第109話 『おかえりなさい』
『楽しみよ! とっても楽しみだわ! 心がウッキウキするわ~!!』
「よかた! よかたね~!」
ピーちゃんが、アカと一緒に車内を飛び回っている。
広いねえ……広すぎるねえ……
ミライ飯店の前に横付けされた竜車。
それは……完全に密封された綺麗な箱だった。
ボクが今まで見た中で、一番高級そうな竜車! しかも走竜二頭で引っ張るおっきいやーつ!
中も広くて、ソファーもフカフカ!
フカフカすぎて、酔っ払いのマーヤとアルデアは即スヤスヤしております。
初めは恐縮したけど……外から中が見えないようなスモーク? 窓がついていてよかった。
遺憾ながらボクと妖精たちはとっても目立つしね!
「アノ、アリガトウゴザイマス。後日コチラカラ出向クツモリデシタノニ……」
この竜車には、ボクらの他にもう1人乗っている。
「いいえ、いいえ。私どもがお招きする立場でございますので」
スーツっぽい服を着込んだ、真面目そうな……ヒューマンの女性!
そう! ヒューマン! 人族です! 綺麗な黒髪のメガネのお姉さん!
だぶん二十代中盤くらい!
「影衆の方々からお話をお聞きしておりまして……一日千秋の思いでお待ち申し上げておりました」
彼女は『ミカーモ家』の縁者さんで、お名前は……
『素敵な竜車をありがとう! サチちゃん!』
『ミカーモ・サチ』さん。
ピーちゃん曰くさっちゃんさんに雰囲気がよく似てるんだってさ!
ふーん……さっちゃんさんはやっぱり優しそうな方だったんだねえ。
この人は勿論いい人だと思うよ! だって妖精たちが逃げてないし!
「いいえ……私も、お話に聞いていたピーちゃんに会えて嬉しいです!」
「チュチュピヨ! チュチュン!」
サチさんは嬉しそうに、肩に飛んできたピーちゃんを撫でている。
ここへ来て善人ウーマンに会えるなんて……! 初めにお姿を見た時に若干緊張してすみません!
人族に対する風評被害が酷い! おのれアーゼリオンとオルクラディ!!
「皆様、どうぞごゆっくりなさってください。門まではそうかからずに到着しますから」
そしてこの竜車の行先は……ピーちゃんのいた孤児院!
商家として本拠地はこの二の街にあるらしいけど、ピーちゃんが行きたいのはそっちじゃないからね。
明日あたりに移動を開始しよう……って思ってたから、渡りに船! じゃなくて竜車!
「ヨカッタネエ、ロロン」
「んだなっす、んだなっす~♪」
ボクの横に座ったロロンが、嬉しそうに左右に揺れている。
あ、ここは3列シートになってるんだ。
アルデアとマーヤが一番後ろで、ボクとロロン、それにイセコさんは真ん中。
そして最前列が妖精たちとサチさんになっております! ゴージャス!
ミカーモ家って儲かってらっしゃるんだなあ……
「ムーク様」
あ、はいなんでしょサチさん。
「遅くなりましたが……ピーちゃんを助けて下さって、ありがとうございます」
頭を下げてくるサチさん。
なんと綺麗なオジギ……!
「イイエ~。ボクモコンナ素敵ナ子ト知リ合エテヨカッタデスカラ!」
これは本当! あの洞窟から色々あったけど……やっぱり人助けはしとくもんだねえ!
もっとも、あの場で見捨てる選択肢はナッシングですけども~!!
「ネ~? ピーチャン。 仲良シサンダカラネ~?」
『そうよ! とっても仲良し! ムークさんとはとってもとっても仲良しなのよ~!』
「アカも! アカも~!」
アカも喜びの謎ダンスをしている。
竜車の空気がホッコリしている気がする!
「ふふふ、素敵ですね」
「ソウデショウ! ピーチャンモアカモ素敵デスヨ! 素敵!!」
サチさんは、とっても優しそうに笑っている。
あ~……ヒューマンにもいい人はいるんだ! いるんだ!
「おいムーク、誰か忘れておらんか?」
マントの内ポッケでスヤスヤしていたヴァルが首元まで出てきた。
「キミモネ! 素敵ナ相棒サン!」
「ふぅん……まあ、それでいい。それでな……ぬふふ」
褒めると、彼女はニヤニヤしたまま内ポッケに帰って行った。
照れちゃってか~わい~い! 妖精は素敵な子しかおらんな~!!
「ア、勿論ロロンモイセコサンモ素敵ダカラネ!」
「じゃじゃじゃぁ!?」「あ、ありがとうございます……!」
ウチのパーティは素敵な子しかいないんじゃよ~!
「うにゃあ、私も~?」「ムギー!?!?」
マーヤ! マントを引っ張らないでください!
素敵だから! もちろん素敵だから~!!
・・☆・・
ゆらゆらと竜車は行き、門をくぐった。
どうチェックするんかなって思ったけど、どうやらミカーモ家の竜車は顔パス対象らしい。
一瞬だけ停車して、またすぐに発車。
そうして入った三の街は……二の街と同じ感じだった。
太い道路の脇に、細い道路。
綺麗で整地された空間に、家が建っている。
ふむ……二の街と比べて大きな家が若干多いかな? って感じ。
それに、強そうな衛兵さんが何人かのグループで巡回をしているのも見えた。
ここがトルゴーンの、本当の中心か……広さはどれくらいなんだろ。
三の街、二の街ときて面積的には小さくなってるはずなんだけど……むう、よくわかんない。
ただ、正面遠くの方に見える大きなお城? みたいなのが『評定所』って場所なのはイセコさんが教えてくれた。
たぶん日本で言う所の国会チックな場所なんだろうねえ。
ボクやアカが窓の外を興味津々で見ていると……竜車は停まった。
どうやらここが目的地らしい。
酔いがさめた様子のマーヤたちと一緒に、竜車から下りる。
「オー……」
そこは……うん、こう言った方がいいかな。
学校だ、学校。
そこそこの規模の、二階建て木造校舎って感じ。
壁で囲まれた広い敷地には、校舎と、運動場と、それから体育館みたいな建物がある。
まさに小学校……そっか、これを建てたのはさっちゃんさんだもんね。
参考にしたのかもしれない。
校舎の入口の上には、『日本語』でこう書いてある……『みんな仲良く、楽しく』って! 絶対さっちゃんさんの書いた字だ!
