第119話 ぐるぐる巡る魔力虫!
「――よいな、肝心なのは循環よ。巡る動きを途切れさせるでないぞ」
「ハイ……!」
胡坐をかき、左右の手の甲を両ひざに乗せる。
ちょっと仏像みたいな姿勢で……ボクは、目を閉じている。
「腹の下から生じた魔力を、血の巡りと同じように循環させるのじゃ。常にそうしておれば、即座に発することもできる」
魔力……魔力……!
むん、むん、むううん……!
「淀んでおるぞ、早く動かすことを考えすぎじゃて」
「ハ、ハイ! 先生!」
む、むぐぐ……!
これ、本当に難しいな……!
道場に初訪問した翌日。
ソイチロさんは、ギリコさんを伴って昼すぎくらいに孤児院へとやってきた。
子供たちは大喜びで出迎え、あっという間に校庭は即席剣術道場に変わっちゃった。
この世界、殺伐としているだけあって戦う技術への需要が高すぎるんじゃよ……
んで、ボクも再び教えを乞うことになったんだ。
今回のお稽古内容は……『魔力の高速循環』です!
ソイチロさんが言っていた、ボクにも教えられることその1だ。
『お主の特異な戦い方と、魔力は切り離せぬ。魔力の循環に慣れておけば、戦闘における行動が何倍も速くなるぞ』
そう言われて……ボクは異世界座禅を組んでいるってわーけ。
パイルを打つ時に追加で魔力を流したり、電磁投射砲の時にはゴンゴン魔力を使ってたから魔力操作にはちょっと自信があったんだけど……始めてみると無茶苦茶大変なのよ。
循環はできるんだけど、気を抜くとすぐに流れが淀んじゃうの。
「えーい!」「やあ~!」「わう! わう!」
「うむうむ、よいぞ。腕だけの力で振ってはならぬ、胸を意識して振り下ろすのじゃ」
「「「はーい! せんせえ!」」」
子供たちは真面目で熱心だなあ……ボクも見習わないとね!
「アカもすゆ! アカも~!」
アカが飛んできて、ボクの肩に座った。
感触でなんとなくわかるけど、ボクのポーズまで真似して……ふふ、微笑ましいねえ。
「みゅんみゅんみゅみゅ……」
えっちょっとこの子ムッチャ上手!?
魔力が体の中でギュンギュン回ってる! スゴー!?
『私も! 私も~!』
あ、片方の肩にはピーちゃんも来た!
『オンバサラダドバン……オンバサラダドバン……!』
この子も超上手~!?
な、なんてこった……ボクが一番ドヘタクソ!!
『まあ、妖精は魔力の集合体のようなものですし。ヒトが息をするようなものですからね……病気や障害以外で呼吸が不自由な生命体がいないのと一緒ですよ』
確かに……わかりやすい!
なら、ボクはこの機会にしっかり修行せんと!
『2人とも、つまんないだろうけどしばらくそのままでいてくれると嬉しいな。ボクも2人を見習って頑張るからね~』
『あい~!』
『勉強熱心ね! 素敵よ! 素敵だわ~!』
さてさてそれでは……むん、むん、む~ん!
・・☆・・
「ヌグゥウウ……」
たぶん、1時間くらい後。
ボクは地面に寝転がって魔石を齧っている、ボリボリ。
「おいちゃあん、なにたべてるの~?」
ヘレナちゃんではないか。
木刀片手に勇ましいねえ……将来はカッコいい女剣士志望かしら?
「ムン……ハイコレアゲル~」
魔石……ではなく飴玉を渡す。
子供たちが真似すると大惨事なので、孤児院で魔石ボリボリをするときにはかなり気を遣ってるんだよね。
絶対に口に運んでいるのを見られないように。
「わぅう……! あまい!」
ふふふ、飴玉一つでこの笑顔を見られるとしたら激安ですな、激安。
ヘレナちゃんは飴玉をコロコロしながらボクの横に座った。
うんうん、歩き回ってモノを食べない教育が行き届いてるね~。
そして、倒れていてもボクの勘は冴えている。
「ハイドウゾ」
「あむむい……おいし! おいし!」
『柑橘系よ! 爽やかだわ~!』
妖精たちにも飴玉をポポイ!
「どうじゃな? 何か掴めたかのう?」
あ、ソイチロさん……じゃなくてソイチロ先生!
この状態はすっごく失礼なので、ちゃんと座る!
「ナカナカ、上手クイキマセンネ……コンナ感ジデス」
魔力も回復したので、再度循環を開始。
「……ほう、見違えるようじゃ。妖精の魔力循環を参考にしたのじゃな? 今日1日でコレならば誇ってよいぞ」
「アリガトウゴザイマス、先生!」
妖精たちを参考にしたのも、もちろんある。
だけどそれ以上に参考にしたのは……概念だけ知ってる、エンジン!
おなかの下で発生した魔力が、ボクの中でタービンをギュンギュン回しているイメージ!
最近ボクってばロボみたいだなあ……なんて思ってたので、しっくり来たんだよね。
だけどこの概念を説明できる気がしないので、対外的には妖精としました!
