第110話 孤児院満喫虫。
「こっち、こっちぃ!」
「まてー!」「あはは! まってまってぇ!」
『こけないように気を付けるのよ! 気を付けるのよ~!』
デジャブを感じる……!
目の前では、運動場で遊ぶ子供たちの姿。
そこに、アカとピーちゃんが混じっている。
無限鬼ごっこ……無限鬼ごっこだ! あの伝説の……!
『前にも言っていましたが、伝説とは?』
わかんない!
ピーちゃんが歓迎されてポロポロ泣いちゃってから、しばらく。
元気を取り戻したピーちゃんは、イリュシムさんと話をした後に……こうなった。
この『ミカーモ孤児院』は、本当に学校みたいな感じだった。
ここにいる子供たちは、年齢別にある程度クラスが分かれている……学年みたいな感じね。
んで、彼ら彼女らは今は自由時間なんですって。
しっかりした孤児院ですなあ……
「ピーちゃん、よかったのす~!」
ボクの横でロロンが楽しそうにしている。
ここは校庭の横に設置してあるベンチだ。
ボクらは、子供たちを見物しながらお茶をいただいている。
「話には聞いていたが、随分しっかりした孤児院なのナ。ピーちゃんのお知り合いはとても素晴らしい方だったのナ」
すっかり酔いの冷めたアルデアがお茶を啜っている。
「うん、そうだね。子供たちがみんな楽しそう」
マーヤも寛いでいる。
この子も酔いが醒めるの早いねえ……
「お頭がこちらから引き取った子供たちも多いのです。みんなとてもいい子ですよ」
イセコさんはちょっと嬉しそう。
ああ、そういえばそんなことを前に聞いたなあ。
ご立派だ……ご立派むしんちゅだ……
『あの虫にはヴェルママポイントを湯水のごとく与えようとして……部下に止められました。何故でしょうか……ゾゾルゾル』
『桁がヤベーんすよ、桁が。種族愛強すぎなんすよ、メイヴェル様は……ゾゾゾルゾゾル』
今食べてるのはママが打ったうどんなんかな。
お腹空いてきた虫です。
「うむ、よい場所だ。愛と安寧に満ちておる……よいな、よい」
ヴァルは本当に子供が好きだなあ……ボクの肩に乗って、本当に嬉しそうに微笑んでいる。
いい所だよね……ここ。
悪徳孤児院とかならまずヴァーティガが大暴れするんだろうなあ。
……ヌ!
誰ですかボクのマントを引っ張るのは……?
「アラ、コンニチハ」
「こにちはぁ」
足元に子供がいた。
かわいいねえ! 黒いワンちゃんだねえ! かわいいねえ!
男の子かな? 女の子かな~?
「ん、んう~……」
その子はボクの膝に飛びついてきた。
お~? 抱っこして欲しいんかな?
「ドシタノ~? ヨッコイショ~」
抱え上げて膝の上に乗せる。
あ~ら、お目目が青い! とっても綺麗!
将来は美小女かイケメンになるねえ! きっとなるねえ!
「わぅ……ようせいしゃん~!」
その子は肩に乗っているヴァルが気になるようだ。
小さくてフワフワな手を伸ばしている。
「おお、元気のいい娘だな。ワレはヴァルナディーナ、長い故ヴァルでいいぞ」
ヴァルはその手をさすってニコニコしている。
へえ、この子が女の子だってよくわかったねえ。
「ばるちゃん! あたち、ヘレナ!」
「ほう! 豊穣の女神ヘレナ神から取ったのか。これは将来が楽しみな娘よのう!」
ヘレナちゃんの頭を撫で、目を細めるヴァル。
へえ~、また別の女神様か~。
『お優しくて、とても良いお方ですよ。あと胸がとても凄いです、豊穣とはまさにあのこと……』
そ、そうですか。
「おいちゃんは~?」
「ムークダヨ、ヨロシクネエ」
「わぅう……よろしくぅ!」
あらかわいい! かわいいねえ~?
おいちゃんはキミより年下だけど、かわいいねえ!
「ねえ、あそぼ、あそぼ~?」
「ムーク。誘いを無下にするでないぞ」
はいはーい……っと。
「ヘレナチャン、ソレジャ……オ空飛ンダコトアル?」
「なぁい! とびたい~!」
よーし……あ、無限鬼ごっこ終わってる!
『アカ! 疲れてないならこっちおいで。一緒に飛ぼう!』
『あーい! とぶ、とーぶぅ!』
こっちにアカが飛んできて……ボクの肩に!
