
『辛いし! 美味いし! 辛いし! 美味いし!!』
起き抜けになんてものを……まあ、助かったからいいか。
「では、拙が彼を連れて行っても?」
「はっ! 問題ありません!」
身元引受むしんちゅ! 身元引受むしんちゅだ!!
あ、でも……
「衛兵サン! 壊レタ屋台ノ弁償ヲサセテ……」
あのけもんちゅのお婆さんが大変だからね!
ボクのバッグにはある! 使いたくても使えない現金が!!
「とんでもありません!」
衛兵の女性むしんちゅさんは全力で否定してきた。
「どう考えても今回の元凶は傭兵の男です! 強制労役の収益から、彼自身に支払わせます!」
「デ、デモソレジャ時間ガ……」
「ご心配なく! このような場合は我々から一時金を支給しますので!」
「オオン……」
しっかりしていらっしゃる……ぐぬぬぬ……また経済を回せそうにない……
「ふふふ、ムーク殿は相変わらず善良でござりまする」
カルコさんはコロコロと笑っている。
……喜んでいただけて嬉しいです! ハイ!
『(コイツ何しても好感度稼ぎよる……こっわ)』
『(しかも全部打算ゼロなんですよね……)』
あ、トモさんいるのかな?
釈放されたよ~!
『……ええ、ちょっと震えがくるので鍋でもしましょうか』
『それな! あーしピリ辛がいい~!』
ほーん、神界は今寒いんかな。
お大事にね、トモさん。
『っす、末恐ろし虫……!』
なにが~?
「さあ、ムーク殿。参りましょう」
「アッハーイ」
「サジョンジへお連れ致しまする」
「……ハーイ?」
なんで~?
・・☆・・
「お元気そうで、安心いたしました。ディナ・ロータスや黒い大地竜を討ち果たしたとか……さすが、ムーク殿でござりまする」
「誤解ガアルンデスガ? ディナ・ロータスハ騎士団サント一緒デシタガ?」
牢獄から出ると、そこには竜車……じゃなくって馬車がいた。
二頭の逞しいお馬さんに連結された、豪華じゃないけど綺麗な馬車が。
その行先は、一の街にあるサジョンジ家。
なんかお食事をご馳走してくれるらしい、悪いなあ……そして気詰まりだなあ。
「ミカーモ孤児院には連絡を入れておきました。お仲間たちは、今日はザヨイ家にお泊りだそうでありまする」
「アッソウナンダ……」
大規模女子会、むっちゃ盛り上がったんだろうねえ。
アカも楽しんでるといいなあ……トモさん、どんな感じかわかる?
『四方八方からおやつや食事を貰って、ピーちゃんともどもお腹ぽんぽこになっています。ゲニーチロさんの奥さんたちは皆さんとても優しいですね』
よかった、幸せそう!
『むっくんが1人で寂しがっているからお土産をちょうだい! と発言した所、さらに貰うご飯の量が増えたましたね。よっ! この愛されおやびん!』
むふふ……素敵な子分がいて泣きそうですよ! フヒヒヒ!
こちらも対抗してお土産をいっぱい買って帰らねば……!!
「嬉しそうでありまするね、何かいいことでも?」
「ア……エエット、カルコサンガ元気ソウデヨカッタデス! オ友達デスシネ!」
咄嗟にそう言うと、カルコさんの前髪から一対の触手がびょんっと飛び出した。
おお、びっくりした!
「そ、そうでありまするか……せ、拙も嬉しゅうございます……ふ、ふふ」
よかった! キモがられてない!
『(はもはも……やっぱこの虫やっべえわ。お隣ちゃんどう思う? うっは、ダブルピースとは恐れ入ったし。中々いい趣味してんね~?)』
『(満面の笑みですね……はい、お2人ともおかわりをどうぞ。むっくんの進歩にドキドキが止まりません)』
「お待ちしておりました」「ささ、どうぞ奥へ」
嬉しそうな雰囲気の門番さんに促されて……やってきたサジョンジのおうち。
「デッカイ……!」
目の前にあるそれは、三階建てのとっても綺麗なお屋敷だった!
お庭もカラフルな花畑があって綺麗だし、手入れも行き届いてる!
ザヨイ家と比べると……派手!
