第108話 ピーちゃんは四方八方で人気者!
「失礼します……皆様、お口に合いましたでしょうか?」
がちゃり、とドアが開いて入ってくるむしんちゅさん。
それは……4本の腕と、緑色の甲殻を持った……五代目ゴーサクさんだった。
「ハイ、トッテモオイシイデス!」
左太腿がじんじんするけど、それ以外は最高の状態ですよ。
「おいし、おいし~……」
「むむむう……今まで食ったものの中で一番美味いぞ……ギョーザ……」
アカはぽんぽこのお腹で、ボクの膝の上でごろん。
ヴァルもその横でごろん……なんでホログラムのはずなのにポンポコになるんだろうか、今更だけど。
異世界の神秘ってやーつですな。
『美味しいわ! とっても美味しいわ~!』
食べ過ぎた結果、野球ボールに酷似した姿になったピーちゃん。
彼女は器用にテーブルを転がりながら、五代目さんに近付いていく。
見た目が面白過ぎる。
『ゴーサクちゃんの味とおんなじ! 昔食べたのとおんなじだわ! 懐かしいわ!』
「ありがとうございます、ピーちゃん。そう言っていただけると……感無量です」
五代目さんはピーちゃんをそっと持ち上げて、撫でている。
「代々受け継がれたミライ飯店の味……あなたにそう言われると、それが間違いではなかったと確信できます。まるで初代様に褒められたようですよ……」
『ゴーサクちゃんは、頑張った人はちゃあんと褒めるいい子だったもの! きっとお空の上で褒めてくれてるわ! きっとね!』
五代目さんの目が潤んでいる。
とっても嬉しそう! よかったね!
「とても美味しかったです、お頭も絶賛していましたよ。中々お忍びで来れないのが嫌なようですが……」
「それは……申し訳ございません。その、閣下は……とてもお目立ちになりますので」
そりゃそうでしょ。
他の国でも知られてる大英雄じゃん、ゲニーチロさん。
角をへし折りでもせんと無理では???
「ラーメン、帝国でも食べたけどあっちはメンがデロデロで全然違う。こんなに美味しいなんて思わなかった」
「ようございました。麺はコシが命ですから」
妊婦さんみたいになったマーヤも大絶賛だ。
美味しいからね、ラーメンは……万物に気に入られるでしょうよ!
ボクらは口々に味の感想を言い、その度に五代目さんは嬉しそうにお礼を言ってくれていた。
ヒトの心の機微に疎いボクだけど……この人が本当に料理を食べてもらうのが好きだってのはわかる。
妖精たちが懐いているしね! ね!
「それで、ピーちゃん。少しお願いがあるのですが……」
感謝ラッシュの後、五代目さんが言いにくそうにつぶやいた。
『あらなあに? 羽? 羽が欲しいのかしら? かしら? どうぞどうぞ! あげちゃうわ!!』
「ち、違いますそんな恐れ多いこウワァアア!?」
答えを待つまでもなく、ピーちゃんは羽をブチンブチンと引き抜く!
あっという間に山になった羽毛の小山に、五代目さんは震えて叫んだ。
うん、ビックリするよね………
『大丈夫! ホラもう生えたわ! お守りにどうぞ! どうぞ~!』
「あ、ありがとうございます……家宝にいたします……!」
大事そうに綺麗な紙で羽を包み、丁寧に懐へしまう五代目さんである。
今も震えてる……! まあ超絶レアアイテムだからね……
「い、いえそうではなく……実は、ピーちゃんとお話をしたいと従業員が言っていまして……」
『あら! 構わないわ! 全然構わないわよ~!』
「そうですか! それでは少々お待ちください……お茶をお持ちしますから! おーい、お片づけを!」
「「「ハーイ!!」」」
うわ、一気に店員さんたちが! 機敏!!
・・☆・・
「あの! ヤマコという名前を覚えていますか? あなたに良くしていただいたと……」
『ヤマコちゃんね! よく覚えているわ! 生地を練るのがとっても上手な頑張り屋さんだったわ!』
「うわあ! 婆ちゃんが言ってたのって本当だったんだ! あなたの羽、今でも実家にありますよ!」
『まーっ! 大事にしてくれて有難いわ! じゃああなたにも……はーい!』
「ウワーッ!?」
それから……このお部屋には店員さんがギッチギチに来た。
「自分はガタロの子孫です! ピーちゃんの話は代々語り継がれていて……まさかこうしてお会いできるなんて!」
『ガタロちゃん! 傭兵さんだった人ね! 剣よりも包丁の方が好きだって、いつも言ってたわ! 言ってたわ!』
「えっ傭兵……そうだったんだ……」
『魔王って人の軍隊と戦いに行ったのよ! あの人は何も言ってくれなかったけど、ゴーサクちゃんがとってもとっても強い人だったって教えてくれたわ! 剣で大地竜を真っ二つにしたんですって!』
「嘘……ウチのご先祖強すぎ……!」
店員さんたちは代々ここで働いている人も多いらしく、ピーちゃんが語る当時の話に目を見張って聞き入っている。
「わたし、エツコとタローベの子孫なんです! 2人はピーちゃんのお陰で夫婦になれたって本当ですか?」
『まー懐かしい! そうよ! ルーちゃんと一緒にデートプランを考えて、タローベちゃんに教えてあげたのよ! あの子ったらすっごく奥手だったから!』
「タローベお爺さん、肖像画だとあんなに大きくて格好いいのに……そうだったんですね!」
『そうよ! それにエツコちゃんは元々タローベちゃんが大好きだったのよ! でも気を使って、タローベさんがコクハクするのを待ってたのよ! うっふふ、うふふ!』
「きゃー! 素敵!!」
なんて微笑ましい思い出話なのだ……
「ヒトニ歴史アリ……ゾゾゾ」
ボクはそれを見ながら、出してもらったお茶を飲む。
なんか烏龍茶みたいな味がして美味しい! 美味しい!