「ヘレナチャンダヨ、アカ」
「よろしく、よろしくぅ! アカは、アカ!」
「ヘレナ~!」
アカに興味津々なヘレナちゃんを抱っこ。
隠形刃腕を起動して固定――ダッシュ! ダッシュダッシュ~!
「わ、わわっ」
大丈夫! 絶対に落とさないから――ジャンプゥ!
その頂点で起動ォ! アフターバーナーッ!!
「わぅっ!?」
アカの念動力で、重力くんとおさらば! さーあ上昇するぞ~!
おー! 首都って本当に均等に建物が並んでて、上から見たら綺麗~!
「スゴイネエ、アッ川モアル! ヘレナチャン、見エテル?」
「わぅう! しゅごい! しゅごい~!」
「きれえ! きれえ~!」
「ほう、壮観よなあ……もっと高く飛べ、ムーク!」
はいよ~! 追い魔力追加! 上昇機動虫――!
あ、そう言えば首都って上に結界張ってあるんだっけ?
それにぶつからないようにせんとな~!
「――そこの男!」
はいなんですか?
……ウワーッ!? 竜! 竜が! 飛竜だアレ! 魔物! 魔物~!
『落ち着きなさい粗忽虫! よく見なさい、アレは飼いならされた飛竜ですよ。鞍にむしんちゅさんが乗っているでしょう?』
あっほんとだ……ビックリした。
「ハイ! スイマセン! 飛ンデスイマセン! スグニ降下シマス!!」
「ちょっ!? ちょっと待って! 待てって言ったでしょ~!?」
なんか言ってるけど、降りたら文句ないっしょ!
「ゴメンネヘレナチャン、一旦降リルヨ~」
「はぁい! たのしい! たのしい! またやって! また!」
「ウン、約束ネ~……」
孤児院は校庭が目立つから分かりやすいね、降下開始~!
「おいちゃんすっごい!」「つぎ! つぎおれのせて! のせて~!」「あーずるい! ぼくも~!」
「ハイハイ、オジチャンハ逃ゲナイカラ順番ネエ、順番」
アカの念動力と衝撃波でフワッと着地。
ヘレナちゃんを降ろすと、子供たちがわっと群がってきた。
やっぱりどこの子にも飛行は大人気ねえ。
「わぅう! ムークのおいちゃん、しゅごい! はねみせて! はね~!」
「コンナモノデヨカッタラ……フン!」
ばしゃん、と補助翼展開!
あひゃひゃひゃ!? くすぐったい! 飛びつかないで! 飛びつかないで!!
「待てと言ったじゃないですか! もう~!!」
あ。
飛竜に乗った人も追いかけてきた!
「ひくーたいだ!」「かっこい~!」「ひりゅうかわい~!」
おお、子供たちに大人気だ。
飛空隊? ってのが正式名称なんかな?
初めて見たけど、色んな職業があるんだねえ。
「見慣れない男が空を飛んでたので、話が聞きたかっただけなんですよ~! 物凄い速度で逃げるから追いかけちゃったじゃないですか~!」
あ、それはスイマセン。
「飛空隊の方、どうかなされましたか?」
あら、イリュシムさんまで来ちゃった。
いかん、お客さんなのにちょっとはしゃぎすぎたねえ。
「ああ、イリュシム先生! いえ、こちらの方が飛んでいたので……あの、こちらの関係者さんですか?」
飛竜に乗っていたのは、コガネムシ要素のある女性むしんちゅだった。
モコモコの飛行服を着込んで、目には大きなゴーグルを嵌めている。
「ええ、彼は私共の大事なお客様ですよ。人品にいささかの問題もありません、素晴らしい戦士です」
ボクへの評価が不当に高い!?
たぶんピーちゃんを助けてここまで連れて来たっていうことなんだろうけど、理由は。
「そうなんですか!? あ、あの……一応報告しないといけないので、お名前と何か身分を証明するものを……」
あらら、それは迷惑をかけましたねえ。
身分証……これだな。
「ムークト申シマス。勝手ニ飛ンデ申シ訳アリマセンデシタ」
そう言いつつ、魔導紋を開示。
「ああいえ、厳密に何かが問題というわけではないのです。ですがあれ以上高度が上がりますと首都結界陣に接触――申し訳ェ! ございませんでしたァ!!!!」
うわビックリした! 飛竜から下りたむしんちゅさんがものすごい勢いで土下座ァ!?
わ、わわわ……ザヨイ家の魔導紋、強すぎ……!!
「ザヨイ家の方とは知らず! なんっという失礼を! このトラコ! 一生の不覚ですぅ!」
えーと……どうしよ。
とりあえず立ってもらおうかな!
「大丈夫ナンデ顔ヲ上ゲテクダサイ~!!」




