第129話 湿地の女神様がちょっと想像と違ってた!
『湿地の女神教』の教会は、脇道にひっそりとたたずんでいた。
なんとも、落ち着いた感じ。
別にみすぼらしいとかそういうことじゃなくって、質素だけど貧相じゃないって言うのかな?
とにかく、そんな感じでした。
「落ち着いてていい場所だね、ムーク」
「ソウネ~……マーヤ、降リヨウカ」
いまだに肩車状態のマーヤさんです。
「え? 重い? 嫌?」
グゥエ~!?
首に縋り付いてこないで!
苦しい! あったかい! いい匂いがする!
「重クナイシ嫌デモナイケド、教会ニコノ格好デ入ルノハチョットファンキースギル」
「ふぁん、きぃ? あ、うん。そうだね、怒られちゃう」
マーヤはスルっと地面に降りた。
ふう……よかった。
「安心したのナ。あのままだと他人の振りをするところだったのナ」
アルデアは苦笑い。
さすがにあの格好はね……
綺麗って言われて嬉しかったんだろうか。
でも、マーヤならいっぱい言われてるだろうけどなあ……
『(ぶん殴りてえけどこのタイミングで言うとややこしくなるし……命拾いしたな虫ィ……!)』
『(どうしましょう……このままではむっくんが好感度だけ無限に稼ぐ化け物になってしまいます……)』
ぶるる……なんだろうこの寒気は?
「行こう、ムーク」
「しっかり参拝を済ませて美味いものでも食いに行くのナ」
アルデア、こういう所はしっかりして痛ァい!?!?
何故何も言っていないのに……ボクの小指をピンポイントで踏むのォ……!
「これはこれは……ようこそお越しくださいました。本日の目的は参拝でしょうか?」
「ハイ!」
教会に入ると、シスターさんが出迎えてくれた。
各所になんか、棘のついた草? をあしらった紋様がある。
そして……その人は、鱗人だった。
「なんとも珍しい取り揃えですね……ですがご安心を。女神ヨトゥール様はどなたにも安息と安寧をお与えくださいます」
そう言って微笑んでいる女性。
てっきり、ゴウバインさんとかトーラスさんみたいな蜥蜴! ワニ! って感じかと思ったけど……やっぱり、どの種族も女性の方がもとになった生き物? 要素は薄いみたい。
このシスターさんも、よく見たら額とか頬、それに首のあたりには鱗があるけど……普通の綺麗な女性だ。
そういえばボク、鱗人さんの女性見るのって初めて。
あ、でも目は爬虫類っぽいね……同じ爬虫類でも、テオファールとはまた違った感じだなあ。
「アリガトウゴザイマス」
ジロジロ見るのはとっても失礼だから、頭を下げておく。
でもボクのお目目は光る球体みたいなもんなので、こういう時には若干便利。
何故か皆にはどこを見てるかすぐにバレがちですけども。
不思議ダネエ?
『仲間の前でリラックスしているむっくんは……体が五月蠅いので』
ソウデスカ……ソウデスネ……
気を取り直して、奥へ。
教会としての造りはどこでも同じ感じっぽいね……
長椅子が左右に並んだ空間の先には、女神像があった。
「ホホーウ、これがヨトゥール様なのナ? (……てっきり大蛇だと思ってたのナ)」
「長い、おっきい、綺麗」
アルデアが小声で言ったけど、ボクもそうだと思ってたよ。
しかし、これが……女神ヨトゥール様かあ。
ウエーブのかかった長い髪。
すっと伸びた鼻筋。
目元は……なんだろ、目隠しで塞がれている。
口元は薄く微笑んでいる。
金属製の鎧を着て、両手で綺麗な長い槍を持っている。
その鎧も、何ていうかな……ええと、ああ! ビキニアーマーだ!
とってもセクシー。
そして……下半身は、蛇。
力強くうねる蛇だ。
蛇の体には、ところどころに蛇腹状になった鎧が装着されている。
つまるところ……ヨトゥール様は、下半身が蛇のとっても綺麗な女のヒトの姿だった。
『むっくんはまだ出会っていませんが、ラミア種の方々によく似ていますよ』
あー! 既視感ってそれか!
にゃるほろ……こんな感じなのね、ラミアさん。
「ムーン……」
これは、木像にし甲斐がありますねえ!
お祈りしながら目に焼き付けておかなきゃ……ナムナム、ナムナム。
あ、トモさん! 今更だけどヨトゥール様って偶像崇拝禁止とかないよね?
木像にしたら怒られるとかないよね~?
『お馬鹿虫……目の前にあるのはなんですか?』
そ う で し た 。
これはお馬鹿インセクトと言われても仕方ない……
「とても熱心にお祈りされていますね。ヨトゥール様もお喜びでしょう」
シスターさんに褒められちゃった、えへへ。
「この男は見目麗しい女神様たちの木像を作るのが趣味なのナ。ほれ、見せて差し上げるのナ~?」
なんかとっても語弊のある言い方ですねアルデア……まあ、いいか。
孤児院で完成した最新の……シャンドラーパ様を!
