第127話 増えるお客様。
「ムムン……」
日向のベンチに座って、一息。
今日も今日とて陽気はポッカポカ。
「チュピピヨ……」「すひゃあ……」
太陽光パワーで温まったマントに包まって眠るアカとピーちゃん。
「むぅ……ぬふふ……」
ヴァルはボクの頭でスヤスヤ。
そこで寝られると角に刺さりそうで怖い虫です。
物理的に動けない……まあ、別に動かなきゃいけないこともないけど。
う~ん……今日も今日とて首都は平和であるなあ。
オルクラディの密偵とか湧いたけど、概ね平和です。
南ではブラック魔物が結構出てるらしいけど、こっちではとんと聞かないなあ。
ボクが知らんだけの可能性もあるけど。
だって首都周辺の警備とかとんでもなく強い人たちがいると思うし。
案外、発生した瞬間に狩り尽くされてるのかもしんないね~……
午前中の授業が終わった校庭には、思い思いの場所で遊ぶ子供たちがいる。
寝ている子もいるねえ、この孤児院ってほんとにいいところ。
この子たちが孤児だってこと、ちょいちょい忘れそうになっちゃうねえ。
『嗚呼……小さい虫たちが愛おしい……』
あ、ヴェルママだ。
ママは最近辛いことがあったからね……思う存分癒されて欲しいねえ。
『なんと優しき虫……貴方が木像を配ってくれたおかげで、初々しく純粋な魔力がこちらから昇ってきますよ……なんと幸せなことか!』
ほほう、ボクのSDヴェルママも役に立ってるみたいね。
見ててよママ! これからもどんどん心を込めて量産するからね!
『なんと、なんと優しい虫……! ううう……!!』
『うおおお~! 全力結界! 総員! 対閃光防御~! むっくん覚えてろよてめえ!!』
……ママ、爆発しちゃったみたい。
ボクは悪くないと思うけど、ごめんなさいでした。
シャフさんの木像も頑張って作るからゆるして。
『ぬぐおおお! しゃーなし! しゃーなしだし! あと姉さま方が最近マジで目ェ怖いから他の慈愛教会も回って激エロ木像作れし! つく――ぬわーっ!?』
あ、なんか吹き飛ばされたみたい。
他の慈愛の女神様か……首都にあるのなら寄ってみたいね。
あとで詳しい人に聞いてみよう。
激エロ? 知らない言葉ですね……?
『むっくんも大分慣れましたね、あのノリに』
遺憾ながら一々驚いてたら心臓がいくつあっても足りないのでね。
基本的にいい人ばっかりだからね、さすが女神様ですよ。
ボクは幸せ者ですなあ。
『まあ! 朝からヨイショ虫……仕方ありませんね! トモさんポイントを多めにお出ししておきます!』
わ、わーい……?
「ムーク様、ムーク様ぁ」
ムム! このアルマジロボイスは……ロロン!
「ハイハーイ」
ぱたぱたと足音……しばらくすると、ロロンがやってきた。
この子、朝からお洗濯とかして働いてるんよね……スヤスヤしている我が身が心苦しい。
かといって手伝おうとしても頑なに断られるし……!
「こちらにおいででやんしたか、イリュシム先生がお呼びでがんす~」
イリュシムさんが?
なんだろ……家賃払えとかかな? それなら喜んでお支払いするけど……
『そんなわけないでしょう。むしろそんなことを言い出したら偽物ですよ』
ですよね~。
ええっと、とりあえず行こうか。
妖精たちは……このままここに残していこう。
マントだけ脱いで……ヴァルも頭から降ろしてっと。
トモさん、モニタリングよろです~!
『お任せを。何かあったら言いますね』
は~い。
・・☆・・
「急に呼び出してすみません、少しお耳に入れたいことがありまして……」
校舎二階の奥。
たぶん校長室的な所に行くと、仲間たちが勢ぞろいしていた。
「イエイエ、何デショウ?」
テーブルを挟んで向かいに座ったイリュシムさんは、ボクらにお茶をすすめて話し始めた。
ズズズ……異世界ほうじ茶! 美味しい!
「実は……恐らく本日から、しばらくこの孤児院にお客様が滞在されます」
ほう、お客様。
「ヌ、変な客……ではないナ。そんな連中に滞在を許すわけはないしナ?」
「だよね、宿屋じゃないし」
並んでお茶を啜るアルデアとマーヤ。
うんまあ、そうだよね。
「いえ、お客様はそんな方ではありませんが……実は【デンダ】からいらっしゃるのです」
しいん、となった。
デンダって……イセコさんが言ってた、黒い魔物に滅ぼされたって街じゃん!