「それでは、その状態を維持したまま何が技を使ってみせよ。自分でも違いがわかるであろう」
正直しんどいんですけど……教えを乞うているのでそんなワガママはNOです!
立ち上がって空を向いて……むっくん・ジャンプ!
その頂点で――アフターバーナー点火ッ!!
「――オギャアアアアアアッ!?!?」
いつもの10倍くらいレスポンスが良かったので、ボクは空中に超高速で射出された!
じゅ、循環……スゴイ! いや感動してる場合ではない! 循環を意識して補助翼操作ニャアアアアアアイ!?!?
「ブベエエエエエエ!?!?」
恐るべき速さで反応した補助翼くんは、ボクを即座に校庭に引きずり落とした。
顔面ブレーキ! 顔面ブレーキは痛すぎる!
ち、ちくしょう衝撃波で姿勢制御しなギャアアアアアアアアッ!?!?
「ミューッ!?!?」
重力くんを振り切って横に吹き飛ぶ! ボク!!
「――メギャン!?!?」
そして、突如として出現した葉っぱの山に激突して止まった。
「ムークさん、大丈夫ですか!?」
おお……イリュシムさん! ありがとう!
ってことはこの葉っぱの山はドライアドさんの魔法ですか……凄いなあ。
「ファイ……アリガトゴジャマウ……」
葉っぱの山はお礼を言った瞬間には地面に引っ込み、もう何もない。
こんな魔法もあるんじゃね……
「驚いたであろう? 循環の練度によってそれ程の差がある。じゃがのう、もう少し簡単な事から始めよ」
「ワカリマシタ、先生……」
ぐうの音も出ない虫です。
でも、本当にレスポンスが全然違うや……今まで手癖でやってたから本当にビックリ。
やっぱり、教えを受けるってのは凄いんだなあ……
「ほっほ、だが文句一つ言わなんだのは良いぞ、ムーク殿。最近の弟子共ときたら二言目には『何故ですか?』じゃ。まず初めに、体で覚えねばならん故のう」
「ハハーッ!」
ソイチロ先生と話してると、まるで時代劇の登場人物にでもなったみたいな気持ち!
「うむ、今日はこれにて終了じゃ……常に循環を意識すること、ゆめゆめ忘れるなよ? 実戦において、技を放つ速さが生死を分けることが往々にしてある」
「ハイ!」
体を起こしたボクの目を見ながら、ソイチロ先生は真剣な雰囲気だ。
「よいか、極論を言えば……手足を全て落とされても、同時に敵の首を落とせば勝ちよ。ゲニーチロに聞いたが、お主は凄まじい回復呪法を使えるらしいの? それもまた、魔力循環で速度が変わる……これはの、武術にも通じる技術よ」
「ナルホド……」
とは言ったものの、どういうことじゃろ?
「最も基本的な技を極めれば、それ即ち奥義となる。お主の頑張りに免じて、少しこの爺が見せてやろうかな」
そう言って、ソイチロ先生は両手で杖を木刀のように持った。
「これは、先程子供らに教えた素振りじゃ」
振り上げて、振り下ろす。
フォン、と綺麗な音がした。
「これをの、寝ても覚めてもやり続ければ――」
真っ直ぐ杖を振り上げるソイチロ先生。
「――これに、至る」
……あれ? え?
振り下ろしてないのに……振り下ろしてる!?
えっえっ!? まるでコマ落としみたいに杖が! 杖が消えた!?
「これぞ、轟角流奥義の初太刀――名を、『オボロ』という」
もしもソイチロ先生が敵で、持ってるのが真剣なら……ボクは、何もできずに開きになってるね……!
「ス、スゴイ……!」
「剣にはの、最適な振り方というものがある。全身をあますことなく連動させ、体全てで振る……さすれば、相対しておる相手は自然すぎて『見えぬ』のよ」
「ほわぁああ……!」
いつの間にかボクの横にロロン!?
この子も神出鬼没アルマジロ!
「ロロン殿もよく見ておきなさい。剣と槍に差異はあれど、最適な動かし方を熟知すれば――この通りよ」
またコマ落とし! 一瞬で突きが完了した!
「自然なのじゃ、この動きは。故に、見えておるのに『見えぬ』ということよ」
どうすればできるなんて見当もつかないけど! それでも凄いものを見せていただいた!
「じゃじゃじゃァ! なんとも凄まじいものをば、見せていただきやんした! このロロン、いつかその境地に至るために精進するのすー!」
ロロンは感動のあまり目をウルウルさせながら、アルマジロ土下座!
ボクも虫土下座!
「ほっほっほ、うむ……良いな、良い。若さとは探求心と希望に満ちておるのう……ほっほっほ!」
そんなボクたちを見て、ソイチロ先生はとっても嬉しそうに笑うのだった。
こんなすごい人にお稽古してもらえるなんて……頑張っていっぱい修行するぞ~!!
まずは循環を完璧にするんじゃ~!!
「アカも! アカもがんばゆ~!」
ボクの周囲を謎ダンス周回するアカを見ながら、ボクは決意を新たにするのだった。