「ルカオコ様に代替わりしてから、少しずつ質素に直してはおりまするが……なかなか」
「コレデ質素ニナッタンデスカ……?」
ボクからしたら超豪華なお屋敷ですよ。
「以前は華美を通り越して下品でありました。無駄な人員も出費も多く……今は、それらを処分した金品で色々とやれることをしておりまする」
あ、なんか前に商人さんが言ってた気がする!
孤児院への寄付とか色々やってたんだよね!
たしかに、そっちの方が大事かも。
「立派デスネエ……」
「ええ、ご立派な当主でありまする。是非ともムーク殿とお会いしたいとおっしゃっていて……この度、予定が合いましたので探していましたら……ふふふ、申し訳ございません」
「エヘヘ……面目ナイ」
そりゃ、探してる相手が牢獄にいたら驚くよねえ。
「ああ、先程連絡が参りました。気にしていらしたあの屋台は既に新品へ交換されておりまするよ」
「ヨカッタ!」
あのお婆さんも喜んでいることだろう、うんうん。
場所は知ってるから、今度アカを連れて買い物に行こうかな。
売ってるものは何か知らないけども。
美味しいものだといいねえ~?
「ふふふ……」
カルコさんは、とっても嬉しそうにボクを先導している。
やっぱり、馬鹿殿がいなくなっていいお家になったのが嬉しいんだろうねえ……お友達が嬉しそうだと、ボクも嬉しい!
「ホエ~……」
『しばし、ここでお待ちを』と言われて待たされている虫です。
なんて綺麗なお部屋なんだ……なんか、豪華な調度品とかある……
ザヨイ家とはまた別の豪華さだな……
でも、さっきのカルコさんの言い分から察するにこれでも地味にしたんだね、たぶん。
「ズズズ……」
出されたお茶が美味しい……! なんか、高い味がする! 知らんけど!
付け合わせのお菓子も美味しいねえ……砂糖いっぱい使ってる気がする~!
お金持ちなんですねえ、サジョンジは……アカにお土産とかもらえんかな???
「失礼いたしまする」
ノックの音と、声。
もういらっしゃった! フットワークが軽い!
失礼になるといけないから立っておこう……マントもぴしっとしてね!
扉が開いて入ってきたのはカルコさんと……スラっと背の高い、やせ型の女性。
マーヤと同じくらいの身長だね。
綺麗な着物を着て、銀色の髪の毛もまた綺麗。
あ、チラッと見えたけど羽があるタイプのむしんちゅさんだ!
透き通った綺麗な羽だなあ……いいな! 自前の羽があるのって!
「ああ、お座りになってください。本日は急な招きに答えてくださり、ありがとうございます」
その人は、ペコリと頭を下げた。
「イイエ、コチラコソ……オ招キイタダキ、アリガトウゴザイマス」
ボクも頭を下げ、席につく。
「改めまして……サジョンジ・ルカオコと申します」
「ムークデス」
痩せてるけど、目に力はある。
黒くてキラキラしてて、綺麗だねえ。
「ムークさんのことは、こちらのカルコからよく聞いております。ラーガリでは、誠にご迷惑をおかけいたしました……!」
おおっと、さらに深く頭を下げられた!
「済ンダコトデスシ、ボクハモウ元気デスカラ」
ラーガリでトキーチロさんが大芝居をしたから、回り回ってこのおうちは良くなったんだもんね。
終わりよければすべてよしですよ、うん。
ラーガリの人たちも誰も死んでないし、壊れた建物も直ったからね!
「ソレニ、カルコサンニモ言イマシタケド、得タモノモアリマシタシ」
ボクが甘いんだろうけど、顛末とか裏事情を聞いちゃうとねえ……どうにも、憎む気持ちは起きないんですのよ。
「まあ……ふふ、カルコの言っていた通りのお方ですね。ムークさんには複雑でしょうが……ここに、トキーチロがいればきっと、あなたを気に入ったでしょう」
「ええ、ええ、誠に」
2人ともとっても悲しそう……やっぱり、いい人だったんだろうね、トキーチロさん。
「名前ヲ聞カレマシタヨ、最後ニ……ボクモ、モットオ話シタカッタデスネエ」
お腹をギャボー! されたことはもう忘れました! 治ったし!
「お優しいのですね、ムークさんは」
「周リガ優シイ人バカリデスノデ、ハハハ」
少し目の潤んだルカオコさんに、ボクはそう返した。
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