第101話 やっと穏やかに過ごせる虫。
「昨日ムークに抱かれる夢を見た気がするのナ。お前まさか……酔った私を?」
むくり、とベッドから起き上がるアルデア。
「シナイシテナイ、シヨウトモ思ワナガヤァアイ!?!?!?」
起き抜けのそらんちゅキック!? 太腿が爆発したァ!!
「嗚呼、なんという戯け者か……」
床でのたうち回るボクを、ヴァルがかわいそうな生き物を見る目で見ていた。
イギ~!? 太腿ある!? ある!? あ、あった……よかった……
「む、ムーク様ァ!」
走り寄ろうとしているロロンを、マーヤが止めた。
「今のはしょうがない。ムークのお馬鹿さん、あはは」
マーヤ! 何がそんなに面白いってのさ!!
「おやびん、あそび? あそびぃ?」
「グウウアアアア……タブンソウ、部分的ニ、ソウゥ……」
首を傾げながら寄ってくるアカを、とりあえず撫でた。
今日は、色々あったけど温泉を堪能した翌日。
結局あの後ボクは、酔いつぶれて寝ちゃったアルデアをおんぶして街まで帰った。
『私の部屋もなんとか元通りになりましたが、ムロシャフト様は目下行方不明です。メイヴェル様に聞いてもニッコリと微笑まれるだけで怖くてそれ以上聞けません』
シャフさん……強く生きて。
でもアレはさすがに擁護できないよ、テンション上がり過ぎだったもんね。
「おやびん、きょう、どうすゆ、どうすゆ~?」
「ウーン……今日ハアカト仲良クシヨッカナ~? コショコショ~?」
「きゃーはは! あはは! あはぁ!」
今日は、とかじゃなくて毎日ですが?
そして何の問題もありませんが?
「昨日一日開けたくらいじゃ、街の方も落ち着いてないだろうし……」
「未だにムーク様の人気が衰えねえのす! まんず当然のことだなっす~!」
朝からロロンのテンションが高いなあ……とりあえず手招き。
「はい! 何か御用で?」
寝たまま撫で~る!
「キミモカワイクッテ人気者デッシャロ~? ヨシヨシ」
「はわぁあ!? はわわ……おもさげながんすぅ……!」
うーん、今日もフワフワですなあ。
「ロロンはここでもご近所の奥さんによく褒められてる。働き者のいい子だって」
マーヤもコクコク頷いている。
どこでもロロンは有能ですなあ……
「ハーヨシヨシ、ハーヨシヨシ」
「はわわ」
追いナデナデを一つまみしておこう。
……あ! 丸まっちゃった! かわいいね~!
・・☆・・
「今更だが最近働きすぎなのナ。少しゆっくりするのがいいのナ~?」
アルデアはベッドに寝転がってゴロゴロ横回転している。
「オルクラディの人族に、ディナ・ロータス。そして先日の大地竜……確かに、そうですね。特にムーク様は連戦しておられるので……」
イセコさんは新しいお茶を注いで、ちょっと困り顔。
「んだなっす。アレほどの大物を仕留めたのす、魔物も散ってしばらくは安全でやんしょう」
ロロンはいただいた野菜に混じっていた果物を剝いてくれている……アレは梨に見えるけど味は違うんだろうね……
「マッタリシタイネエ……アムアム」
やっぱりだ! 見た目は梨なのに柑橘みたいな味がする! 不思議!
リンゴはリンゴの味なのに……美味しいからいいけど!
「まったり、まったりぃ……あむむ、おいし! おいし!」
ボクの手から果物を食べるアカ。
小鳥みたいでかわいい!
『新鮮で瑞々しいわ! 果汁がジューシーだわ~!』
真の意味で小鳥のピーちゃんも大満足。
つつく勢いが凄すぎてボクの手にも振動が! こしょばい!
「ムークの食べてるの美味しそう。ちょうだい」
「イイヨ……何テ?」
「あーん」
口を開けるマーヤ……猫獣人ってやっぱり猫要素多めなのかな、性格的にも。
気まぐれでマイペースって感じ。
「ポポイ」
「んむむ……うん、こっちのほうが美味しい。あーん」
「ポポポイ」
「にゃむむ……」
マーヤの尻尾がグネグネしてる! ワンちゃんのとは違うけど、見ていて面白い。
危ない! アカが尻尾に飛びつきたそうな目付きをしている!
妖精なのに猫ちゃんムーブ!
「ドッセイ」
「あむむい……おいし、おいし!」
ふう、果物を捻じ込むことによって事なきを得た……
「……」
ム! ロロンがこっちをすっごく見てる!
ははーん、食いしんぼめ~! 喰らえ~!