「んだなっす……おぷ……」
ロロン! 無理してお茶飲まなくていいから! お腹ポンポンでしょ!
「おしゃけおいし……にゃぅう……」
「たまらんのナ……うぃい~……」
マーヤとアルデアは肩を寄せ合って酔いつぶれている。
清涼飲料水くらいの勢いで飲んでたからね……そりゃあそうなるよね……
ボクはこの記憶が消えるのが嫌なので、一滴も飲んでおりません!
「このお茶……トルゴーン高地の茶畑で選別された一級品ですね。市場にほとんど出回っていない高級品です」
「大事ニ飲マナキャ……アッ」
値段の話で思い出した!
「アノ、ゴーサクサン」
ピーちゃんが店員さんと話しているのを、心から楽しそうに見ている五代目さんに声をかける。
「ココノオ支払イハ、ボクニ回シテクダサイネ」
たぶんお高いだろうけど、諸々でお金持ち虫なボクには関係ないね!
ここで一気に経済をぶん回してやるんじゃよ~!
「お待ちくださいムーク様! ここは影衆で払いを……!」
何言うんですかイセコさん!
「嫌ドス! オ友達ダカラボクガ払ウンデス~!」
経済を回させておくれ~!
「――これは異なことを! ルフト姉さんからしっかりと聞いています! ピーちゃんの命の恩人から、お金など受け取るわけには参りませんよ!」
「エーッ!?!?」
それ以前の問題だった! 嘘でしょ!?
「ソンナワケニハ……!」
「ルフト姉さんもお受け取りにならなかったのです! 弟子筋の私どもがそれを反故にするわけには参りません! 参りませんとも!!」
すると、店員さんたちがこっちに来た。
店主さんを説得しておくれ! 無銭飲食虫にはなりたくないんじゃよ!
「そうです! ピーちゃんは代々このお店の守り神! それをお助け下さった方に!」
「むしろこちらがお礼をお支払いしたいくらいです! ねえ総料理長!」
「みんな羽もいただいておりますし! これだけで十分にすぎますよ!」
「ありがとうございます! それと握手してください! きゃ~♪」
「ああ! 私も! 私も~!」
ウワーッ!? 全肯定店員さんたち!?
なんかすっごい握手してくるし! お手々やわらか! すべすべ!
「従業員も言っていますが……そもそもの話、その、羽だけで貰いすぎなのです。お支払いは本当に結構ですよ」
おおん……これは鈍いボクにもわかる……無理な、無理な流れ……!
くそう! ピーちゃんが超重要妖精で! 羽根をポンポンあげるいい子だから! ちくしょう!
なんていい子なんだ妖精は! チキショーッ!!
「経済ヲ回セナイ……」
「んにゃあ、えへへ……んみゅう……」
せめてもの精神安定として、膝のアカをナデナデすることしかボクにはできなかった……!
・・☆・・
「総料理長! 竜車が着ました!」
「ああ、ありがとう」
宴もたけなわ、っていうのかな?
お茶をいただきながら談笑していると……店員さんが走ってきた。
お、新たなVIPさんかな? それならこのお部屋空けなきゃね!
「ムーク様、イセコ様からあらかじめ予定をお聞きしていましたが……本日、他にご予定はありませんか?」
「アッハイ……ナイデスケド?」
イセコさんは本当に有能だなあ……手を合わせておこうっと。
「お、おやめください!」
めっちゃ嫌がるじゃん……謙虚だなあ……
「それは、ようございました。ムーク様たちを是非お招きしたいと竜車がいらしているのです」
えっ!? さっきの話ってボクらの迎えなん!?
えぇえ……
「アノ、心当タリガナインデスケド……ドチラ様デスカ?」
そう聞くと、五代目さんは嬉しそうな雰囲気を醸し出した。
「はい、『ミカーモ家』の方々でございます」
おーん? なんか聞いたことがある気がする~?
『物忘れ虫! さっちゃんさんが興した商家ですよ!!』
ア、アーッ! そうだった!!
『ピーちゃん! さっちゃんさんのお家からだって!!』
『まーっ!』
驚いたピーちゃんは、ボール形態のまま天井まで飛び上がった。
なんて跳躍力なのだ……
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