『あの頃のまま! あの頃のままだわ~! 懐かしいわ! なつかしいわ~!』
ミライ飯店からこっち、テンションが上昇し続けているピーちゃん。
彼女はボクの肩、頭、肩を高速でジャンプ移動しながらとっても嬉しそう。
触角に刺さりそうでとっても怖い虫です。
校門っぽい門を潜って、サチさんの案内に従って先へ進む。
玉砂利? が敷き詰められた道の両脇には、綺麗な花の咲いている花壇がある。
そしてその先が校舎に……なんかある!?
雄々しく翼を広げた、とっても格好のいい鳥の像! ボクの2倍くらいあるデカさ!
こ、これがマサカ……
「これは……今から300年ほど間に作られたピーちゃんの銅像です。その当時有名だった彫刻家が、イメージだけで作り上げました……出来がいいのでこのままにしておこう、という判断でこうなりました」
サチさんが困ったように笑っている。
確かに……出来はムッチャいいもん、雄々しすぎる鳥さん。
『私じゃないわ!? 全然かわいくないわ! かわいくないわ~!!』
本人、いや本インコは体を膨らませて抗議しております。
明らかに別の種族だもんね……むむ!
『まーっ!』
ピーちゃんが飛び立って、先に行く。
そこに芝生が敷かれていて、ちょっとだけ盛り上がった場所に銅像があった。
『さっちゃん! さっちゃんだわ! そっくり、そっくりよ! そっくりだわ~!』
何人かの子供たちの銅像の、中心。
その子達を笑って見ている、優しそうな笑顔の……割烹着を着た、初老のご婦人の銅像。
ああ、この人がさっちゃんさんか。
ピーちゃんの言ってた通りの……とっても優しそうな人だ。
その肩には、今度はピーちゃんそっくりのセキセイインコがちょこんと座っている。
『さっちゃん! さっちゃん! 帰ってきたわよ! 帰ってきたわよ~!』
ピーちゃんはチュンチュン鳴きながら銅像の周辺を旋回し、自分そっくりの銅像の横に止まった。
『ごめんね! 長い間いなくなってごめんね~!』
そして、頬を寄せてぽろりと涙をこぼした。
『あうぅうう……よがっだ……よがっだぁあ……!』
シャフさんの方がもっと泣いてる!?
で、でもよかった! 本当によかった! ロロンも感動したみたいでお目目が真っ赤!
拭いてあげましょうね~?
「ピーちゃん!」
銅像に止まったピーちゃんに感動していると、校舎の方から声がかかった。
『まーっ!?』
その入り口にいたのは、褐色の肌に緑色の髪をした……違う!
褐色肌じゃない! 木目! 木の肌だ! 動く木像みたいな、とっても綺麗な女の人!
落ち着いた色合いの、着物によく似た服を着たその人は……そうか! あれがドライアドさん!
ってことは――
『いーちゃん! いーちゃーん!』
ピーちゃんはその人の所に一目散で飛んでいき、周辺をギュンギュン回っている。
「あちらが当孤児院の理事長、ドライアドのイリュシム先生です」
サチさんが教えてくれる。
あ、前に聞いたことある名前!
さっちゃんさんが御存命の時からここにいる人なんだよね! 長生き!
ドライアドは木の精霊だから……アカやピーちゃんの遠い親戚みたいなものなんかな?
『いーちゃん! 綺麗になったわ! とっても綺麗になったわ! アルちゃんもそうだけど、元気でとっても嬉しいわ! 嬉しいわ~!!』
「ピーちゃんの方は変わりないわね。うふふ……まるであの日のまま、素敵ね」
いーちゃんことイリュシムさんは、ピーちゃんを肩に乗せて微笑んでいる。
たしかに動く女神像みたい……この世界って綺麗な人多すぎじゃありません? 別に困らないけど。
「ねえピーちゃん、ちょっと待っててね……みんな!」
イリュシムさんがそう声をかけると、校舎の中からわあっと声がした。
すぐに、わらわらと……子供たちが走って出てきた。
獣人、虫人、鱗人に他にも色々。
様々な種族の小さな子供たちが、手に手に何かを持って走ってくる。
彼らはピーちゃんを肩に乗せたイリュシムさんの周りをまわって――手を振り上げた。
ぱっと空中に散らばった何かが、風に乗って広がる。
「きれえ! きれえ~!」
アカが声を上げた。
それは……花びらの形をした紙吹雪だった。
色とりどりの花びらが、ピーちゃんの周囲を舞っている。
「おかえり! ピーちゃん!」「おっかえり~!」「おかえり! おかえり~!」
子供たちが、口々に声を上げる。
ピーちゃんは、目をパチパチさせながら言葉もなくそれを見ていた。
『――おかえり、ピーちゃん』
子供たちの声に、別の誰かの声が紛れていたような気がした。
ピーちゃんは、ただホロホロと静かに涙を流していた。