「コンナ感ジデス」
「まあ……! もしやこれは、月の女神シャンドラーパ様では?」
「みゃあ、帝国で見たことある。綺麗な女神様」
シスターさんも、マーヤもよく知ってるね。
ひょっとして月の民って色んな所で暮らしてるのかも……それなら、よかったなあ。
「ヨクゴ存ジデスネ?」
「ええ、父の友人が北国の出身で……もう亡くなってしまいましたが、よく似た木像を拝んでいらっしゃいました」
ひょっとしてその人も月の民だったのかも。
そっかあ、なんか嬉しいな。
あんなに素敵な女神様なんだもん、もっといろんな人に知られて欲しいなあ。
『むっくんが浮気しとる~! これは問題だしトモちん!』
『まあ! むっくんの節操無しインセクト!』
なんでさ~!!
・・☆・・
「ウマウマ」
うーん、この謎料理とっても美味しい!
スパイシーな薄切り肉と、細切りの野菜が薄い生地に挟まれている。
かかっているソースは、なんか乳製品っぽい感じ! あ、これがヨーグルトソースってやーつなんかな?
なんとも爽やかで、でも濃厚で……むほほ、美味しい!
「美味しい。帝国とちょっと違うけど、こっちの方が好き」
「この酒も美味いのナ~♪ 酸っぱさがまたいいアクセントになるのナ!」
マーヤは耳をピクピクさせながらモグモグ。
アルデアは、レモンっぽいものを絞った火酒にご満悦である。
ヨトゥール様の教会を出て、よさそうなお店に入った。
ハイエナっぽいご夫婦が経営しているそこは、いろんな種族のヒトがいて居心地がいい。
料理もおいしいしね~!
「ハモモ……コレハオ土産ニ買ッテ帰ロウ」
こっちの……コロッケに酷似した料理美味しい!
中身は芋じゃなくって、なんかお豆っぽい感じだけど。
香ばしいし、ホクホクしてて……!
「にいさん、随分美味そうに食うねえ? 虫人にしちゃ珍しいぜ」
嬉しそうな店主さんが話しかけてきた。
むしんちゅ男性は感情を表に出さないというか、寡黙なヒトが多いからねえ。
ボクは厳密にはむしんちゅではないし。
「コイツの中身はたぶん子供なのナ~? ああ、この酒をもう一杯!」
まあ、間違いではない。
「あいよ! アンタもよく飲むなあ! ありがてえが、この酒は強いから気を付けなよ!」
「問題ないのナ! ここに運搬役がいるのナ~♪」
もしかしなくてもこのむっくん・タクシーのことですねえ。
いいけども、置いて行くなんてしないけども。
「あ、ずるいアルデア。私も運ばれたいと思ってたのに」
「問題ないのナ! ムークは頑丈だからマーヤを肩車して、私をおんぶすればいいのナ」
「ドコノ雑技団ナンジャヨ!?」
やだよボクそんなアクロバティックな姿勢で孤児院帰るの!?
『おほ~? 両手に華じゃんむっくん』
両手じゃなくて両肩と腰に華なんじゃないかな?
「おやまあ、仲のいいこって! だけど気を付けなよ、なんか最近眼つきの悪い連中がうろついてるからさ」
女将さんがそう言ってサラダを持ってきてくれた。
「おー、ありゃあどっかの傭兵団崩れだろうなあ。にいさんはともかく、姉ちゃんたちはほんとに気を付けろよ?」
マジで!?
傭兵崩れ……いつぞやの連中を思い出すね……
「ヤダヤダ、折角ノ素敵ナトルゴーンニ……」
「前にも言ったが屑はどこにでもいるのナ。こっちで気を付けるしかないのナ……私の肌に触れようものなら腹を引き裂いてやるのナ!」
そうだよねえ……そして猟奇的!
「大丈夫、ムーク。変なのがいたら、ミーヤを見習って私も『息子』を切り落とすから」
ヒィーッ!?!?
またボクに存在しない器官がヒュッとなったァ!!
「こりゃあ大丈夫そうだな! がっはっは! にいさんのお仲間は女傑揃いだなあ!」
「チンピラなんざ半殺しにしてやりゃいいのさ! いざとなったら衛兵もいるしねえ!」
このご夫婦も過激ですねえ……
「ハムハモ」
最近殺伐にも慣れて来たな……あ、このなんかわかんない料理美味しい!
香辛料の効いた野菜炒め! 美味しい!
「そういえば、それほど離れていないのにミライ飯店には行かんのナ?」
店主さんたちが離れていったので、アルデアが小さく聞いてきた。
他のお店の話とか失礼になるかもしれんからね……
ミライ飯店ね……うん……
「今日ハピーチャンイナイシ、ソレニ……絶対貴賓室ニ案内サレルシ……ソシテ絶対オ金受ケ取ッテクンナイシ……ネ?」
「ふむん……難儀な男だナ? タダで飯が食えるのにナ~?」
「律儀。でもムークはそこがいい所だと思う」
ボクは経済を回したい虫なので!
でも今度ピーちゃんを連れて行こう! それはそれとして!
お店の人も喜ぶだろうしね!




