第137話 単独行動虫。
「あらァ、ムークさんじゃない」
「ア、オハヨウゴザイマス」
二の街をぽてぽて歩いていると、声をかけられた。
振り向くと……綺麗な蜘蛛足!
アラクネのタヴィアさんだ!
「どうしたのォ? お1人?」
「ハイ、別行動デス」
ギリコさんにボッコボコにされた翌日。
ボクは1人だった。
別に愛想をつかされたというわけではなく……
ロロンを始め、女性陣は全員……ザヨイ家にお呼ばれしているのだ。
なんでも、ゲニーチロさんの奥様方が色々なお家の女性陣を招くお茶会があるそうなんだよね。
これは完全な男子禁制の……いわば、超大規模な女子会? 的なやーつらしい。
そこに、女性陣は招待されたってわーけ。
勿論、アカとヴァル、それにピーちゃんもね。
というわけで……ロンリー虫と化したボクは、二の街をフラついている。
孤児院に残ってもよかったけど……街ブラをしたいのだ。
「あらァ、そうなのォ? ふぅん……ねェ、今って時間あるゥ?」
「売ル程アリマス」
何をするかも決めてなかったからね。
「じゃあねェ……その時間、買うわァ?」
「ハイ?」
『おほーっ!? 急にイベント来たし! トモちん、お酒! あーしお酒持ってくる~!』
『今日のツマミは焼き鳥にしましょうか……』
朝から元気だなあ、シャフさんは……
「ごめんねェ、ムークさん。急に出入りの業者が来れなくなっちゃってェ」
「イエイエ、コノクライ」
ぎしぎし、と荷車を引く。
荷台に満載されているのは……酒樽に、布で巻かれた酒瓶。
タヴィアさんに頼まれたのは、荷物運びだった。
市場にある卸の商会へ行って、荷車を借りて……今に至る。
「後はァ、ライラさんとこでお肉ねェ。助かるわァ……私だけだと運べなかったからァ」
「ゴ飯ノタメデスカラネエ、楽勝デスヨ」
ちなみに、今回のお給金は食事のおごりである。
始めはガルでってことだったけど、これ以上の財産はいらないし……
「あはァ、ムークさんって食いしんぼなのねェ」
ころころと笑うタヴィアさん。
ふむん……こうして明るい所で見ても、すんごい美人さんだねえ。
あのお店、絶対この人目当ての人たちが大量にいそう。
「あそこの角を曲がったところよォ」
「ハイハーイ」
道を知ってる人がいると助かるなあ。
いつでも混んでる首都だけど、見ているだけで楽しいねえ。
色んな人がいるなあ……
前を歩くタヴィアさんを見る。
本当に蜘蛛の胴体の上に女性の体があるんだよなあ……こうして見ても、なんかすごい光景だ。
元になった蜘蛛はなんなんだろう? 全然詳しくないからわかんないや。
『ふむ、足の形は地球のジョロウグモに似ていますね』
ほほう、なるほど。
蜘蛛ボディは黒い装甲で格好いいけどね……足の方はなんか、艶めかしいって感じなんかな?
恐らく元人間のボクとしてはピンとこないけど、格好いいとは思うなあ。
「私の体が気になるのォ? うふふ」
前向いてるのにバレた!?
な、なんで……いや、このまま黙ってたらただのHENTAIだ!
「格好イイナアッテ……スイマセン!」
「まァ! ふふふ、子供みたいでかわいい!」
なんかツボにはまったみたい。
訴えられなくってよかったなあ……
『(こいつヤバいっしょ)』『(末恐ろし虫……)』
「おや、タヴィアちゃん。今日はまた随分な男前と一緒だねえ」
「でしょォ? 専属の冒険者よォ、うふふ」
お肉屋の店主さんは、猪系のけもんちゅおばさんだった。
タヴィアさんと楽しそうに話してる。
ボク? 倉庫から干し肉を運び虫と化していますよ。
ご飯のタメですからねえ……! あ、このお肉むっちゃいい匂いする……!
「にいさん、タヴィアちゃんのいい人かい?」
「オ客デスゥ……ット」
ふう、これで全部かな。
かなりの量だけど、お酒もお肉も長持ちするんだろうね。
一気に仕入れるタイプか。
「コレデ全部デスカネ?」
「はぁい、ご苦労さまァ。助かるわあ、男手があるとォ」
タヴィアさんはパチパチと手を叩いて喜んでいる。
「ライラさん、またウチにも来てねェ。マデラインからいい干し魚が届いたのォ」
「そいつはいいねえ、アンタのとこは酒も質がいいし、ついつい長居しちまうんだよ」
あ、わかる。
こじんまりしてるけど、落ち着く環境だもんねえ、あのお店。
「それに、五月蠅い酔っ払いや変なのもいないしね」
「お客を選んでるから当然よォ、うふふ」
完全に偏見だけど、出禁のヒトとか結構いそう……
「ああ、それで思い出したよ……タヴィアちゃん、オログの奴がまたうろついてるから気を付けな。最近ロストラッドから帰ってきたんだよ」
「んまァ、向こうで死んでりゃよかったのにィ。アイツってしつっこいから嫌いよォ」
言葉が強い!
