第136話 修行虫、もしくはボロボロ虫。
「南域の戦線は安定しているようです。黒い魔物が多いですが、ミレシュに集中しており他の街の被害はないとのことですよ」
「ヨカッタ……」
朝。
ご飯の後に寛いでいたら、丁度イセコさんがいたので南の状況を聞いている。
「お頭も向こうにいますが……お頭がいることで、ミレシュの方々の士気が連日高く……今の所援軍は必要ないとのことです。他家の援軍は、周辺の警戒と警備に散っています」
「ナルホド……」
当たり前だけど、この国に強い人がゲニーチロさん以外いない訳じゃないもんね。
確かミレシュってのはあの人が巨人の群れをコロコロして救った所か……銅像もあるっていう。
そりゃあ士気だってストップ高だろうねえ……
「ア、チナミニ『仕事』ノ予定ハ……?」
そう聞くと、イセコさんは微笑んだ。
「以前のオルクラディの件があって、怪しげな輩が慌てて動き出しております。現在、トリハ家とノキ家と合同で……ええ、『ゴミ掃除』をしております。ですので、今はごゆるりと」
「ニャルホド……」
おおう……ボクの出番はなさそうだ。
「ハイ、武術ノ稽古トカシテマス……」
「それは素晴らしいことです! ソイチロ先生は、大人が請うても中々教えを授けて下さらぬ御仁です……きっと、ムーク様のためになります!」
お目目がキラキラのイセコさん……ロロンみたいでかわいいね!
え、ていうかソイチロ先生ってそういう方だったの……?
孤児院にホイホイお稽古に来るくらいなんだから、弟子がワンサカいると思ってたのに。
「とのことですので、申し訳ありませんが私は今日も別行動となります……!」
ぎりり、と歯を噛むイセコさん。
そ、そんなに気にしなくても……あ! そうだ。
今渡すのがちょうどいいね。
「イセコサン、コレヲドウゾ」
バッグから取り出したものを渡す。
「これは……?」
イセコさんに渡したのは、木で作ったお守り。
将棋の駒の形にした木片にロロンの作った汲み紐を結んで……アカが祝福パゥアーを込めた物。
表面には『伊勢子』を崩した文字を彫っております。
裏面には『安全第一』をね!
「以前オ守リヲイタダイタノデ。オカエシデス……ボクノ腕ハトモカク、アカノ祝福ハ御利益アリマスヨ!」
「っこ、こここここんな素晴らしいものを……! 私に!」
なんか小刻みに震えていらっしゃるね……喜んでもらえたんだろうか。
「頑張ッテクダサイネ、イセコサン」
「――はい! はい! お任せを! そ、そそそそれではっ!」
イセコさんはボクの手をギュ~!!! って握った後、消えちゃった!
……急いでたのなら引き止めて悪かったなあ。
『あーあーあー、クソボケ虫』
なんで急に悪口言うのトモさん!?!?
・・☆・・
「さて、以前教えた魔力の循環はいわば内向きの修行。此度教えるのは外向きの修行じゃ」
「ヨロシクオ願イシマス! 先生!」
お昼過ぎ、木刀だけを持ってソイチロ先生とギリコさんがやってきた。
先生たちは子供たちへ一通りの稽古をつけて……校庭の片隅で虫座禅を組んでいたボクを呼んだ。
「うむうむ、良い返事じゃ……ギリコ」
「はい、じじ様」
木でできたナギナタを持ったギリコさんが、ええと……タヌキガケ? をしている。
『た~す~き~』
そうそれ!
……で、どうするの?
ギリコさんと試合? ボコボコにされる未来しか見えないんですけど。
「それでは……ムーク殿、今回お主に教えることは『防御』じゃ」
「ボウギョ」
ソイチロ先生は頷く。
「いささか伝手を使って調べたがの、お主……回復術式が得手と見えて、少々防御がおろそかではないかな? 手足が生えるのはなるほど凄まじいが、連戦においてその隙は致命的となるぞ」
「ハイ……」
よくご存じでいらっしゃる……この人もゲニーチロさんみたいに顔が広いタイプか!
「なので……これからしばらく、ギリコにひたすら殴られてもらう。おお、スマンが反撃はナシでな」
にゃるほろ……よござんす!
どうせ試合しても同じようにボコボコになるだろうしね!
『負の自信虫……』
そうでーす!