ってことは……
「寺院ノ、孤児タチデスカ?」
「はい、その通りです。衛兵や僧兵の方々は別の場所に行きますが……10人の子供たちと、引率の僧侶が3人、こちらに」
なるほどね……
「皆様にお願いしたいことは、子供たちに此度の顛末が伝わらないようにしていただきたいのです。『杖持ち』の方々については、いずれ時期を見て僧侶たちの方から伝えますので……」
うん、それはイセコさんからも聞いてたね。
こちらとしては問題は無いよ。
「ハイ、ワカリマシタ」
わざわざそんなに悲しいことなんか伝えないしね……
妖精たちにも後でしっかり伝えておこう。
「子供たちは『日頃の修行に対するご褒美の首都観光』だと伝えられています。皆様も、それを念頭に置いて接していただければ……」
「ん、任された。問題ない」
「んだなっす! お任せくださっしゃい!」
皆大丈夫そうだ。
っていうかこのパーティの中で一番嘘がヘタクソなのはボクなので……一番気を付けるべきなのはボクですね!
「ありがとうございます、皆様。それでは……よろしくお願いします」
イリュシムさんはそう言って、深々と頭を下げるのだった。
……悲しいことだけど、ボクにできることはないねえ。
せめて、この滞在が楽しい時間になるように心にとめておこう……
「さあ、来ましたよ。皆、準備はいいですか~?」
「「「はぁーい!」」」
しばらく後。
ボクは校庭にいた。
イリュシムさんや職員さん、それに子供たちが前に並んでいる。
門前に2台の竜車が停車して……客車から子供たちが続々と降りてきた。
おー、おそろいの……なんだろ? 灰色の巫女服? そんな格好だ。
なるほど、巫女様の候補って言うくらいだからみんな女の子なのねえ。
むしんちゅは男女がわかりやすいねえ。
「デンダ寺院の皆さん! ようこそ~!」
「ようこそ! ようこそ~!」「いらっしゃ~い!」「こにちわ! こにちわ~!」
職員さんの声に続き、子供たちが口々に歓迎の言葉を口にした。
出迎えられた子供たちは、一瞬驚いたように目を丸くして……わあっと声を上げて喜んだ。
「いらっしゃ! いらっしゃ~!」『遠い所からようこそ! ようこそ! 私はピーちゃん!』
ありゃ、いつの間にか妖精たちもいる!
「ようせいさんだ~!」「すごーい! もりでもみたことないのに~!」「こんにちは~!」
寺院の子供たちは大喜びだ。
うーん、なんと幸せな光景なのだ……
『うう……あの雄々しき虫たちが守った小さな虫たち……健やかに生きて行けるようにヴェルママポイントを……それなりに……それなりに……!』
ママが感無量っぽい。
そうだよね、お爺ちゃんたちが守った子なんだね……うん、ボクもできるだけ優しく接してあげよう。
『デロ甘虫になりそうですね……ああ、むっくんは子供相手には概ねデロ甘でしたか』
そうだけど! そうだけど!!
あ、勿論ボクも子供たちに手を振ってますよ!
ゴッツイ門番さん達と一緒にね!
ボクも含め、みんな子供好き~!
「おいちゃん、ムークのおいちゃあん!」
「ハイハイ、ナンデショ」
寺院の子供たちは歓迎会? 的な催しの為に中に案内された。
それで……しばらくすると、孤児院の子たちと一緒に外へ出て遊び始めたんだ。
引率のシスターさんみたいな人達は、こっちの職員さんとなんか話をしているらしい。
そんな中、モフモフの黒い子犬……ヘレナちゃんが、1人の子供の手を引いてこっちへ走ってきた。
後ろの子は……ふむ、テントウムシ系のむしんちゅちゃんかな!
くりっくりのお目目が可愛いねえ!
「ミチコちゃん! ムークのおいちゃんだよ~!」
「すごーい、ツノおっきい~!」
ミチコちゃんとやらは、ボクの角を見て目を輝かせている。
やはりむしんちゅにとって角っていう器官はかなりの重要品みたいだね。
っていうか触覚って言わないんだね? 今更だけど。
「おいちゃん、おいちゃん」
「ハイハイ、ハイハイ」
ベンチに座っているボクによじ登ってくるヘレナちゃん。
うーん、機敏! さすがけもんちゅ!
「ミチコちゃんも、だっこしてとんだげて~!」
「おそらとべるんでしょ! すごい~!」
ミチコちゃんは更に目をキラキラさせている。
ああ、なるほど……そういうことね!
子供ってすぐに仲良くなれるんだな……コミュ力の化身ですよ、化身。
「ヨッシャヨッシャ、オイチャンニ任シトキナサイ」
ヘレナちゃんを抱っこして立ち上がり……えーと、アカは……いた! ピーちゃん像(偽)の上!
『アカ~、今暇? 一緒に空とか飛ばない~?』
『あい~!』
アカはすぐにボクに気付き、ビュンっと飛んできた。
「さっきのようせいさんだ~!」
「こにちわ、こにちわ~!」
ミチコちゃんに挨拶しながら、アカが頭に着地。
「ヨーシ、ミチコチャンモオイデ~」
「はあい!」
ヘレナちゃんとミチコちゃんを一緒に抱っこして……隠形刃腕でさらにホールド!
「ンジャ、イックヨ~!」
「「わーい!!」」
子供たちの歓声を聞きながら、単独離陸虫と化したボクは大空に舞い上がるのだった。
上空の結界に気を付けながらネ!




