第115話 お久しの姫様と、ご当主!
「まあ、ムークはん! しばらく見ぃひん間に、男振りが上がらはりましたなあ」
「エヘヘ……ゴ無沙汰シテマス」
「アカちゃんも! なんや姿が変わって……格好よくならはったなあ?」
「んへへぇ! アカがんばった! おやびんといっしょ、がんばったぁ」
久しぶりに会ったラクサコさんは、相変わらずとっても綺麗なむしんちゅだった。
サラコさんと一緒に対面に腰かけ、テンションの上がったアカとキャッキャしている。
「ロロンはんも、お久しゅう。お元気そうやわぁ! マーヤはんも!」
「はい! お久しゅうござりやんす!」
「お久しぶり。焼き菓子、相変わらず美味しいね」
ロロンたちも、思わぬ再会に喜んでいる。
「お初にお目にかかるのナ、鎮魂の巫女様。【螺旋大樹】のアルデアなのナ」
アルデアはカップを置いて、背筋を伸ばして頭を下げた。
おお……しっかりしている! ヒィ! なんで横目で睨んだのォ!?
「まあ! 空の民はんに会うのは初めてやわあ……綺麗な羽どすなあ。うち、ラクサコ言います……どうぞ、よろしゅうに」
ラクサコさんも、綺麗な返礼。
『お話に聞いてた巫女様ね! 私はピーちゃん! よろしく! よろしく!』
ボクの肩に飛び移って、翼を広げるピーちゃん。
「美味い菓子を馳走になった……我はヴァルナディーナ。長い故ヴァルでよいぞ、巫女様」
ヴァルは、椅子に座って堂々と挨拶をした。
……ほっぺにクッキーの破片ついてるけど。
「まあ、よろしゅうに。ラクサコどすえ? 話には聞いとったけど、ムークはんはえらいお人やわ、かいらしい妖精が3人もお仲間におるやなんて……まるで物語の英雄みたいやなあ?」
「んだなっす! ムーク様は大英雄でやんす~!」
突如興奮するロロン!
キミはボクのこととなると途端にこうなりますねえ! なんていい子分!
でもいたたまれないからもうちょっと抑えて! 抑えて~!
自己紹介や挨拶も終わって、ボクらはお茶を再開した。
なんとか緊張も和らいで来たぞ……
「ムークはんったら、首都に来たのにウチの家に来てくれへんかったから……サラコおば様に無理言うてお邪魔しましたえ~?」
「スイマセン……!」
ボクの方を見て、少し頬を膨らませるラクサコさんに頭を下げる。
でもまだ一の街に来て3日しか経ってないし! さすがにアポとか取らないと駄目だろうし……!!
ラクサコさん、ゲニーチロさんは『じい』なのにサラコさんは『おば様』なんだ……
アッ! この問題を深く考えるとボクが死にそうなので何も考えないこととする!
なんかそんな気がするので! のーで!
「うふふ、冗談どす。ルツコねえはんからお手紙もろたんで知ってますえ? なんやえらい大活躍やって……お疲れやろ? そないなお人らのとこに押し掛けるわけにはあきまへん」
雅ジョークだったか……命拾いした!
そっか、ルツコさんが手紙を……あの人もマメですねえ!
「ディナ・ロータスと真っ向から打ち合い、退けるどころか痛打を与えるとは……私も、イセコから話を聞いた時には驚きました」
サラコさんはそう言って優雅にお茶を飲んでいる。
「イヤイヤ、ボクダケノ力デハドウニモナリマセンデシタヨ。仲間ト、巡回騎士団ノ皆様ノオ陰デスッテバ」
「コレやもん……ムークはんはほんに、武張らん人やなあ? なあ、ロロンはん?」
「じゃじゃじゃ、ムーク様は控えめなお方なのす」
ぶ? ぶば……なんですか?
『武張る……強く、勇ましい振る舞いをするという意味ですね。要はもっと功績を誇ってドヤ顔してもいいのに~? ということです』
トモさんペディア助かる!
でも……それはボク的に難しいなって?