「防御においては好きにせよ。体表面に魔力を纏わせても構わん、だが逃走はいかんぞ」
「ハイ! オネガイシマス!」
あ、じゃあマント脱いで……ヴィラールさんの魔法具も外してっと。
さすがに結界は駄目だと思うしね。
「持ッテテ~」「あい~♪」
ちょうど近くにいたアカに渡しておく。
彼女はマントのオバケみたいになったけど、とっても楽しそうだ。
和み虫になっちゃう……
「では、始めようか」
「アッハイ」
いかんいかん……よし、魔力オン!
「ムークさん、よろしくお願いします」
「ハイ!」
ギリコさんがナギナタを構えて、きりりとした表情。
「うむ……では、始め!」
――ぼっ、と風が鳴った。
「ンギィ!?」
太腿に薙刀が!?
ソイチロ先生よりは見えるけど、それでもとっても速い!
「はぁあッ!!」「メギギギ!?」
まただ!
太腿からの――鳩尾と肩への三連撃!
「グヌゥ……!」
これは、ソイチロ先生と同じような動きだ!
見えてるけど、自然すぎて反応が遅れる!
脳が騙されるんだ! 知らんけど!
「ほれ、循環を忘れるな。魔力を巡らせるのじゃ」
痛かったから忘れてた!
「せぇえいっ!!」
うごごご、一息で連撃するのやめてくれませんかね!
循環循環――むっくん・エンジンに魔力を注ぎ込め!
「はあぁっ!!」
あ、なんかあんまり痛くない! 魔力万歳!
「折角体が硬いのじゃ。その中でも硬い部位で攻撃を受けんか」
なるほど! それならまずは腕でエグーッ!?!?
受けようとしたら脇腹をぶん殴られた! イギーッ!
「見え見えじゃよ。それでは空いた脇を打てと言うようなものじゃ」
そんなこと言われましてもウグー!
首筋! 首筋!!
「ギリコ、手加減するでない。殺すつもりでやれ」
「は、はいッ!」
ちょっと! 先生! 弟子が死にますよ! 具体的に言うとボクが!!
「――しぃいッあ!!」
――殺気! たぶん!
「ヌゥッ!!」
額に直撃したナギナタが――痛いけど……折れた!?
折れた木片は――アカの方に!?
衝撃波ダッシュ! 胸ガード!
「ほえ~?」
よかった、アカは無事だった!
「……やはりの。ムーク殿は【本番派】じゃて」
なんか嬉しそうですね、ソイチロ先生。
「のう、ギリコ。前に言うた通りであろう?」
「はい……!」
ギリコさんもなんか嬉しそう?
なんで? この人って男性をぶん殴ると興奮するとかそういう……?
「では、こちらを使うか」
「はいっ!」
「エエエェエ!?!?」
ちょっと! 虚空から鉄っぽいナギナタ出すのやめてもらっていいですか!?
いくら刃がついてないからって死んじゃうんですが!?!?
「また折れたら、かわいい妖精ちゃんが可哀そうじゃからな」
それはそう! だけど!!
「では行くぞムーク殿。今度はさらに気合を入れよ、痛いぞ?」
容易に想像できグゥエェエ~!?!?
太腿が爆発したァ! せめてはじめい! とか言ってよォ!!
ギリコさんがめっちゃいい笑顔! やっぱりこの人は特殊な性癖なのでは~!?
・・☆・・
「オゴゴゴ……」
「おいちゃん、だいじょぶ?」
校庭に転がっていると、ヘレナちゃんがぽてぽて歩いてきた。
「ソコソコ……ソコソコ……」
すっかり夕暮れ時ですねえ……
結局、ボクはひたすらボコボコのボコにされた。
痛いしキツいし大変だったけど……ソイチロ先生の教えてくれた魔力循環のお陰で不慮の死は避けられました。
すんごい痛かったけど……最後の方には手や足の硬い部分で受け止められるようにはなってきた。
……なってきた、だけね!
1回防御に成功したら4回ぐらいぶん殴られたからね!
「もうすぐごはんよ? あるけるぅ?」
「ムゴゴゴゴ……」
うつぶせには……なれる!
ならば……このまま移動する! 匍匐インセクト、むっくんです!
「アカ、てつだう、てつだう~!」
おお、アカの念動力!
若干体が浮いた……これならホバー移動虫になれるぞ!
犬かきの要領で……シャカカカカ!
『控えめに言ってクソキモいし』
『昔の虫形態を思い出しますね』
女神様が! ひどい!!