「ポポーイ」
「まめぐ!? んぅう……う、うめめなっす~……!」
喜んでもらえてなにより!
ふっふっふ、親分としてこういう所も気にしないとね!
『まあ……そう、ですね、ええ……はい』
何が~?
「ちょーだい、おやびん、ちょーだい~」
「ハイハーイ」
カワイイ子分しかおらんな! この空間! 幸せ~!
「ロロン、そこの赤いのが欲しいから剥いてくれ、横の緑のもだ」
「はい! お待ちなっせ~!」
ヴァルもすっかり馴染んだねえ……
・・☆・・
「ムーク様、お客様がいらしています」
だらだらキャッキャして寛いでたら女将さんが来た。
お客様~? まさか、また冒険者ギルドの……?
「ああ、先日皆さんに助けていただいたというラジャタ族の方です」
ボクの気持ちを読んだのか、女将さんの補足。
ラジャタぞく~? ……ああ! クロヒョウさんたち!
「落ち着いたのでお礼を言いたいとのことですが……お会いになりますか?」
あの人たちは皆カラッとしたいい人だったし、なにより妖精も怖がってなかったからね。
部屋の中を振り向くと……うん、みんなOKっぽい。
「会イマスヨ」
「そうですか、それではこちらへ」
女将さん、本当にこっちをすごく気にしてくれてるよね……宿代も安すぎるし……
ほんとボク、ヒトと宿の運だけは恵まれてるね!
「こんにちは、皆さん元気そうね」
案内された所にいたのは、エラーンさん。
あれ? 他の2人は?
「あの2人は別行動なの。食事会のね」
食事会?
「ムークさん達、街中どこでも噂で持ち切りだったから……お礼の食事に誘うのも大変そうで。だから一軒貸し切りにしたの」
貸し切り! 太っ腹!!
「それで……よかったら、感謝のしるしとしてご馳走させてくれないかしら?」
既に段取りをしているとは、凄い……!
「おやびん、ごはん、ごはん~?」
「こういった招きは断ると失礼になるぞ、ムーク」
左右の肩からサラウンド妖精。
ふむむむ……
「ミンナ、イイ?」
「んだなっす!」
ロロンは頷き、他の皆も同様だった。
じゃ、お招きにあずかろうか。
・・☆・・
「ムークさん、おいしいかい?」
「オイシイデス! トッテモ!」
モフモフのキツネっぽいお婆さんにそう返すと、ニッコリと嬉しそうに笑った。
「まあ、そいつは嬉しいねえ……妖精ちゃんたち、まだまだあるからね。いっぱい食べな」
「おいし、おいし! これしゅき! しゅき~!」
『お出汁がしみててとっても美味しいわ! 素敵な煮っころがしだわ~!』
「こちらの肉の煮込みもいいぞ。ほのかに辛い味がまた……むもも、むめめ」
アカたちも料理に夢中だ。
ここは、エラーンさんに案内されてやってきた小料理屋? 飲み屋?
彼女たちを助けた時に話題に出てた、『エシュン婆さんの店』だ。
ちなみにコレが正式名称。
料理がね、全部美味しいの。
奇抜じゃなくて、家庭料理みたいなのばっかりなんだけど……なんて言うかな、味の完成度が高すぎる。
ママの手料理、レベル100って感じ?
「エシュンさん、この煮込み! 猪のスネ肉ば、どげにしたらこんな柔らかく……!」
「おやそれかい? ソイツはね、まず茹でてお湯を捨てるってのを2回繰り返して、その後『パラジャの葉』を一緒に入れて水から煮て……」
ほう……この柔らかいお肉にそんな調理工程が……!
『虫にも、いつか母の手料理を振舞ってあげたいですね……』
あ、ママ! そんな恐れ多い……
ところでシャフさん元気? なんか最近来ないけど。
『はて、湖に2日ほど沈めていますが……まあ、大丈夫でしょう』
……女神様は不死身なんだろうけど、そろそろ助けてあげて欲しいなって。
許すことも懐の深さだなって。
『むう……虫に免じて助けてやりましょうか』
よかった! よかった!!
「アルデアさんいい飲みっぷりじゃねえか! こいつは俺も負けていられねえ~!」
「おいらも~!!」
「むははは! 受けて立つのナ! どんどん来るのナ~!!」
「ちょおっと、飲み過ぎよ」
「そうですアルデアさん、また歩けなくなりますよ」
向こうの方は飲兵衛が大暴れしているから……ボクはこっちで美味しい料理を堪能しようかね!
「さっきのお返し、ムーク、あーん」
「ムゴーッ!?!?」
マーヤさん!? 骨付き肉丸々一個は多すぎですよ……美味しい~!!