どうにもそういうの、得意じゃないのよねえ。
「ん~……でも、ムークはそういうの難しそう。それに、なんか似合わないかな?」
「遺憾ながら私も同感ナ。コイツが急に威張り出したら頭の病気か呪いなのナ。療法院に担ぎ込むやもしれんのナ」
よくわかっていらっしゃる……アルデアがいやに具体的ですけども!
「ふふふ、せやなあ。確かにそうやわ、ムークはんは優しゅうて強いお方やもんなあ」
「そう! おやびん、やさしい、ちゅよい! だいしゅき!」
「モモメメ」
アカが笑顔で飛んできて、ほっぺに突撃!
ンモー……可愛いんだから! カワイイんだから~!
「カワイイカワイイネ~? エエ子ジャネ~?」
何も困らないので撫でておこう! 撫でておこう!
一緒に飛んできたピーちゃんもだ!
「きゃーはは! あははぁ! んん~! あはぁ!」
『ムークさんのお手々はあったかいわ、あったかいわ~! さっちゃんみたいだわ~!』
最大級の評価をありがとう! ピーちゃん!
「ふふ、やっぱり……さっきのはナシ。ムークはんはその方がええなあ」
ラクサコさんは、妖精たちとキャッキャするボクを見てニッコリ笑うのだった。
えへへ、何か知らんけど喜んでもらってよかった!
『(コイツいつかえらいことになると思うし……お隣ちゃんはなんでそんなニコニコしとるん? こわ……)』
『(担当の転生者が無自覚に好意をばら撒いていて大変感無量です。震えが来ますね)』
・・☆・・
「大奥様、少し……」
ラクサコさんも交えて、これまでの旅の話なんかをしていると……黒子さんが現われて、サラコさんに耳打ち。
この人は……ガタイがいいから男性かな?
「……あら、戻ったのね。こちらに? ……お待ちなさい」
サラコさんはこちらを向いた。
「皆様、急な事でございますが……当主が挨拶をしたいと申しておりますの。いかが?」
当主って、ゲニーチロさん……じゃないね、この言い方だと。
ああ、そもそもあの人引退したって言ってたし……じゃあ、息子さんか娘さんになるんかな?
「エエ、ボクハ構イマセンケド……ムシロ大丈夫デショウカ?」
バリバリに普段着ですけど。
普段着というか普段マントですけど。
「こちらからお招きしたのです、お気になさらず」
むーん……ならいいのかな?
皆の顔を見ると、特に嫌がってはいないようだ。
妖精たちはよくわかってないけど。
「デハ、オ受ケシマス」
ぶっちゃけこの場で『嫌どす~!』とは言えないと思うけどね。
実質一択でございますよ。
「――ご入室!」
しばらく後に、そう声がかけられた。
さっきまでとは違う雰囲気に、ボクらは全員立ち上がった。
だって当主さんだしね? 相手は。
座ったまま『オッスオッス』ってわけにはいかんでしょ。
まあでもボクは……両肩と頭に妖精乗ってるからどうなんじゃろ。
左アカ、右ヴァル、頭ピーちゃんという鉄壁の布陣です。
控えめに言って最強。
『どういう意味で?』
……かわいさ!
そんな話を脳内でしていると、扉が開いて……むしんちゅさんが入ってきた。
「――皆様、お寛ぎの所無理を言って申し訳ございません」
低く、落ち着いた声。
黒っぽい体に、暗い赤色のマントを羽織った……男のヒトだった。
額から伸びる角は一本で、槍の切っ先みたいになっている。
身長は…ボクより高いなあ。
一本角のカブトムシさんだ、角以外はゲニーチロさんによく似てる……というか、ゲニーチロさんよりもこう、厚みがある。
甲殻は輝いて艶々で……うん、格好いい!
縦にも大きく、横にも大きい……つまるところとっても強そうなむしんちゅさんだ。
「私は、ダンジロ。ザヨイ・ダンジロと申します」
ダンジロさんは、そう言って頭を下げた。
「ムークデス、今日ハオ招キ頂キ、アリガトウゴザイマス」
まずボクが頭を下げて、皆思い思いに挨拶をした。
「ああ、おかけください。そのように硬くならずとも結構でございますよ」
優しいその声に従って、もう一度ソファに腰を下ろす。
ダンジロさんも、サラコさんの横に腰かけた。
「ムーク殿の、いえ皆様のことは父上から聞いておりまして……いつかお目にかかりたいと思っておりました。ラーガリでは、誠に父上がお世話になり申した」
父上……やっぱりゲニーチロさんの息子さん!