……察するに、出禁にでもしたヒトだろうか。
「あーやだやだ、未練がましい男ほど嫌なもんはないね。誰が見たって脈がないのに口説ける図太さだきゃあ尊敬するよ」
「うふふ、本当ねェ。ムークさんも気を付け……なくっていいわねェ? とおってもいい人だもの」
「アハハ……」
愛想笑い虫と化したボクである。
口説くなんてどうすればいいのか皆目見当もつかないよ。
『ここに素敵な女教師がおるじゃろ~?』
……もうちょっと大人になってからでいいかな~?
だってホラ、ボクってば生後一年未満ですしお寿司。
……あ! ヤマダさんにお寿司のこと聞くの忘れてたァ!!
『色気より食い気虫……』
そうですが~?
・・☆・・
「ッチ……ムークさぁん、嫌なのがいるから黙っててェ。私が相手するからァ」
お肉を荷台に積み、お店を出発。
あとはタヴィアさんのおうち兼お店まで帰るだけだったんだけど、その帰り道でいきなり言われた。
なんか殺気立ってるね……?
ここは本道じゃない脇道で、そんなに道幅はない。
その道の先に……集団がいる。
先頭でこっちを見てニヤニヤしているのは……ブルドッグに似ているけもんちゅだ。
その後ろには、同じようなワンちゃん系の男たちがいる。
「よぉ、久しぶりだなタヴィア!」
ブルドッグ系のけもんちゅは、そう言って手を上げた。
……ヒィ! タヴィアさんから殺気みたいなふいんきが!!
「……そうねェ、まだ生きてたなんてビックリよォ、オログ」
あ! その名前さっき聞いた!
タヴィアさんに横恋慕してるっぽい男の名前!
「おいおい冷たいじゃねえか! お前に会うために戦場から帰ってきたってのによお!」
「あっそう、別に頼んじゃいないけどォ? ご苦労サマだけど、出禁は解除しないからねェ」
このワンちゃん凄いな……100%嫌われてるのになんで話しかけられるんだろ。
いくらなんでもこのニブニブ虫むっくんでもわかるよ?
『ニブニブニブニブニブ虫が何を?』
増えてる!? ナンデ!?
「まあまあそんなに怒んなって、あの時はちいっとヤンチャしすぎただけだろ? 金は払ったし、もう勘弁してくれって」
「アンタがのたれ死んだら勘弁してあげるわァ? じゃ、お店の準備があるから行くわねェ?」
タヴィアさんは完全に無視して歩き出す。
ボクは後ろに続く。
「おい、待てよタヴィア――」
横を通り過ぎるタヴィアさんに手を伸ばすオログ。
だけど、その手は虚空で強く弾かれた。
……タヴィアさんが素早く払ったんだ。
「――触るんじゃないわよォ? アンタ、ほんっと臭いわァ」
「……ぐ」
ひええ……眼光がコワイ! 見た感じガタイのいいオログが気圧されてる!
「ねェ、女なんて河原の小石くらいいるんだからさァ……とっとと別の探しなさァい? じゃあねェ」
カツカツ、と綺麗な足を動かして去るタヴィアさん。
その横で、オログはなんか……顔真っ赤にしてない!? これやっば!?
「このアマ、馬鹿にしてんじゃね――」
ひいやっぱり!? むっくん衝撃波ダッシュ!
オログの振り上げた拳は、慌てて割り込んだボクの顔面に激突して――
「おぎぃいあ!?!?」
手首が曲がっちゃいけない方向に!?
これ……折れちゃった!
えっえっ!? なんで!? ボク普通に魔力循環ガードしただけだが!?
「うぐおおおおお……! な、なに、なにしやがる……!!」
「エエエ……」
なんか、骨がもろくなる呪いでもかかってたん……?
「ほらァ、あの馬鹿療法院に連れてってあげてェ? こォんな往来で迷惑よォ?」
タヴィアさんは、オログの連れにそう言って……さっさと歩き出した。
連れのワンちゃん連合軍はなんか……笑うの我慢してる感じ? オログってあんまり好かれてないんかな?
「荷物持ちさァん、早く~。お給金払わないわよォ~?」
あっはい! 行きます行きますゥ~!
「あっははは! おっかしィ! アイツの顔ったら見たァ!? ふふふ! ふふふふ!」
爆笑だ、爆笑である。
荷車をゴロゴロしてお店まで帰って、室内に入るなりタヴィアさんが爆笑している。
「ふふふ……でもォ、ごめんねェムークさん。私がわざと殴られて半殺しにしてやるつもりだったんだけどォ……ムークさんの動きが速すぎて失敗しちゃったァ」
「イヤア……全然痛クナカッタシ、別ニ……アイツ、骨ノ病気カ何カデスカネ?」
そう聞くと、タヴィアさんはぷっと噴き出した。
「骨の! 病気! ほねの~! あーははは! はははは~!」
むっちゃ楽しそう……