えっと、前に孫もいるって言ってたから……この人は子供がいるくらいのお年なんだね。
むしんちゅの男性、見た目で年齢がわからなすぎる問題。
子供はさすがにわかるけどさ、小さいから。
「しかし成程、市井の噂の通りでございますな。私も遠くから見れば、新たな兄弟衆かと思う所です」
ダンジロさんは、ボクを見て頷いている。
逆に近くから見ればわかるのか……お身内ゆえの勘とかそういうのかな?
「アノ……ゴ迷惑ヲ」
「いえいえ、滅相もございません。むしろこちらの方が心苦しいことです……何分、腹違いの兄妹は多うございますので、当家としては真実でも何ら問題はないのですが……違うとなると、ムーク殿にこそご迷惑をおかけしております」
ゲニーチロさん……やっぱり昔の戦国武将みたいだ。
ここまで来ると奥さんと子供が何人いるか気になる虫です。
聞けないけど。
「ゲニーチロの身から出た錆です。いかに武家の棟梁とはいえ、あの男はいささか色を好みすぎます……ダンジロは真似をしてはいけませんよ」
「母上、真似なぞできませんよ……私は妻三人養うので精いっぱいで御座る」
……ん?
今シレッと三人って言った!?
『さっきむっくんが言ったように、日本の戦国武将みたいなものですよ。それなりの家格のお家は、子孫のことも考えて配偶者を複数娶るのが普通なのです』
おお……こんな所で異世界を実感するとは……
『ぶっちゃけ嫁も旦那も何人いてもええし。大事なのは幸せかそうじゃないかってことだし……ちなみに大角じーちゃんは慈愛陣営からも高評価よ? 無理強いして嫁さんにした人なんか一人もおらんからね? パイセンから聞いたけど』
そうなんだ……なんか納得はできるけど。
ゲニーチロさん、懐が深そうだもんなあ。
じゃなかったら、あんなに四方八方から人気者にならないよねえ。
「――ご当主、南より伝令が参りました」
ダンジロさんの背後が歪んだ!
お家なんだから普通に歩いて来ればいいのに、黒子さん。
「ぬ、そうか……皆様、申し訳ありませんがこれで失礼いたします。どうか、ごゆるりと」
ダンジロさんはそう言って立ち上がった。
南……また何かあったんだろうか。
黒い魔物がまた出たのかな……
「おお、忘れていた……これは我が妻たちからです。妖精の皆様に、是非と」
ヒィーッ!? 虚空からお皿に乗ったお菓子の山が! 山が!?
「わはーい! おにーちゃ、ありあと! ありあと~!」
『お菓子はベツバラよ! ベツバラだわ~! ありがとう! ありがとう!!』
「おお! これは素晴らしい……感謝するぞ、うむ!」
妖精たちの感謝に嬉しそうに頷いて、ダンジロさんは部屋を出て行った。
うーん……優しい人しかいないね! マジで!!
・・☆・・
「話に聞いていた通りの御仁だ。いささか心配になる程の善人だな、彼は」
「でなければ、あれほど妖精が懐くわけもないかと」
「しかり、しかり……問題あるまい。アレならばやかましい親族共も何も言えまいて」
「実際にお会いすればすぐにおわかりかと」
「うむ……ノキとサジョンジの件もある故な。ムーク殿には引き続きイセコについてもらおう……あの娘があれほど嬉しそうなのは初めて見たぞ、春が来たな、ははは!」
「左様で……」
「さて……南の件に移るか。父上に申し付かった故、首都の守りは盤石にせねば」
「御意」
※宣伝
『無職マンのゾンビサバイバル生活 欲求に忠実なソロプレイをしたら、現代都市は宝の山でした』は角川BOOKSより絶賛発売中! 電子版もありますよ!!
書き下ろし短編あり、加筆修正あり! 何より神奈月先生の美麗イラストあり!
よろしくお買い上げのほど、お願いします!
※SNS等で感想を呟いていただけますと、作者が喜びます。
是非お願いします!
是非お願いします!!




